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三・五章5話 ピンクの空気

「誰か来ます⁉︎」


 フツバが向かった方向から近づいてくる人影。

 この場所で安易に人がいたからといって話しかけるのは危険だ。

 二人は息を潜めて様子を窺う。

 近づいてくる足音は土を踏む音と同時に金と金がぶつかる音も鳴らしている。

 歩く速度に足音、確実にフツバではない。

 

「豚ちゃーん、なーに倒されちゃってんの?」


 そう言って肌は黒く日焼けしており、サングラスをかけ金製品で身を纏った男が軽快なステップで倒れた男に近づいていく。

 男はまだ白目を剥いて倒れている。


「起きてーーーー」


 チャラついた男は倒れたものの頬を往復ビンタして目を覚まさせる。


「ん、んん?ネマーさん?……そうだ!俺確か‼︎」


「うーん、君完全にやられてたねー!珍しいじゃん!どんな奴だったんだ?教えてくれよぉ!」


 語尾をあげる、癖のある喋り方だ。

 チャラついた男は常に手に金貨を持ち金を打ち合わせて金属音を鳴らしている。


「そいつらは三人組で全員変な仮面を付けてました。それから、えっと、女が二人だと思います。一人の男が俺を一瞬で」


 頭が痛む中記憶を呼び起こしていく。

 

「へぇ〜、君を一瞬で、ね」


 金を手の中で擦り合わせて音を鳴らしながら、何かを考えている。

 アトラとライラは相手が少し体を動かせば見える位置にいる。

 二人が完全に動きを止め、呼吸音一つ立てない。

 二人も身の潜め方が長い逃亡生活で上手くなっている。


「探してみようか!」


 ネマーは話の男に興味を持ってしまったらしく、持っていた金貨を手から離して地面に落とす。

 金貨と地面との衝突音が辺りに響く。

 ネマーは目を瞑り、聴覚に意識を集中させているようだった。


「いた」


 ネマーが笑いながらそう呟く。


「えっ?どこに」


 倒された男は周りを見渡すがそこからでは二人の姿を見ることができない。


「僕達の右斜め後ろに路地裏があるだろ、そこにいる」


「「‼︎」」


 二人が位置をドンピシャで言い当てられ音を立てずに驚く。

 勘で当てたとは考えずらいがもし勘だった場合動くのは相手に位置をばらすことになる。

 そして何よりここを動くという選択肢がライラにはあってもアトラには無いのだ。

 アトラはフツバに言われてあれから一度も足の位置を動かしていない。

 上半身を寄せたりするだけで足元の位置は絶対に変えていない。

 そう二人が焦っているとネマーがこっちに向かって歩き出す。


「どうするんだよ⁉︎お二人さん!男は居ないようだけど逃げなくて大丈夫?」


 人数から性別まで全てをまるで見ているかのように言い当てる。

 ドンドンゆっくりと近づいてくる。

 

「はい、みーつけた」


 ラングラスをかけ、肌は日焼けしており、服装は色とりどりでド派手だ。

 完全に二人と目が合う。

 

「どーしたの?なんで逃げないの?足がすくんでいるわけでもっ!」


 ネマーは喋っている途中で急に屈み込む。

 それは背後から迫る小型の機械による光線の攻撃を避けるためだった。


「クソッ!当たりませんでしたか!」


 動かなくとも今のアトラには戦う方法はある。

 特にこの機械はフツバに壊された機械を改良した物。

 相手を自動追尾するというとんでも機能が搭載されている。


「よっ、よっ、よっと」


 ネマーは五台から放たれる光線をまるで踊るが如く躱していく。

 そして隙を見つけその一瞬で金属片を一つにつき一台を壊す。

 

