四章2話 飛び降り自殺
「ここに、竹一族が本当にいるの?今までの町よりかは人が少し多いくらいだけど」
ライラが周りの村を仮面越しに見渡す。
この村からはこれっぽっちも竹一族らしさがない。
「というか聞きたかったんですがなぜ竹一族だけは個人名じゃないんですか?」
アトラが昔からずっと思っていた疑問を聞く。
「俺も詳しくは知んないけどたぶん弟子の数が他の五英傑より圧倒的に多くて珍しいからじゃない」
フツバもよく知らないが推測で話す。
「それじゃあもう一つあるんですがなぜ一人だけ『竹』と漢字の名前なんですか」
「それも知らないけどたぶん漢字がこの世界で広まり始めたのもあの人の影響なんじゃないか。そうじゃないとわざわざ昔の言葉を今に持ってきて流行らないでしょ」
フツバがアトラの疑問に答える。
漢字とはこの世界では昔の言葉とされている。
漢字を使った村の名前や人の名前など今でも数は少ないが残っている。
それらの起源は竹一族と考えるのが妥当だろう。
「ちょっとアンタら言っとくけどこの町に竹一族はいないよ」
通りすがりの村の住民と見える叔母さんが日常行動かのように声をかけてくれる。
「いないと言いますと?」
アトラが言葉に興味を示す。
「よく来るんだよ。アンタらみたいに噂を聞いてくる人が。実際にはいもしねぇのに噂流して、どうせこの町の観光の一つの目玉として流したデマカセだろうね。アンタらも竹一族に会いに来たんなら帰る事を勧めるよ」
叔母さんは毎日のようにこんな会話をする人と会っているのだろう。
説明する手順が早いし、何よりもこうやって来てしまう人がいることに落胆している様子だ。
叔母さんはこちらの返事を気にせず去っていく。
「フツバさん、どういう事ですか?」
アトラがフツバの方を見て聞いてくる。
「まさか、アンタ」
ライラはこちらを見てフツバがその噂に騙されたかと疑ってくる。
「んなわけねぇだろ!お前らもいるってことは知ってんだろうが。そりゃあ簡単に観光客に見つかる場所にはいないっての」
フツバがバンの存在を時間の経過で忘れかけていたライラに思い出させる。
「よし、じゃあこのままこの何人かの観光客が進む方について行こう。目的地の方向は途中までは一緒だから」
フツバが周りに何人かいる観光客らしき人を見て歩いて行く。
年末やイベントの時はもっと人が多いらしいが平日はちょっと賑やかになる程度だ。
「この人達は『崩落の宮』を目指しているようですが」
アトラがついて行く末に村を出てしまっていることが大丈夫か心配になる。
「別に俺はこの町の中にいるなんて言ってねぇだろうが。ここを左に曲がるぞ」
フツバが看板に「崩落の宮」右、と書かれた方向と逆を行く。
フツバ達より後ろの人達にはフツバ達は奇妙に思われ視線が痛い。
「アンタら、そっちに何しに行くつもりだい?」
後ろの数人の中から先程聞いた声が聞こえる。
居たのは注意してくれた叔母さんだった。
「そっちには『子捨ての谷』しかない。アンタらも子どもを捨てるつもりかい?」
叔母さんは冷たい視線でこちらを見てくる。
「違いますよ。別に子どもを捨てに来た訳じゃない。けどこの先の谷は『子捨ての谷』と呼ばれているんですか。知らなかった」
フツバが本当に知らなかった名称に驚く。
「そうさ、この観光第一主義の村が観光客を少なくしないために物騒な噂は広めないようにしてあんよさ。一部の人はそこを『子捨ての谷』と今でも呼んで時より本当に捨てる人が現れる。アンタらは注意喚起した時の反応が少しおかしかったからまさかと思ってついて来てみたら」
叔母さんは勘が鋭くフツバの一切動揺しない態度に違和感を覚えていたらしい。
日頃から人の反応を見ていると少しの違和感にも気づける物だ。
「私達は別に子どもを捨てに行く訳じゃないわ。そうよね?」
ライラがこれ以上疑われないようにと否定する。
