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四章6話 未来を超えろ

 目の前で行われる異次元な攻防。

 特に異次元なのは防の方だ。

 フツバは先程違い剣を抜き、動きはバンの時と遜色ない。

 なのにフツバの攻撃が一切通用していない。

 通用していないなんていうレベルではないかもしれない。

 フツバの動きを慣れ親しんだ人かのようにレイゼは社交ダンスみたいなステップで全ての斬撃を躱す。

 休日の午後、真剣な子どもと余裕な大人。

 ついこないだまで教える側だったフツバがここまで弄ばれている事にライラ達も五英傑の威厳を改めて確かめさせられる。

 これで全盛期ではないと言うのだから理解できない。


「どうした?本気を出せと言ってるだろ。そんな表情だけの本気を求めているんじゃないだよ」


 フツバの止めどない斬撃を日常行動の一環かのように躱しながら易々と喋ってみせる。

 

(なんなんだ⁉︎当たらなさ過ぎる。師匠でもここまで当たらなかった事なんかねぇぞ。まるで動きを全部知られてるみたいだ。なら、)


 フツバにとっては口に出して喋る酸素が惜しい。

 フツバが目が縫われた事からレイゼが何かしらのヴェーラを使っていることは分かっている。

 そして動きが読まれているかのように感じるならやる事は一つ。

 奇想天外な行動。


「そう焦って剣を投げつけるもんじゃない」


 フツバが投げる体勢に入るよりも早くそう釘を刺されてしまう。

 フツバはすぐに攻撃を断念し、後ろに一度下がって様子を見る。


(なんでバレた⁉︎おかし過ぎる今のは洞察力云々の前の話だ。あの時に俺以外のやつがこれを読むことは不可能だ。だとしたら可能性はもう一つ。

おーい、聞こえてるか?おーい)


 もう一つの可能性は心を読むこと。

 フツバ以外に分からないならフツバに教えて貰えばいい理論だ。

 しかしレイゼは仕掛けて来ず不気味にこっちの動きを待っている。

 これと言ってこの心の声に反応しないのは能力バレしないための演技か分からない。


「やっぱり無理だって」

「いくらなんでもキツすぎるだろ」

「あの能力は初見殺しだろ」


 能力を知っているとみれる弟子達は皆がこぞってネガティブな言葉ばかり言う。

 ライラ達もフツバが圧倒されている姿に応援という言葉を喪失したと見れる。

 

「ここまで来たら試してみるか」


 フツバがずっと懸念していた一つの作戦。


(あなたが好きだーーーーーーーーー‼︎)


 フツバがプライドを捨てたクソ作戦で斬りかかる。

 それをさっきまでと変わらぬ様子で当たり前に避ける。

 

(こんなことを言いながら斬りかかっても顔の筋肉一つ変えなかった。レイゼさんの性格的に少しは表情が変わっていいはずだ。だとしたら残る可能性は二つ。一つ、レイゼさんには戦いに関係あることしか伝わって来ない。これは最悪だが二つ目、未来予知。全てのことに説明がつく。だとしたらどうなる⁉︎何をすれば打開できる⁉︎)


「そろそろ能力の想定がついたところか?」


 フツバが悉く内心を言い当てられ苦笑いでしか返せない。

 フツバはそれでも臆することなく斬りかかる。

 斬りかかっては躱され、遠くから石を投げても躱され、数で押し切ろうとしても距離の取り方が絶妙に届かないようになっている。

 そんな事が十分程続く。

 変わったことといえばフツバの体力が無くなり始めたと言う所だ。

 

「本気を出せ、分かっただろ。どれだけ工夫しても剣は届かない。私には全部見えているのだから」


 目が縫われた状態でそう言い放つレイゼ。

 そしてこう続ける、


「お前に良いことを教えてやろう。お前に足りない物だ。戦い中だろうと君がバテていては話にならないだろ」


「……」


 フツバの質問に先回りして答えるレイゼ。

 ここまで来ると未来予知しか線はない。


「お前に足りない物、それは経験だ。君は経験がそこら辺の騎士なんかと比べれば多い事はもちろん理解している。ここで足りないと言っているのはコイツらと比べてるからだ」

 

 レイゼが横でフツバが手も足も出ないのを眺めていたレイゼの弟子を指さす。


「マジか……」


 フツバの目にはその弟子達が大きく映る。

 フツバと剣を交わっても勝てない者がほとんどだろう。

 しかし、全員がフツバよりも自信に満ちている。

 それは日々の研鑽から生じる自信だ。


「コイツらは負ければ半殺しになる世界で戦ってる、毎日な。お前も死戦は繰り広げてきただろうがコイツらはそれを積み重ねにより超えている。ここの奴らからしたらフツバ、お前なんてひよっこ同然なんだよ。それだけでお前がここに入るには大きな理由になるだろう。なぜ隠しているのかは知らないが今は隠す必要はない。全力でこい」


 フツバにここに入る大きな理由を付けて意欲を唆るレイゼ。


「アンタは訪問販売でもした方がいいんじゃねぇか。これは壺の一つや二つ買わされそうだな」


 フツバが無い余裕を見せてそう笑う。


(ギリギリだ。アイツが出て来ない程度のギリギリをつく!)


