三・五章 12話 氷河期の男
「ど、ど、ど、どういうことよ⁉︎ 四豪御雷が来てたんならここ早く出なくちゃ!」
ライラは危険を察知して慌て出す。
しかしこれは二人の言葉足らずが招いた結果だ。
「悪い、四豪御雷っても現役じゃない」
フツバが自分の言葉足らずを反省しつつ、情報を付け加えていく。
「現役じゃないって、どいういうこと?」
たいていの四豪御雷は戦没か、怪我による障害で引退をする。
だが、四豪御雷ともなると引退しても犯人逮捕の助力や外交官を任されたりする。
なのでこんな所で生きのうのうとしている元四豪御雷がいるはずがないのだ。
「その言葉の通りだよ」
「そんな訳ない!私も四豪御雷くらい有名になるとある程度知ってるのよ!今生存してる人たちはみんな新しい地位についてるわ」
ライラも一応はお姫様なのだから国軍については流石に知っている。
フツバがその返答がくるのを分かっていたかのように小さく頷く。
「ある程度知ってるんなら、名前にピンと来て欲しいな」
「名前って確か、」
昨日の夜の子供たちが大声で入ってきた時のことを思い出す。
「漢字表記で「氷野」です」
アトラがライラの知らない漢字表記という情報で手助けする。
「漢字なんだ。珍しいわね。それで氷野、氷野、こ……おりってまさか!」
ライラが漢字の意味から一人の人物へと辿り着く。
それは過去の四豪御雷の中でも唯一ここに訪れている可能性がある男。
「御明察!そっ、あの『戦場の氷河期』エイサム・レグネイズだ」
この男、約20年前に活躍した四豪御雷である。
レグネイズが戦場に現れると戦場が氷つくということからこの二つ名がついた。
そしてなによりもレグネイズはヴェーラを持った貴重な人物であった。
その男はある日を境に姿を完全に消した。
戦死した、圧力で消された、など様々な憶測が広まっている程国民からも注目の存在だった。
しかし、時々目撃情報が多数上がる。
その量が悪戯のレベルではないことから生きてはいるのではと言われていた。
「でも生きてるかもよく分からないのよ。そんな人がなんでここに来たなんて分かるの?」
ライラの首をかしげる動きと寝癖が同じ動きをする。
「あの子たちがこう言ってたんだ。あの広場に一瞬で氷を張り俺たちを楽しませてくれたってな。そんなこと出来る人はあの人しかいねぇ。更には顔に傷が有ったことも覚えてる子がいた」
レグネイズの特徴は男らしい顔立ちに傷が斜めに入ったクールな男だ。
氷を一瞬で張れて、顔に傷があれば確定と見て間違いはない。
「分かった。前の人がレグネイズさんって事はね。けど何であの子たちをどこかへ行かせたの?話してあげればいいじゃない」
これはフツバを手助けしてくれてる某魔女さんの助言が理由だ。
魔女さんはレグネイズのことを前に教えてくれていた。
「レグネイズはな、今は国の特殊暗殺機関に属しているって話が一部では有名なんだ。それも相当有力な話らしい」
「どこでそんな情報手に入れたのか聞きたい所だけど、それじゃ答えになってないじゃない」
その通りで、フツバの今の話は何ら返答になっていない。
「よく考えてみてください。国の暗殺機関なんて物が本当にあった時のこと考えてみてくださいよ。次の獲物は誰だと思います?」
「そっか!フツバだ!」
「俺というか、ここにいる三人とも暗殺対象だろうな。だからレグネイズと敵対関係であるということをアイツらに聞かせたくなかったんだ」
フツバの歪な優しさが露呈してしまったのだった。