「いや、あながち間違いではないな」
フツバが疑いを晴らすような事は特にしない。
これではフツバ達がより疑われてしまう。
「じゃあ、捨てるのはアンタ達自身かい?」
叔母さんが戸惑いなくそう聞く。
ライラがそれをまた否定しに入ろうとする。
が、
「この人には別に嘘を吐く必要はないと思うぜ。どうせこの人は俺達を止めに来た訳じゃない。でしょ?」
フツバのその今までの行動の説明に叔母さんは不思議な表情を浮かべる。
「なんだい、その子は私がアンタらを止めに来たと思ってるのかや。変な子だねぇ。私がアンタらを止める理由なんて何もありゃあしないのに」
叔母さんが当たり前の表情で言う。
「でも、子どもが捨てられてるって」
これも王都外での一つの常識でもある。
有名な自殺スポットなどが近い村の人は死にに行く人を見ても特に止めようとはしない。
「別に他人の子を他人が捨てようと私らに変わりはねぇじゃねぇか。どうせ捨てられる子なんてどこの誰かも分からん男に孕まされたに違いねぇ。そんなのを一々止めてちゃ、世話ねぇよ」
叔母さんにとって捨てる人がいる事は当たり前なのだ。
ただ、若かったから気になっただけなのだろう。
「特に私達は顔を隠していますから訳あり感満載ですしね」
アトラもこれを知らなかった訳ではない。
「そんな、止めようとしないなんて……」
ライラは絶句しているようだ。
桃髪の差別文化は詳しくなったが単なる子どもがあう被害は逆に知らないらしい。
「ま、その子にはもうちょっと世のことを教えておくんだね」
叔母さんは興味が満たされたので帰って行く。
おばさんにとっては若いのに捨てに来た子がいたというエピソードトークにしかならない。
三人の内一人はテンションが下がりはしたが道なき道を歩いて行く。
最近は落ち込む事が多くて精神的に疲れてきた。
そして、
「姫さん、そう落ち込むなって。ほら、着いたぞ。本当の目的地、『子捨ての谷』もとい『竹の谷』‼︎」
谷の近くは風が吹き、谷の深さを物語る。
谷はまるででかい斬撃のような形をしており、底は全く見えない。
「どういうこと?ここに竹一族がいるってことなの?」
ライラは萎えながらも少し気になっているようだ。
アトラもフツバが別名で呼んだことを気にしているようだ。
誰もこんな場所に人が住んでるなんて思わないからである。
「ほら、下覗いてみたら分かるって」
フツバが先行して谷のギリギリまで歩いて行き、下を覗き込む。
それに釣られて二人もギリギリまで慎重に行き覗き込む。
するとそこには、
「何もないじゃない」
底が見えない谷がある。
ライラとアトラが外見と何も変わらないことを確認し、フツバの方を振り向いた瞬間。
「いってらっしゃい」
「「え?」」
フツバが二人を突き押して、谷へと落とす。
深さ何百メートルかも分からない谷へフツバに落とされどうしたらいいか分からず何も行動がとれない。
信頼していた人に急に落とされたらどうしようもない。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ‼︎私まだ死にたくなーーい‼︎」
「私もですーーーー‼︎フツバさんはどうするつもりですかーーーーー‼︎」
一度口を開けると風が入って来て語尾が必ず伸びてしまう。
二人は絶叫をあげることと共に死ぬ仲間として手を繋ぐことしかできない。
「よし、俺も行くか!」
フツバも二人が落ちてすぐに谷から飛び降りた。
読んで頂きありがとうございました。
竹一族、存在しているか分からないと言われているのにずっと一族と呼ばれているほど人数が多い理由。
それは、行き先が分からなくてもおかしくない人をずっと引き入れているから。
谷の底にある物はもうお分かりかと思います。
次話から本格的に始まります。
それでは次話でお会いしましょう。
良ければ、感想、アドバイス、質問、どんどんお願いします。