 フツバが心にかけた枷を緩くする。


「なんだ急に殺気が」

「質が変わった。やっぱり本気じゃなかったんだ」


 フツバの様子の変化に気づく見学者達。


「それで良い!」


 レイゼが構えて笑う。

 

「フツバさん、やっちゃってくださーい‼︎」


 アトラがフツバに声援を送る。

 

(しかし届かない、どれだけフツバ君が本気を出そうと族長には届かないんだ。今の君では掠ることさえできはしないんだ)


 バンでも予知できるフツバの未来。

 フツバが地面を蹴り、一気にレイゼの間合いに入り込む。

 それもレイゼには分かっていた。


「右下から左上へ斬りあげる」


 レイゼがそう勝ち誇った口調で剣を止めて見せようと左手で受け止めようとする。


「ギヒッ!」


 フツバと違うもう一つの声が混じった声が聞こえるのと同時に予知した筈の未来とは違う首を斬りにかかる斬撃が来る事に気づく。

 

「何だと⁉︎」


 レイゼが無いはずの未来にもなんとか反応し、首を斬られることは避けるが、左頬を鋒が掠める。


「馬鹿な⁉︎」


 バンが誰よりも早く大声をあげる。

 今までにバンはヴェーラを使っているレイゼが誰かに傷をつけられる所を見た事がなかった。

 決して動きがレイゼでも追えないほど高速だったわけではない。

 なのに掠めたということはフツバが見た未来と別の行動をしたしかあり得ないのだ。

 レイゼは動揺で取り乱すことなくフツバを遠ざける為に片足でフツバの胸を思いっきり蹴って向かいの壁まで飛ばす。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、どうなってるんだ……」


 レイゼがとんでもない事が起きたと息を上げ、驚いている。

 弟子達も信じられないと目を擦る者や、動きが止まる者、など様々な反応をする。


「痛ってぇ!」


 フツバが向こうの地面に蹲り胸を押さえている。

 その様子を見るや否やライラとアトラは飛び出して行く。

 

「大丈夫⁉︎だいぶ強く蹴られてたけど」


 動揺で加減を忘れていたレイゼは本気で蹴ってしまっていた。


「でも凄いです‼︎あんなに見切られていた剣が掠っただけとはいえ届いたんですから‼︎」


 アトラがこの事態の重大さに気づかず言う。

 その言葉で現実に起きた事なのだとレイゼの弟子達も受け入れさせられる。

 絶対的だった物が崩された時のショックはどれだけ修行していても大きい。

 

(力だし過ぎてアイツと半分混じったみたいになっちまった。気持ち悪りぃ)


 フツバがハーフになった時の感覚が気持ち悪くて吐きそうになっているのをなんとか抑えようとする。

 フツバの呻き声やライラとアトラ以外の声は一切ない。

 だだっ広い空間で三人の声が響く。


「お前達、中へ入れるぞ!」


 レイゼが全てを整理した後、フツバに今は言及せず命令を出す。

 自分の能力が破れられたというのに誰よりも早く落ち着き、命令を出すという師匠の在るべき姿に弟子全員の意識が戻ってくる。


「「「「はい‼︎」」」」」


 バンを含め全員がこの部屋のはじに設置された大きな鎖へと向かう。

 そしてそれを力一杯手前へと引きだす。

 三人がその様子を呆然と眺める。

 フツバ達が入ってきた門とは反対側の壁にあった門が地面に擦れる爆音と共に開いて行く。


「す、すっごい」

「何ですか、ここは⁉︎」


 その門の先に広がる今いる場所の十倍はある空間。

 そこには建物が百軒を超える家が軒並み建っていて。

 場所によって皿を運ぶ者から何やら化学実験をしている者、汗水、血を流して戦いに臨む戦士の姿がそこらじゅうにある。

 まるで一つの国のような空間。


「こりゃあ、戦い飽きねぇわ」

「この人達だけじゃなかったの……」

「こんなに人が動いているの初めて見ました」


 三人がその絶景に感嘆の声をあげる。


「ここにいる人なんて選ばれたほんの一握りです。お姫様、もしここの三百人程度がここに捨てられた子どもの数だと思ってたんならそれはこの国を甘く見過ぎですよ。現実はどんな作り話より残酷なんですから」


 口調が一番最初の時に戻った丸眼鏡をかけた落ち着いたレイゼだ。


「こっちに来てください」


 レイゼがフツバ達に大きな背中を向けて歩き出す。

 門の近くでは風が強く吹いている。

 

「バン‼︎」


 レイゼがバンの名前を強く呼ぶ。


「はい、分かってますよ」


 バンはその言葉だけで理解して風を関係のない上の方へと押し上げる。

 フツバ達の所には風が無くなる。

 レイゼはそのまま中へと進んで行くがバンが近づいて来て言う。


「ようこそ、ここが竹一族の最大拠点『闊戦宮かっせんきゅう』だ!」


 バンが両手を広げて言い放つ。

 三人共がバンに屈託の無い笑顔で笑って応えた。

 


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