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三・五章8話 二人の影


「あと十分もしたらあの人達は寝ますので、それから動き出しますよ」


 サイトウが遠くの家の光の様子を観察しながら言う。

 フツバ達は待つのが長すぎて全員仮眠を取ろうとしていたところだった。

 眠たい目を擦りながら起きてくる。


「ていうか動き出すってどこに向かうんだよぉぉ?」


 フツバが欠伸をしながら話す。


「まずはすぐ隣の森の中に入ってください。本当ならもう少し目的地に近い入り口から入ろうと思っていたんですが。どうやら私たちは警戒されているようなので」


 この一、ニ時間の間外を観察していたサイトウは見回りのこちらに向けるおかしな視線を危険に感じとったらしい。


「待て、あの森の中に入るのか?」


 フツバが立ち入り禁止の看板が立った方を指す。


「えぇ、あの中に」


 その視線の先を見てもサイトウは肯定する。

 

「待ってよ!あんな怪しげな木がたくさん生えてる所に行くの?」


 ライラが葉の量が異常に多い歩きにくそうな針葉樹の森を見て顰める。

 森の中も真っ暗で中の様子が窺えない。

 立ち入り禁止の看板の意味がよく分かる。


「あの立ち入り禁止って何で立ってる?」


「アレはこの町の住人をあの森に近寄らせない為に作った物です。実際、中には危険なことは無いし、あの木も見た目はああも物騒ですが特に害はないですしね」


 サイトウの日々の努力が行動を通して伝わってくる。

 村の人を近づかせない様に立ち回り、自分が中に入るところも見られない様にする。

 それを続けるのは並外れた努力を要する。


「あの中にほんとに子ども達がいるのね⁉︎」


 ライラが若干キレ気味でサイトウに聞く。


「はい」


「もう、分かったわよ。せっかく新調した服がもう汚れちゃいそうね」


 ライラが踊り子の様な可愛らしい服を勿体なさそうに見つめる。

 アトラは緊張しているのか口数が少ない。

 子ども達となるとセメラルトとはまた違うキツさがあるのだろう。

 アトラも子どもの頃に桃髪のせいで起こった問題もある。

 それを思えば当然の態度である。

 三人は下手に励まそうとはしないが、また一人きりにしようともしない。

 アトラが話せる会話は平然と話を振る。

 それにアトラも平然と答えていた。

 ただ一つ、フツバが気になることがある。

 それはあの帰り際のサイトウの発言だ。

 深くは追求してないが元気だとか言っていた。

 フツバにはその言葉が理解し難いので今は聞かなかったことにしている。

 

「皆さん!行きますよ」


 サイトウが立ち上がり、スッと音を消して外に出て行く。

 ライラ、フツバ、アトラの順でついて行く。

 タイミングを見計らっただけあり、本当に周りには誰もいない。

 一人も見られることなく森の中へ忍び込む。

 草が生い茂ってるせいで一歩一歩多少の音はなってしまう。

 ライラは服に土がついてはフツバの方を見て悲しそうな顔で見てくる。

 また新しい服を買えという意思を遠回しに伝えてきている。

 森に入ってから二十メートルほど歩いた。


「ここなら少しくらいならもう喋っても大丈夫です。大声は出してはダメですよ」


 サイトウがずっと喋りたそうにしていたライラに伝える。

 それでも今、特にこれと言って重要な喋ることもないので沈黙が続く。

 フツバは喋る許可よりも大声の規制がフラグにしか聞こえない。

 この言葉のせいで一つのイベントが確定した。

 ライラの目の前に突然蜘蛛が垂れてきて、ライラの顔に当たる。

 昆虫などという生物を文献でしか聞いたことのなかったライラからしたらこれは、


「ヌゥアッ」


 絶叫イベントであったがフツバが察知してたおかげで口を塞ぐことに成功する。

 サイトウが漏れた大声のカケラによりバレてないかと森の外を見るが人の気配はない。


「ねぇ、姫さん。今ヌァーーーって叫ぼうとした?」


 フツバがこっそり二人にしか聞こえない声で聞く。


「そんなまさか。お姫様がそんなエグい驚き方しないでしょ」


 額に冷や汗垂らしながら、否定するライラ。

 

「初めてみる八本足の感想は?」


「辛うじて美味しそう」


「え、どういう感想⁉︎」


 フツバが正常な返答が来なかったことにふざけたテンションで驚く。

 フツバとライラが仲良く話していても珍しく入ってこないアトラ。

 

「そろそろ着きますよ」


 サイトウが後ろの三人にだけ聞こえるように囁く。


「キャッ!」


 フツバが突然ライラの服を引き、フツバの方へ引き寄せる。

 フツバがライラの前に立つ。

 直後に木から小さな謎の影が二つフツバの前に飛び降りてくる。

 その二人は剣を持っている様でそれでフツバに立ち向かってくる。

 フツバは二人の剣先をおもちゃの剣かの様に容易に掴み取る。

 二人は剣をフツバに掴まれると即座の判断で手を離し、懐から潜ませておいたもう一つの小さな剣を両手の塞がったフツバを刺しにかかる。

 フツバはその状況をピンチとも思わず動揺せず冷静に姿勢を落として足払いで片方を転ばせる。

 もう一人は屈んだフツバに目掛けて矛先を向けている。

 フツバは剣を持っている方の手首を最初に掴み取った剣の柄で挟む様にして一瞬だけ突き、衝撃を与える。

 フツバはそこが一瞬でも両方から強い力が加わると人体の関係上、手を開いてしまうことを知っていた。

 剣が手から離れ落ちる。

 そのフツバにまだ殺さんとばかりに足払いをされた影は突撃してくる。 

 その攻撃を対処したのはフツバではなく、


「お前たち!何してるんだ⁉︎」


 サイトウが足払いをされた方の影のまだ小さな体を持ち上げる。

 手足をバタバタ動かして抵抗するも離してくれない。

 

「何って、サイトウが脅されてたから助けてやったんだろが‼︎感謝しろよな‼︎」


 幼い子ども特有の元気に溢れた声で反論する。

 フツバに剣を離されてしまったもう一人の方も持ち上げられる。


「その通りだぞ!誰も連れてきたことなんてなかったのに、急に連れてきたから脅されてると思って助けなきゃってな!」


 フツバを襲った刺客の正体。

 桃色の髪をツーブロックにした一人のガムシャラな男の子に、ツインテールにしている桃髪ロングの元気ハツラツな女の子だった。

 

「コイツらは?」


 フツバがコテンパンにされて不貞腐れている二人の子どもを見てサイトウに聞く。


「この子たちがお話しした桃髪の子どもたちです。いい子たちでしょ!」


 何故か殺しにかかってきた子ども達を誇らしげに紹介するサイトウ。


「マジで元気いっぱいじゃん」

 

 想定と百八十度ズレた子ども達にフツバは苦笑いで応えた。



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