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四章11話 隠していた事

 二人の対決にドンドン人が集まり、いつの間にか円となり闘技場が出来上がっている。

 その熱狂っぷりにここの住民ならほぼ確実に足を止め、見入ってしまう。

 バンとフツバが戦っているという情報は水の中に入った絵の具の様に瞬く間に広がっていく。

 そして円の中心ではさらに衝撃的なことが起こっていた。


「周りがうるさいけど関係ないよね。君を全力で潰す。そのぐらいの覚悟じゃないと本当に負けてしまいそうだ」


 バンが様子見や観察をかなぐり捨てて仮フツバを倒す事に全力を注ぐ。

 そして二刀の刀を目の前に縦に刀身が上下になる様に並行に構える。

 その構えはバンが本気を出す時にのみする構えだという事は周知の事実であった。

 

「おい!バンマジだぜ!」

 

 遊びではない事が伝わり更に熱くなる周囲。

 次の瞬間バンに周囲の野次馬、遠くで観察していたレイゼもフツバの行動に目を疑った。


「おちょくっているのか‼︎」


 バンがその眼前の光景に珍しく腹を立てる。

 周りもその行動に引いてしまう。


「これは、あなたが、教えてくれた、でしょ」


 フツバもバンと全く同じ構えをしている。

 バンは二刀だから手の位置がおかしくないがフツバは一つ、鋒が下に向いている方は自然だが、もう片方の手が無意味でおちょくっている様に見えて仕方ない。


「全く、どういう事だ⁉︎アイツはなんなんだ⁉︎」


 レイゼが仮フツバの言動の異質さに驚かざるを得ない。

 軍技にほぼ前動作無しの戦、バンと同じ構えを真剣な顔で構えている。

 こんな人間がこの世界に居るとは思えない。

 ここまで変な事をされてはレイゼが読めなかったこともなんとなく納得してしまう。

 バンと仮フツバの刀と剣がぶつかり合い戦闘が再開する。

 バンが油断のない本気になった事もあり互角に渡り合っている様に見えるが仮フツバの攻撃を完全に見切れずかすり傷が多い。

 しかし、かすり傷では決着はつかない。

 強者同士の戦いは短期決戦になる事は世の理だ。

 奇しくも二人は同じ発想に至る。


「「竹のニ『流転突』」」


 二人が全く同じタイミング使う戦。

 鋒同士が練習をしたかの様に綺麗にぶつかり合う。

 その二つの技がぶつかった衝撃が辺り一体に強風を起こす。

 集まっていた野次馬達があまりの強風で自然と一歩ずつ下がっていく。

 二人は一つも隙を作らず力をぶつけ合っている。

 さっきの戦闘により負荷が多くかかっていたバンの体が悲鳴をあげだす。

 仮フツバが少しずつ押していきバンが押し負けそうになっていた。


ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー


「向こうの方でお前の仲間のフツバとやらがバンと戦っているらしいぞ。見に行かなくてもいいのか?」


 「失敗研究所」の細かい説明を受けていたアトラの元に面長な男が伝えに来る。


「あっちの戦闘区域の方でフツバが戦っているらしいですよ」


 「傷だらけ製薬所」の方のライラに分厚い本を持っている女の子が場所を指さして伝える。

 二人共が遠くに居ても同じ感想を思う。


「これはフツバじゃない」

「これはフツバさんじゃありません」


 先ほどから僅かに殺気や音が聞こえて来ていた。

 ここは竹一族の本拠地だ、大きな戦いが起こっていてもなんら不思議はない。

 この戦いから今まで感じていたフツバの気配は感じなかった。

 二人は断言できる、今戦っているのがフツバじゃないという事を。


「「でも噂じゃフツバだって」」


 こんな狭い規模での情報にそう簡単に尾びれ背びれが付くとは考えにくい。

 真偽を自分の目で確かめるために二人はフツバの元へと走りだす。

 幸いにも二人がいた位置からフツバまでの距離はそこまで遠くはなかった。

 走って向かっていた方向からライラとアトラの中間地点に人が飛んでくる。

 その人は建物に当たり勢いが止まる。


「全く、やり過ぎだ!ここまで大っぴらに戦われちゃあこう大胆に止めるしかないだろうが!」


 飛んできた方向からレイゼが眼鏡を外して怒りながら歩いて来ている。

 壁にぶつかった事による砂埃が落ち着いてきて飛んできた人の顔が見える。


「フツバ‼︎」

「フツバさん‼︎」


 二人が気絶したフツバに近寄る。


「ん?なんだ、二人もこの近くまで来てたのか。ちょうど良かった」


 レイゼが都合よく近くに来てくれていた二人に話しかける。


「またフツバとレイゼさんが戦ったんですか?」


「なんでまた俺が戦わないといけないんだよ。ほら、後ろ見てみろ」


 レイゼが自分の来た方向を指す。

 そこにはボロボロになり足を引きずりながらこっちにゆっくり向かってくるバンがいた。


「バンがあんなにやられてる」


