表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/217

四章3話 十分大宴会


「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 高さ数十メートルはある渓谷から突き落とされたライラが断末魔をあげる。

 目は乾き、よく見えない。

 いつ地面にぶつかるのか分からない。

 叫ぶ口の中に空気が入り、ブスになっていることなど今はどうでもいい。

 一生こんなマントヒヒ顔でもいいくらい生きたいと思っている。

 そして遂に地面とぶつかりライラは死、ななかった。

 目の前は真っ暗で何も見えない、しかし柔らかい感触が体を包んでいることに気づく。


「ライラさん、早く出てきてくだ、さい!」


 アトラの声がして腕が引っ張られるような感覚になり、真っ暗で柔らかい空間から抜け出す。


「ブハッ、ハァハァ……私達何が、この柔らかいのは」


 ライラが突然のことに脳の整理が追いつかず一旦目の前の柔らかい地面に目を向ける。

 と、そこに笑っている男が埋もれている。


「ア、アトラーー‼︎人が笑って、し、死んでる!」


 ライラが自分達とは違う結末の死骸を見て泣き叫ぶ。


「いや、僕死んでないんだけど、」


 埋もれている男が喋りだす。


「死体が喋ったーーーー‼︎」


 ライラは落ち着きがなくいつもに増して騒がしい。

 

「ライラさん、落ち着いてください。この人は普通に生きてますよ。というか」


「そ、今君らが立ってるの僕の体だお」


 男が笑って教えてあげる。


「え?」


 二人はその言葉に言われて見ると確かに埋もれているというより繋がっている。

 つまり謎の柔らかい地面はこの男の体だったわけだ。


「これは、これは、いつになっても実写版トト○ってだいぶ怖いな」


 後ろから謎の言葉を発する男の声。


「ぎゃああーーー‼︎今度は何⁉︎」


「いや、俺だわ」


 フツバが忙しないライラの額を引っ叩く。


「フツバさん」


 アトラが知らぬ間に降りて来たフツバを見て安心する。


「年齢差があってこの反応の違いとは恥ずかしくないのか姫さんは」


 フツバが叫び声を意地でも抑えていたアトラの様子を見てそう嘆く。


「だって、それは!アンタが急に突き落とすからじゃない!せめてこうなる事言ってから落としなさいよ」


 ライラがトラウマ級の体験を思い出し涙目になる。

 

「フツバさんもそんな事言ってライラさんのこの反応を見るためだけに黙ってたんですよね」


 アトラがフツバの意地悪な部分を言い当てる。


「そういうことは別に言わなくていいの!」


 フツバが妙にフツバの意思を汲み取れるアトラを口止めする。


「これからはちゃんと言いなさーい!」


 ライラがフツバに爪を立て牙を剥き襲い掛かろうとする。


「あのぉ、」

 

 そこに久しく聞いた男の声。


「そこ僕の体の上なので一旦退いてもらっていいだすか?」


 男は相当苦しそうだ。

 フツバ達が暴れ出してキツくなって来たのだろう。


「ごめん、ごめん」


 三人が降りた瞬間男の体は窄んでいきちょっとぽっちゃりな人になる。


「フツバ君は前も僕の上で騒いでたでしょ!いい加減学んでくれると嬉すいんだけどなぁ」


 男が暴れられたお腹をさすり、前回のフツバとの変わらなさに嘆息する。


「今のってヴェーラなの?」


 ライラが男に質問する。


「そうだお。今のは僕のヴェーラ。『膨らめ』って言うだけでこうやって自在に膨らませれるんだお」


 男が少し腹を膨らませて見せる。


「へぇー、すっごいのね」


 ライラが目新しいヴェーラに目を輝かせる。


「そう、僕のは凄いんだお。ある程度なら受け止めきれちゃう最強の盾なんだお」


 男は乗せられやすくすぐに上機嫌になり、天狗になる。


「そんなことはいいからこのでけぇ門開けてくれないか」


 先程から敢えて三人とも口にしなかった目の前に広がるとてつもなくでかい門。

 軽く二十はありそうだ。

 そこにはでかい文字で「竹」と書かれている。


「今回はここに入るだね?フツバ君」


 男がでかい門を指してそうキメ顔で聞く。


「あぁ、バルさん」


 フツバが心の中で何かが燃え上がっているような目で門を睨みつける。


「前に来た時に入らなかったの?」


 ライラが入ってさえいないことに驚く。


「入らせてくんなかったんだよ。だからここで待たされてずっとこのバルさんと喋ってた」


 フツバがバルさんを指して言う。


「そう、じゃあここを通るのは全員始めてって事ね。早く行きましょ!こんなに目の前でデカデカと主張されたらこっちまで早く入りたくなっちゃうわよ」


 ライラも目の前にして熱く燃え上がる。

 

