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四章7話 クソガキ

 門の前には階段があり下っていく。

 闊戦宮では新入りを見て、戦狂者でフツバを見てニヤつく者も居れば冷静に帰ってきた百人ばかりを観察しレイゼの頬の傷に気づき目を疑っている者もいる。

 その騒めきは波紋のように広がり大きな騒めきとなる。

 それぞれがそれぞれで騒ぎ収集がつかなくなる。

 数が数だどうやってもまとまるはずがない、一人を除いて。


「フン」


 階段を降り切った百人の先頭に立つ渦中の人物であるレイゼが眼鏡をかけ直した瞬間にまた波紋のように静まっていく。

 ここにいる千を超えるか超えないかという人数が一人の行動で一切の音を立てなくなる。

 真ん中の方で一人がレイゼの方に必死に行こうとしていたのを後ろに立っていた大男が力で黙らせていて竹一族味を感じる。

 

「皆今日は新人が入った。それも三人。そして衝撃報告が二つある。一つ目がこの少女、まぁお姫様の『ライラ姫』なんだがこのお方はなんとパナセアさんの弟子だ。ついでにこの男の子はみんな知っての通りガーリンの弟子だ」


 この広い空間に発せられるレイゼの声は大きくはないのに響き渡る。

 そして局所的に騒めきが起こる。

 その場所を見るにこの戦闘狂達の為に薬を作っている場所に見える。

 パナセアの性格を全員が知っているのに局所的にしか騒がないのはそれだけレイゼへの忠誠心が強いのか、はたまた恐怖心なのか。

 その言葉で一部のフツバへの視線の色が変わる。

 ここにいるのは全員レイゼの弟子なのだから戦闘意欲がそそられるのは当たり前だ。


「そしてお前達が騒いでるこの傷だけどな、付けたのはこの男、フツバだ!」


 一部だった視線の変化が戦闘エリア全員になる。 

 全員がフツバ目掛けて殺気を飛ばしてくるフツバもそれに触発されて殺気を全開にする。

 四百はいる戦闘員全員の殺気は胃がもたれる。


「詳しいことはこっから調べるからまずフツバは俺の部屋に連れて行く。戦いたい奴はその後でやれ。分かったか!」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


 全員が息が揃って返事をする。

 レイゼが弟子の前のみで見せる強い語調で弟子達の統率をとる。


「全員、修行再開!」


 それには返事をせずにさっきまでの行動の続きを始める。

 

「俺が言っといた班長以外の全員は担当の場所に戻れ」


 百人近くいた後ろの漢達の九割以上が戦闘訓練をしている場所に戻って行く。

 そしてレイゼが場所に戻った事を確認すると後ろにバンを含め三人が残っているのを確認する。


「バン、お前も戻らなくていいのか?」


 フツバが欠伸をして暇そうなバンに向かって聞く。


「うん?僕は班長じゃなく二番手だから。担当してる場所なんてないしね」


 バンは班長ではなく二番手という比較的自由な立ち位置なのだ。


「フツバ、いや他の二人」


 レイゼがフツバではなくライラとアトラの方へと話の方向を変える。


「何?」


 ライラが癖でタメ口を使ってしまう。


「ライラちゃん、いくら君がお姫様とはいえここは竹一族の本拠地だ。最低でも族長には敬語を使ってもらおうか」


 それをバンが咎める。

 

「ごめんなさい」


 ライラも気が抜けていたと反省する。


「何ですか?」


 ライラが敬語で改めて聞き直す。


「君達三人は全員それぞれ別の場所に行ってもらうことになる。いいな?」


 ライラとアトラからしたらこれは珍しい事だ。


「え、でも、フツバと私が離れたら、」


「別にここは敵が来るわけでもない。逆に来たやつはボコボコにされて終わりだ。問題はない。だね、フツバ君?」


 バンがライラとフツバが一緒にいる理由はない事を説明し、フツバに許可を取る。


「あぁ、流石にこの広さじゃずっと一緒に行動は無理だな。言われた通りここは安全だし、それにいつまでも俺がいないと何もできないじゃ困る。前は少し時間を稼いでくれたっぽいけど、俺的には一人はなんとかやりあえるくらいになっておいてほしいんだ。だから、」


