三・五章15話 名前
「それじゃ、まずは挨拶からだ。礼っ!」
フツバが腰をキレイに45度折って礼をする。
それをただ困惑し、眺める四人。
「お前ら、こういうのはな礼に始まり、礼に終わるだぞ」
「そんなの知らねぇっての!聞いたこともねぇぞ!そんな文化誰に習うんだよ⁉︎」
フツバとの心の壁が薄くなったスカーフが率先して文句を言う。
「知らないから教えてやってんだろが。ほら!まずは気をつけして!」
「チッ」
「舌打ちすんな!」
スカーフ以外の三人はフツバの動きを真似る。
スカーフは変に壁が薄くなり、めんどくさがりの性分が出てしまっている。
全員がフツバと同時に頭を下げる。
「「「よろしくお願いします」」」
三人の声しか聞こえないが初日は放っておくことにしよう。
「よし、まず自己紹介をしようか。俺はオトメ・フツバ。いつまで剣を教えれるかは俺も分かんない。だから一日、一日を大事にしていくつもりだ。よろしく」
「よろしくお願いします!」
フツバの挨拶に一人の少女が礼儀良く返事をする。
てっきり返って来ないと思っていたので意表を突かれる。
「偉くやる気だな。いい事だから問題ないけど、そんなに真面目だったのか?」
フツバの目の前に立つツインテールの少女に聞く。
「真面目じゃないわよ!ただ……あんなの見せられたら、もっと強くなりたいって思うわよ!と言うよりやってみたいってなるわよ」
少女は最初の時、スカーフと同じ勢いで来ただけあって強さには憧れがある様だ。
「名前は?」
フツバがその強さに馬鹿正直な少女を気にいる。
「テルテン・リーレンス。よろしくお願いします」
強気な紫紺の目が特徴的な顔つきだ。
この中ならおそらく一番自立した考えを持っているタイプだろう。
その考えが正しいかはさて置き、自分なりの信じる物があるといった目だ。
フツバがそう推測った所で隣の一人の少年に目をやる。
ウルフの様な髪型で襟足を伸ばしている。
そのカッコいい髪型と態度は違い怯えておとなしい。
「名前を教えてくれないか?」
フツバは色んな境遇があることは認知しているので無理に距離を詰めようとはしない。
怯えているのならまずはゆっくりとだ。
「僕は、、、」
何か名前らしきもの言ったように聞こえるがフツバの聴覚では聞き取れない。
フツバが何度も脳内で今の声を流し聞き取ろうとするがどうにもならない。
「トラトス・レグレスだろ!名前ぐらいはしっかり言えよ!」
スカーフが機嫌を悪くしたらしくが鳴り声で怒る。
「おい、別にそんな怒らなくてもって、待てよ。今、トラトスって言った?」
フツバは何かが引っかかる。
「そうだ。俺と同じだよ」
「この子が⁉︎兄弟なのか?」
フツバがあまりに態度が似ても似つかない二人に繋がりがあることに驚く。
「兄弟ってよりも双子だ。コイツはビビリだから嫌いなんだよ!」
スカーフは強さに積極的な自分とこの怯えているレグレスとが双子というのが気に食わない様だ。
「まぁ、大丈夫だ。俺はビビリでも問題ないと思う。と言うよりビビるのは悪いことじゃないからな」
フツバがスカーフから嫌悪され、表情を暗くするレグレスを慰める。
それから
「おい、スカーフビビるのが悪いことだと思ってるのか?」
フツバはその言葉が少し気になった。
「当たり前だろ!ビビるのはダセェだろ!男ならもっと強くなれよ!」
双子なら逃げる時も同じだったのだろうから色々困らされた事もあるのは理解できる。
「その差別的な話は一旦置いといてだ。今はビビリについて言わせてもらうが、ビビリは悪い事じゃねぇぞ」
「相手に怖気付いてるのは悪い事だろ!もっと強気にいかなきゃ世の中生きていけねぇんだよ」
スカーフなりの経験則がまだ十を過ぎたばかりの子にこんな事を言わせているのだろう。
「世の中生きていけねぇのは否定まではしないけど、悪い事なのは絶対に否定させてもらう。ビビるってのは誰にでもある事であってそれは隠すんじゃなくて認める必要があるんだよ。それが強くなる一歩だぞ。もしスカーフお前は隠しているならいやすぐやめておけ。弱さやビビリってのは認められなきゃ強くはなれねぇぞ」
強くなる為と言われてはスカーフはフツバに何も言えない。
フツバも全てを強くなる為で抑え込む気はないがどうやらスカーフは強さを変な風に捉えてしまっている様だ。
「あとな、スカーフ。お前がさっき俺にやられたアレは最高にビビってる証だぜ。アレは俺の強さに怯えて動けないって事だからな。スカーフ君はビビリですねぇ」
フツバがさっき殺気で本能的にビビらせて動けなくしたことを持ち出す。
アレは本能的にビビっているつまりは最高級のビビリである。
「んだと!あれはビビったんじゃねぇ!変なこと言うな!殴るぞ」
乱暴な性格が出てしまっている。
この歳で脅し文句が殴るぞは普通に異常だ。
この歳なら先生に言ってやろうが基本なのだが。
「殴ろうとしてもスカーフ君は動けないんですけどねぇ‼︎動けるようになってからそう言うことは言ってもらって良いですかぁ?ウェイ、ウェイ、ウェーイ!」
「お前っ!」
フツバが大人気無い態度でスカーフを煽る。
本当ならスカーフは殴りかかっているのだが、こんなにふざけて遊んでいるフツバでも目が見えているなら殺気を当てることなど易いことだ。
スカーフは今絶賛動けなくなっている。
「フフッ」
その大人気無いが一つも手が出せないスカーフがあまりにおかしくてレグレスが笑ってしまう。
「何笑ってんだ⁉︎」
顔を動かせないスカーフはレグレスを睨むことすらできない。
そんなおふざけをしている間に最後の一人の少女が忘れられたと思ったのか泣き出しそうになっていることに気づく。
「おっ、君も名前を教えてくれないか?」
フツバがそのふざけて明るい表情のままその子に話しかける。
「リィヤです」
声は震えていてまるで捨てられた子犬の様な泣き出しそうな目をしている。
「そうか、リィヤだな。無理強いはしないから嫌なら嫌でいいんだぞ」
フツバはあまりに戦闘に不向きそうなリィヤを無理に参加させようとはしない。
「いぇ、私もできます」
その言葉の割にえらく体も震えているが参加することをまた無理に辞めさせようともしない。
「よし!それじゃあ名前も聞いてことだし始めるか!まず最初は、」
特に強さに執着があるスカーフとリーレンスはフツバの発言に傾聴する。
「飯だ!腹減った!」
わざわざ、陽の下まで出てきて最初にする修行は飯である。