三・五章13話 説教
どうもビタミンです。
今日から投稿頻度を増やしていこうと思いますのでよろしくお願いします。
「ただいまー」
「たっだいまー」
「ただいまです」
「お帰りー」
子ども四人が元気よくサクラ寮へと戻ってくる。
遅れてサイトウも入ってくるが子どもたちのような元気は無く、疲れきっている。
子ども達は手を洗いに行っている。
「あ、フツバさん。話は終わりましたか?」
サイトウがフツバに気づき明るく喋りかけて来る。
「あぁ、終わったよ」
サイトウがライラが浮かない顔をしている事に気づくが今は何も言わずにサイトウの話の本題へ入る。
「ところでフツバさん。私も話があります」
「何?急に」
フツバは突拍子もなく真面目な顔つきをするサイトウを空恐ろしくなる。
「フツバさん、あの子達に剣を教えてやってくれませんか?」
サイトウが頭を下げてそう嘆願する。
「嫌だ!」
そこに口出ししてきたのは一番早くに手を洗い終わったツーブロックの少年だった。
そこにゾロゾロと遅れて子ども達が勢揃いする。
「なに?」
「どうしました?そんな大きい声出して」
「サイトウがコイツに俺たちに剣を教えてくれって頼みやがった」
少年は尖った目と指でフツバを指す。
「私も嫌よ!」
ツインテール少女が賛同する。
他二人も続くのかと思ったが何も言わずにただモジモジしている。
「でも、あなた達だって氷野さんに教えてもらった事は基礎中の基礎で、自分達ではそこからどうにもできないことぐらい分かってますよね」
サイトウに痛いところを刺されたのか少年はそれ以上の言葉が喉で詰まって出てこない。
「サイトウ、何で氷野はコイツらに剣を教えたか聞いたか?」
「はい、この子達がいつ一人になっても暴力を振るわれずに済むように、この子達自身が守る力を持つ必要がある。っと」
「そうか。二人はどう思う?」
フツバがいつも通り傍観していた二人に話を振る。
二人はフツバから選択の相談をされると思っておらず少し面食らった様子だ。
「私はフツバさんが問題ないと思うなら構いませんよ。フツバさんの事ならきっとこの子達の心にも余裕を持たす事が出来ると思いますし」
アトラが自分に優しくしてくれたフツバならこの子達の助けにもなると思い、特に桃髪の子達と接するのを嫌な素振りは見せない。
「私も勿論良いわよ。ここの周り森は薬草生えてそうだったから楽しそうだし。いつも通りフツバに任せるわ」
ライラが行き道で見た森の中の薬草に心躍らせているようだ。
もう完全に薬学のヴェーラが体に染み付いている。
「分かった、ありがとう。二人とも」
フツバが二人の意見を聞き、心を落ち着かせて自分の心に立志する。
「待てよ!何でお前らだけに選択肢が有ると思ってたんだよ!俺たちが嫌って言ったらそれで終わりだろうが!勝手に決めてんじゃねぇよ!」
自分達を置いて進められていく話に怒りが爆発する。
しかし、フツバはその激怒に耳を貸すことはなく見向きもしない。
「サイトウ、その依頼受けるよ」
「おい、待てって言ってんだろ!」
怒鳴り散らかしている少年を居ないかのように扱うフツバ。
「よし、お前らこれからお前らに戦い方を教えるオトメ・フツバだ。よろしく」
フツバが少年達に偽名ではなく本名を名乗る。
外の事を詳しく知らない少年達はその名前でピンっと来ることは何もない。
「ねぇ、私達がいつアンタに教えられるなんて言ったの!さっきから嫌って言ってるわよね!」
ツインテールの女の子も流石に怒る。
フツバの耳にやっと声が届いたのかフツバが少年達の方に目をやる。
「お前たち、中庭の木に集合だ。よし、行くぞ」
フツバが少年達の主張には何も触れず命令を出す。
「珍しいですね。フツバさんにしてはあんな強引にするなんて」
「そうね」
二人がフツバのらしくない行動に異変を感じるが、心配をしようとは思えない。
フツバが中庭に向かって歩いていく。
「てめぇ!いい加減にしろ!」
少年の声に食堂を出ようとしたフツバが足を止める。
「止めてみろよ。お前達の意見も聞かず、勝手に話を進める俺を止めてみろよ」
「は?」
「お前達は自分で気づいてるんだろ。今のお前達には人一人止める力が無いって」
「そんな事分かってる!」
見透かした様な態度のフツバに憤る。
「分かってるんなら何故剣を教えられる事を拒むんだよ」
「それは、」
「氷野先生じゃないから。とか言ったらぶっ飛ばすからな」
フツバが先手を打って少年を黙らせる。
黙ると言うことはフツバの言った通りに言うつもりだった様だ。
「お前達はあの人から何を学んだ!戦い方を学ぶのに教えられる相手で決めてんじゃねぇ!氷野も言ってたんだろ、自分を守るためにって!お前達が、いや、弱い奴が戦い方を学ぶ理由を自分の為以外にしていいのは強くなってからなんだよ!
そうやって、誰かだから、誰かの為って格好つけてるとな!助けたい人が出来た時にはもう手遅れになっちまうんだよ!自分の為にって持った力が救うのは自分じゃない自分以外のもっと大事なものなんだよ!」
「……」
フツバの心の底からの何かが少年少女の心を震わせる。
何がそんなに震わせるのかは分からない。
ただ、その言葉が単なる説教の言葉ではないことは分かる。
「今、やらないとお前達は大事なものを山程失うことになるぞ。それは誇りとかそんなもんじゃねぇ。もっと大事なものだ。その時になってから反省したってもう遅いんだよ。だから、自分の為に学べ!分かった奴だけ中庭来い」
フツバは少年達を無視し続けた。
今の言葉は少年達に向けた言葉の様に聞こえる過去の自分へ向けた説教なのだから。