「よいっしょと」


 アトラは額に二本の触角のような物の先端に何かが付いた装置をつける。


「アトラ、何それ?」


 当然、ライラが疑問に思う。


「これは、ですね。えいっ」


 アトラが手に持っているスイッチのような物を押すと先端に付いていた何かが光りだす。


「それは炎か?」


 フツバが先端に付いた物が炎をの形をしたものだということをつきとめる。


「はい、これは自動目の奥燃えさせ機です」


「……」

「……」


 確かにアトラの目にはその炎が瞳の中映り、燃えているように見える。が、


「なんそれ」


 フツバが静寂から捻り出した言葉。


「だから、目の奥」


「その名前を聞いてるじゃなくて何の意味があるの?」


 フツバがいつも何かしら役に立つ機械を作ってくるアトラだから一応期待はする。


「よくある文学表現を実際に表せれる。以上です」


 アトラが燃えたぎる目でそう言い切ってしまう。


「あ、そう。良かったわね。どうしたの急に。今までそんな子じゃなかったじゃない」


 ライラもアトラの部分的お馬鹿を久しぶりに見る気がする。

 

「ただ時間が無かっただけです。それにこんな装置私からすれば一瞬です!」


 アトラの心にも余裕が出て来たことの現れと嬉しく思うべきなのか、馬鹿さが出たと悲しむべきなのか。


「一瞬でさえ勿体無いと思う物って逆に凄いと思うわ。うん、行こうぜ早く」


 全員目の奥が心情的にも物理的にも燃え上がったところでとうとう門を開けるよう頼む。


「フツバ君、ここに入るということはわかってるね?」


 バルさんが真剣な表情で言う。


「あぁ、分かってる」


 フツバが笑って応える。


「何かあるの?」


「いや、大丈夫。心配すんな」


 フツバが心配するライラを適当に流す。


「開けてくれ‼︎オトメ・フツバ達が参ったぞ!」


 バルさんがヴェーラ関係なしに腹を膨らませ、門の奥にまで聞こえるような大きな声でいう。

 大ボリュームに耳を塞ぐ二人。

 フツバは険しい顔で耐えている。

 すると門がゆっくり、ゆっくりと開いていく。

 少しずつ向こう側の様子が見えそうだが光ではっきり見えない。

 そしてある一定のラインを超えると開くスピードが一気に速くなる。

 さっきまでゆっくり見え始めていた景色が一気に開ける。


「何ですか……」

「なにこれ……」


 二人が目の前の景色に声を失う。

 フツバは想像していたよりも何十倍もの迫力を体で感じ毛穴が興奮で開く。

 そこにはおよそ四百人を超える人、否戦士が正座をし、こちらを睨んでいる。

 物凄い威圧感にさっきまで感じてた眠いとか、トイレしたいとか、そんな雑念が全て消え去る。

 お互いに一歩も踏み出さず、一言も声をあげない状況が一分は続く。

 こちらの三人はその一分は緊張感で五分にも十分にも感じた。

 一分ぴったり経つと四百人ばかりの後ろから戦士ではなくエプロンを着た人達それも百人越えと見られる人達がぞろぞろ出てくる。

 そして最前列の中心、最も重要な位置に座っていた男。

 三人とも名は知っている、バンが立ち上がる。

 バンが大きく息を吸い、何かを口にしようとする。

 その言葉でこの状況が動き出すことは明確だ。


「十分大宴会だーーーー‼︎」


 バンの大声が静かに構えて何の音もたっていないこのだだっ広い空間に鳴り響く。

 

「うぉっしゃーーー‼︎」

「やったぞぉーーー‼︎」

「早くもってこぉい!」

「今回は十分だってよやべぇって!」


 四百人ばかりの戦士だった者達が全員立ち上がり歓声をあげだす。

 三人には理解ができない。


「やったーーー!十分だってー‼︎うれすいなぁ」


 バルさんが走って四百人の方へ向かっていく。


「バルさん、なにこれ?」


 フツバが辛うじてでた最低限の言葉にバルさんが反応してくれる。


「何って、十分だけの大宴会さ!早くしないと無くなるゾぉ!」


 幸せに満ちた顔で中へ走っていくバルさん。

 先手を撃たれまいと警戒をしていたフツバだが、この唐突な大宴会とやらに先に先手を取られてしまったようだった。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