「バンとフツバが戦ってちょっと派手にやり過ぎてたから俺が止めただけだ。見ての通りコイツはバンに勝った」


 レイゼのその言葉に二人共が反応する。


「あれはフツバさんだったんですか?私には、私達にはそんな風に思えませんでした。そうですよね、ライラさん」


 アトラが戦っていたのはフツバではないと直感的に言い当てる。

 ライラもそれには同意だ。


「お前達もあの事は知ってんのか?」


 レイゼが状況を言い当ててくる二人にもしかしたら既知なのではないかと疑う。


「あの事?何の事ですか?」


 アトラにも、ライラにも、全く心当たりがない。

 レイゼの中でフツバに聞きたい事が積もっていく。


「誰でもいいからコイツを起こせ!」


 レイゼがすぐに目覚めさす様に指示を出す。

 ガーリンの弟子という事である程度は許容するつもりだったが先のフツバはもうその許容範囲を超えている。

 レイゼの命令で二メートルほどある巨漢が大バケツに水を汲んで来る。


「退いて」


 低い声でフツバの近くに寄っていた二人に言う。

 二人もいち早く話を聞きたいのでフツバに対しての少し雑な起こし方を許す。

 バケツの水はフツバの顔面に勢いよくかかり、フツバが意識を取り戻す。


「姫さんにアトラ、これは一体どうなったんですか?」


 フツバが気怠げそうな表情で体を起こす。

 体の節々が痛く意識のない間に付けられた傷はいつもに増して痛みを感じる。


「順に説明するなら、お前がバンをここまで吹き飛ばす、お前がバンに危うく致命傷を与えそうになっていたから俺が止める、フツバとバンが戦ってるって噂を聞いて飛んできた二人が合流、お前に話を聞くために起こしたって流れだ。聞きない事が有るかもしれないがこっちの方が確実に多いからこっち優先だ」


 レイゼが淡々と話を進める。

 フツバが隠していた力ももう隠しきれないと悟る。


「分かりましたよ、言える事ならなんでも言いますよ。言っても俺にもこの力はよく分かってないんですけどね」


 会話の内容からさっきまで戦っていたフツバと今流暢に話しているフツバが何かしらで違う事を

周りの察しのいい奴が推測を立て周りに話す。

 

「確かにちょっと殺気の感じが違うかもしんねぇ」


 戦闘組からは殺気が微妙に変化したという情報も付け加えられその推測が正しい事を確信づけていく。

 そんな背後での出来事は気にも止めずレイゼがフツバに話を切り出す。


「アイツには不思議な点がいくつもあった。

一つ、バンと戦った事があるかのような口ぶり。二つ、真体術を使えたこと。三つ、バンの構えを忠実にそれも真剣に使おうとしてた事。四つ、今回のアイツも俺の知ってる未来とは別の動きをした事だ。どうなってる?そして聞きたい。

お前は一体何者だ?」


 レイゼがあげた四つの事にフツバも苦笑が溢れる。

 レイゼがあまりに真剣な表情でフツバを問い詰める。


「その力とか何かはまた私には分かんないけど、フツバは、」


「助けてくれたからいい人。とでも言いたいんですか。今はそういう話じゃない。いい人悪い人の次元じゃない。あんな混ざりまくった戦い方どこで学んだって話です。それに聞きますが、あなた達二人はフツバ君が何者か知ってるんですか?」

 

 バンが傷を治療されながら体験したからこそのおかしさを語る。

 

「フツバはガーリンの弟子で、」


「だからそういう話じゃなくてですね!どこで生まれてどう育って、どうやってガーリンさんと会ったのかそこの話ですよ!」


 バンは今は余裕がなく声を荒げてしまう。

 ライラがその覇気に体が萎縮してしまう。

 いつもならフツバがフォローに入っていたが今は入れる立場じゃない。


「フツバは、東の村で育ったって、」


 ライラが自分のこの発言が知らないという事を暗示している事に気づいて声が縮こまってしまう。

 アトラも何も言うことは出来ずフツバという人間をどれだけ曖昧にしか知らなかったのかが露呈してしまう。

 アトラの中で自分の思う人をこれだけ知らないのになんだか理解できてるように勘違いをしていた悔しさで涙が出てきてしまう。

 その涙をフツバが手を伸ばし拭う。

 俯いていたアトラが顔を上げてフツバを見る。


「大丈夫、アトラ泣くことじゃねぇ。俺が敢えて言ってなかったんだし別にここから俺が悪の大王の生まれ変わりで闇落ちします。なんていう展開にはなんねぇから。ただ俺が隠し過ぎてたせいでこうやって分かってしまう人たちに暴かれただけだ」


 空気が乾き、ピリついている。

 師であるレイゼがいつものように余裕がないだけでここの空気は一変してしまう。

 アトラやライラにはこの空気が敵対してるように感じてしまうのだろう。


「これから俺が今話せる事を全部話します」


 フツバが一度唾を飲み、重い口を開き話し始めた。

 

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