「お嬢ちゃん、こんな遅い光線じゃ俺はやれないな。あそこで寝てる奴ならまだしも」


「また壊された」


 せっかく改良したアトラの機械を成果をあげることなく壊されたことに怒るアトラ。

 ネマーはまた金を手の上で何度も跳ねさせて、金属音を鳴らしている。


「なーんで逃げないの?俺がこんなに逃げる時間を与えてるっていうのにさ」


 頑なに逃げない二人に違和感を覚えて、警戒するネマー。

 罠が張られているのかと警戒もするがそんな様子もない。


「何なんだよ!」


 ネマーは何も無いことに逆ギレし、アトラ達に金属片を飛ばしてくる。

 

「きゃーー‼︎」


 二人が絶叫しながらも一歩も動かず見事に見切り、偶然全てを躱す。

 二人ともただしゃがんでだけで避けれたので元々当てるつもりではなく何かの罠をさらに警戒したものだと思われる。


「ただの女二人か!うちの奴をやってくれた事だし一旦動けなくなってもらわなきゃねっ!」


 何も無いことを確信したネマーは胸ポケットから金貨ではない特性の金属片を取り出す。

 それは先が鋭利に尖っており人を怪我させる為の設計になっている。

 ネマーが腕を上に上げて金属片を投げつけようとしたその時、


「隙あり!」


 アトラが狙っていたかのように懐から先程の機械を銃にした物で男の隙だらけの腹へ一発撃ち込む。

 光線は見事に腹に当たる。

 威力は一般の人なら気絶するほどには作っているのでネマーでもダメージをくらうはずだった。

 しかし、


「懐を狙っちまったのが金の尽きだな」


 ネマーがそう呟くと光線が当たったはずの部分から大量の焦げた金属片が溢れてくる。

 

「俺が懐からこれを出したことを理解して顔を狙うべきだったな」


 アトラの半端な優しさが顔を狙わせなかったせいでダメージを与え損ねてしまう。

 しかし二人の攻撃はこれだけではなかった。

 ここに五英傑の弟子が一人いることを忘れてはいけない。

 ただ何もせず、眺めているだけのライラではない。


「そろそろかしら」


 ライラが不敵に笑う。

 その目つきは一国の姫とは思えない。


「何をしたんだよ⁉︎これは?」


 今まで何故不思議に思わなかったのか、この辺りはいつの間にか薄いピンクがかった空気が充満している。

 普通なら違和感に感じるほどの色合いなのに今の今まで気づけなかった。


「さぁ、あなたがここに来てから何分経った?」


 ライラが男に問う。


「そんなもの、ってあれ?」

 

 ネマーは自分の記憶を遡り、時間の経過を思い出そうするが思考ができない。

 

「何分経ったんだ⁉︎」


 ライラは何か物理的な攻撃をしたのではない。

 ライラがしたことそれはただ一つ。

 パナセアに教えられたライラの一つの戦い方。

 それは


「フツバが来るまでの時間稼ぎ!」


「何なんですこれ?」


 アトラも知らされていなかったこの状況に疑問を持っている。

 

「この空気はね、吸った人の時間感覚を麻痺させる毒を持った花から作られてるの」


「それって⁉︎」


 アトラがライラを希望に溢れた眼差しで見つめる。


「クッ!」

 

 ネマーが今更口元を押さえるがもう遅い。

 この辺りには完全に充満しており、効果はずっと前から発動している。


「私たちの一秒は、他人にとっては三秒よ」


 ライラが勝ち誇った笑みで笑う。

 戦う手段を持たないパナセアから教わった術。

 こんな珍しい攻撃を仕掛ける人はそういない。

 対処を誰もが遅れる。


「テメェ、やりやがったな‼︎」


 いち早く殺さんとばかりに懐から大量に金属片を掴み投げつけようとした時。

 二人の目はネマーを見ているのではなくその後ろを見ていたことにネマーは気づく。


「遅いわよ」


 ライラがそう言った瞬間、背後に斬撃をくらう。

 

「悪りぃ、遅れた」


 フツバのたった一人の戦闘要員の登場だ。


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