 フツバがライラとアトラの肩に手を置く。


「それぞれが強くなってまた集合だ!それぞれの長所伸ばしてくれるんだよな、レイゼさん」


 フツバが自分の弱点を新たに見つけ、共に成長する事を約束する。


「当たり前だ!家にはなんだっている。特に薬と機械は面白いやつがいるからな。バッチリ伸びる。俺が保証する」


 レイゼが頼もしく二人を安心させてくれる。


「ヤイシはライラを。メイハツはアトラを。それぞれ指定した場所へ連れてってやれ!たっぷり鍛えられて来い!」


 残っていた内の二人がそれぞれライラとアトラを先導して連れて行く。

 フツバは敢えて何も言わずにただ見送る。

 二人は不安は少しあるがこれがフツバの足を引っ張らなくなる転換期だと感じ、やる気が溢れてくる。


「ウォッシ!やってやるわよ!なんでも治せるもっと凄い薬師になってやるんだから!全員怪我して待ってなさい!」


 ライラがせっかく整えてあった髪をぐしゃぐしゃにしてフツバに背を向けそう叫ぶ。

 それに呼応して、


「私はフツバさんに勝てるくらいの最強機械を作ってやりますよ!せいぜい負けないように頑張って下さい!私はフツバさんに意地でもついて行きますからね!」


 アトラもそう言って黒髪を嫌う意味ではなく気合を入れる意味としてぐしゃぐしゃにする。

 二人の大きな独り言に返事をしたら独り言ではなくなってフツバは返事をせずに黙って見送り続ける。

 それを優しく懐かしく見守るレイゼ。


「よし、フツバ!お前は俺とバンで修行をつける。まず私の家に来い」


 レイゼが懐かしい風景の余韻には浸ずすぐにフツバを修行場へと連れて行こうとしたその時、


「待てやーーーーーーー‼︎」


 突如として空中に姿を現した謎の少年がフツバに殴りかかろうとしている。


「めんどくさいタイミングで⁉︎」


 バンがその少年を止めに入ろうとするがそれをフツバが左手を出してバンの邪魔を止める。

 それの返答にバンがレイゼの方を見ると黙って頷いている。

 髪が金髪で露出の多い格好をしている。

 その少年が空中から放つ一撃をフツバが避けずに腕で受ける。

 

(マジかよ⁉︎こんなガキでも硬手術使ってかつこの威力で殴って来んのかよ‼︎腕がジンジンする)


 フツバが竹一族のレベルの高さを理解している所に更に少年が追撃を加える。

 武闘家と思われる少年の動きは非常に軽やかで的確だ。


「お前、誰の弟子とかは知らねーけど、初日から家に入れてもらうなんて俺達が許さねーぞ」


 連打を繰り出しながらフツバに喋ってくる。

 

「その家に入んのがどれほどの意味があるかは知らないけど、それなら俺より強いって証明すればいいんじゃねぇか?」


 フツバはこの少年に最初から闘いで挑んでくるあたりに好感が持てる。

 だからこそより煽って本気を出させる。


「元々そのつもりだ‼︎」

 

 少年はそう意気込むとフツバと距離を一気に詰め、フツバの胸倉を掴む。

 足を踏ん張っていて、更には手の位置、完全に柔道だ。


「マズっ‼︎」


 フツバが戦ってきた中で柔術を使ってきた者は一人もいない。

 ガーリンでさえ使ってこなかった事をこの名も知らぬ少年がやろうとしている。

 しかし、動きはまだ未完成で習いたてのまま誰にも教わっていないといった感じだ。

 フツバはそのまま敢えて投げられ体勢を動かして背中から着くことなく足で着地する。


「なんでだよ‼︎」


 初見殺しのつもりで撃った技に対応されて驚く少年。

 その少年の隙をつき、今度はフツバが少年の胸倉を掴みそのまま勢いよく大外刈りをキメる。

 少年は対応できずに背中から地面に着いてしまう。


「痛ってー‼︎なんでお前までそれができんだよ⁉︎今の一瞬でパクったのか⁉︎」


 少年が自分と同じく柔術をフツバが使ったことが解せない様子だ。


「いや、クソガキのお前とは技のレベルが違った。たぶん元々知っていたんだ」


 バンがフツバの柔術の完成度から付け焼き刃ではないことはすぐに分かる。


「これで満足か、クソガキ‼︎フツバは俺の家へ連れて行くからな」


 レイゼも少年の事をクソガキと呼び、フツバを連れてすぐに歩きだす。


「次は負けねーからな‼︎絶対戦えよ‼︎逃げんじゃねーぞ‼︎」


 少年が負けたばかりでもまた再戦を申し込む。


「あぁ、また今度やってやるよ。クソガキ」


 フツバも二人と同じくクソガキ呼びをしておく。


「お前までそれで呼ぶな‼︎」


 少年が負けに悔しがりながらも次なる戦いに闘志を燃やしている。

 フツバはこういう戦闘しか脳がないタイプは大好きだ。

 それも今さっき格上だと証明されたのに間髪入れずに戦いを申し込むなんて尚更好きだ。


「アイツはクソガキだから」


 バンが説明にもなっていない説明をする。


「本名なの⁉︎」


 その説明にフツバが驚く。


「そんなわけ無いでしょ。あのクソガキ呼びは一年罰でそう呼ばれる事になった。アイツは唯一許可なしでここを抜け出した奴だからね」


 バンが妙に嬉しそうにそう話す。


「なんだフツバ、あのクソガキが気に入ったか?」


 レイゼがそう大きな背中を向けて言う。


「えぇ、あのクソガキは俺たちが入って来た時殴りかかろうとして止められてた時から気に入ってますよ」


 最初に静まった時に唯一動こうとしていた少年があのクソガキだった。

 この闊戦宮にて三人それぞれの修行が始まった。

 


 

 



 

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