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三・五章20話 葉の修行

 これはレグレスがライラ達に様々な事を教わっているのと同時刻の事である。

 

「ねぇ、アンタはいいの?」


 リーレンスが隣を歩くリィヤに話しかける。

 前のフツバにも後ろで不機嫌のスカーフにも聞こえないような声で話す。

 リィヤもまたレグレスと共に木陰に隠れていた一人だ。


「私は、いいの」


 リィヤが作り笑いで答える。


「嫌なら話してみたら。レグレスが良くてアンタがダメなんてことは無いだろうし」


 リーレンスが同じ女子として気遣う。


「うん、リーちゃんが言ってくれるのは嬉しい。私が向いてないし、レグレス君と一緒で好きじゃないことを分かってくれてるのも知ってる。でもね、私はダメなの」


「……」


 フツバが後ろで喋る二人の会話に口を挟まず黙って歩く。

 フツバがレグレスに直接話に行ったのはフツバの中でも特例のつもりだ。

 本当は自分から切り出すのを待ちたい。

 それにフツバの目にはレグレスとリィヤは全く別の問題を抱えている様に映っているのだ。


「本当にいいの?」


「うん、私は戦わなくちゃいけないの。向いてなくても、嫌でも、やらなきゃいけないの」


 体や態度はか弱い、なのに語る目は迷いがなくこれ以上言うべきではないとリーレンスにも伝わる。

 この寮に集まるのは過去に地獄を見たものばかり。

 お互いに聞き合わないから何があったかは知らない。

 リィヤは日頃の態度は見た目通りか弱いしレグレスと差程変わりない。

 しかしリィヤの戦いを学ぶということだけは固執して譲らない。

 リィヤはいつも腕におもちゃの腕輪を着けている。

 それがなんの意味を持つのか気になるが怖くて聞けない。

 

「さっ、お前ら今日も今日とて始めるぞー」


「「はいっ!」」


 スカーフは不機嫌で返事は返ってこない。

 フツバもリィヤには話を聞いてみたいがまだ早いのだとよく分かった。

 ちゃん付けで呼び合う仲でさえ喋ろうとはしないのだフツバなんて言語道断だろう。

 フツバと子ども達の溝はまだ埋まってはいない。

 次の日から三人は元気な三人に戻った。

 スカーフはフツバに噛みつき、リーレンスは積極的で、リィヤも何か抱えている事を周りに隠せていた。

 そうしてフツバと桃髪の子ども達との修行の日々は過ぎていった。


ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー


 それから十日が経った。

 レグレスはライラと共にかすり傷などを治しに来る程度には実力を付けていた。


「レグレスー!おかわり頂戴!」


「任せて!他にいる人は?」


 リーレンスがご飯のおかわりを頼んで、それをレグレスは笑顔でこなすぐらいにレグレスは馴染めていたし、前よりも生き生きしている。

 そして何よりもの進化が、


「俺も、くれ」


 スカーフが少しずつではあるがレグレスを許しつつある事だ。

 レグレスが手伝いの初日は酷かった。

 いつもおかわりするのに全くせず食べ終わった矢先、部屋に帰って行ったのだ。

 今まで逆にどうやってたのかとフツバは思い、リィヤに聞いてみたがフツバが来てから加速したらしい。

 でもそれは停滞から動き出したのであって悪いことではなかった。

 そしてフツバ的ベスト成長は、


「フツバ先生は要りませんか?」


 子ども達が五日目からフツバに先生を付け出したことだ。

 きっと部屋で会議でも行ったのだろう。

 全員が一斉に呼び出したので最初はフツバも夢を見ているのかと勘違いした。

 

「大丈夫よ、サイトウ。アンタの頑張りは私達が知ってる」


 ライラが隣で先生呼びされているフツバに嫉妬し、自分に自信を失っていた所に肩をトントンと叩いて認めている。


「ライラさんじゃなくてあの子達に認めて貰いたいです」


「あの子達も大人になったら分かるわアンタの影の努力は」


 ライラが落ち込む背中を摩ってあげる。

 

 そして殴り君の運用も始まった。

 体術の戦闘としてフツバが三日目にお手本をした時に誤って一撃で壊してしまったせいで六日目から子ども達への運用は始まった。

 三日目の時はいくらフツバとはいえ瞬間で壊したことにアトラも怒ったらしく毎日アトラの隣でご飯食べる事が強制された。

 怒るレベルがアトラらしくてライラには可愛らしく映る。

 十日目となった今日だが殴り君の攻略は難しいらしく、スカーフの二十秒が最高記録だ。

 フツバが壊す原因にもなった殴力診断という物もあるのだがそれではリーレンスの六十キロが最高記録だ。

 リーレンスの六十キロでもその時はビクともしないようになる殴り君をお手本感覚で壊してしまうフツバに恐怖と尊敬を同時に覚える。

 こうして平和で仲睦まじい十日間が過ぎていた。

 

ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー


「はい、十一日目の今日からちょっと変わった修行をするぞ」


 フツバがいつもと違う森の中にレグレスも連れてきて話出す。


「こんな森の中で何すんだよ?」


 特にこれといって変わった森ではない修行と言えるほどの何かをするとは思えない。


「今から俺がこの葉をだな空中にバラっと撒き散らすからそれを持ってきた木刀で弾いてもらいます。弾いた基準は俺がするから。あと森でする理由は俺が持ってくるのめんどいからです」


 フツバが懐かしの修行をスカーフ達に教える。

 フツバもめんどくさいから動かされた記憶が残っている。

 

「あのぉ、何で僕を呼んだんですか?怪我はしなそうですけど」


 連れて来られたレグレスが小さく挙手して質問する。

 

「それはなレグレスの記録を合格基準にするからだ」


「何でレグレスなんだよ⁉︎コイツは剣術の方はなんもやってねぇんだぞ⁉︎」


 スカーフがいつも参加していないレグレスを基準にする事に異議申し立てる。

 それに他二人も同意らしい。


(今、ちゃんとレグレスって呼んだな)


 フツバにとっては想定通りの質問なので質問の答えなど考えるまでもない。


「それはコイツがたぶん一番得意だからだな。やってみたら分かる。レグレスちょっと俺の前来い」


 フツバが森でもなるべく平坦な場所を指してレグレスを立たせる。

 

「本当に僕がやるんですか?」


 この状況に困惑した様子のレグレス。


「大丈夫、この一回終わったらすぐ帰っていいから。それにレグレスを基準にするのはコイツらに負けらんねぇって思わせる為だから思いっきりやってくれて良いよ」


 スカーフ達が文句を言ってはいたが結局受け入れてるのはフツバの修行方で間違っていることがなかったからだろう。

 

「いくぞー」


 フツバが空中に葉を撒き散らす。

 スカーフは構えて前屈みにしゃがみ込む。

 そして全ての葉を目視し、位置を把握したところで自分が通れる最大枚数の葉を綺麗に切っていく。

 

「結果、十五枚」


 フツバが結果を発表するが他の記録が分からないのでなんとも反応しづらい。

 フツバもこの微妙な空気感になることは分かっていた。

 

「じゃあ、スカーフ。やってみろ」


 次に呼ぶのは最も戦闘能力の高いスカーフ。

 スカーフはもちろんレグレスになんか負ける気はさらさら無い。


「全部切ってやる」


「いくぞ」


 フツバが空中に撒き散らす。

 スカーフは目で確認できた所から素早く切っていく。

 誰が見てもスカーフの動きはレグレスよりも機敏で洗練されている。


「結果、四枚」


「はっ!」


 フツバが口にした嘘のような結果に声が漏れてしまう。


「そんな訳ないでしょ!あんなに振ってたじゃない」


 リーレンスがスカーフの振り数が明らかに四回以上だった事を指摘する。


「その通り!四回以上振っていた。なのに結果は四」


「嘘つくなよ!」


 スカーフが自分の少なすぎる結果に納得いっていない様子だ。 

 それもレグレスが十五なのだから尚更納得いかない。


「嘘じゃないよ。これがこの修行の難しい所だ。葉っていうのはなこんな風に」


 フツバが一枚の葉を持って空中へと投げる。

 葉は右に寄ったり、左に寄ったりと左右へ揺めきながら地上へゆっくり落ちてくる。

 それをみんなが見つめていた。


「この通り動きが不規則だ。何よりも葉は軽いから剣風だけで動きが大きく変わる。これを感覚的に理解しているレグレスは記録が良くて、狙った獲物がそこの位置のままという修行をしてきたスカーフが記録が悪い理由だ。

もっと単純に言うとこれは短時間で超計算を行って、一振りで的確に葉を多く切れる道順を導く必要がある。実際にはこの葉の様にヒラヒラ動く敵なんていない。これで重要なのは狙った箇所を的確に突くことと短時間での頭の回転だ。戦いってのは一刹那、一刹那の読み合いだ。これが少しでも遅れれば死に直結する。

これを脳に覚えさせる修行だ。めちゃくちゃ難しいがこれでも難易度は一だからな」


「……」


 フツバの最後の言葉に全員何も言えなくなる。

 一刹那という難しい単語が出てきたのにそれが難易度一と言われては反応ができない。

 自分たちは未熟と呼ばれる域でもないことが良くわかった。

 フツバが昔やっていた修行はこれより悍ましく、ガーリンが走り回るのについて行きながらその間にばら撒かれた葉を全て切るという馬鹿げた修行だ。

 それにそれが行われるのは竹藪の中で直進できないのも難点だ。

 これに比べれば動かなくていいこの修行は難易度一になってしまう。

 本当は未熟と呼んでもいいくらいなのだが目の前の基準がバグっているせいで錯覚してしまっているのは可哀想でならない。

 こうして更に難関な修行が始まった。

 その頃近くの村で重大な事が起こっているのを知らずにフツバは授業をしていた。

 

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