三・五章2話 絵本
どうもビタミンです。
はい、また特に意味ない回です。
実の事を言うと僕の中での書き方が少し変わりました。
というか改良しました。
ここでやっと成長した人の文ですが読んで頂けると幸いです。
「んで、アンタ何?」
フツバが面倒くさそうにボロボロの服を着た女に喋りかける。
「私キャイ?私は絵本書きのポルチーノでゃあよ。よろしくぬぅえ」
所々気持ち悪い喋り方をするポルチーノ。
一旦そこは突っ込まないでおく。
「絵本?」
「そう!絵本を書いてるんだ!来て見てくれトゥマエ!」
女がフツバの手を鷲掴み強引に引っ張っていく。
アトラもせっせこと後ろをついて行く。
ちなみにこの安易にフツバの手を握った女を許そうとは思っていない。
道中、変な連中だからか異様に人に見られる。
特に男の目がとろけていたのでアトラの可愛さがそこまで貫通していたのかと驚きを覚える。
少し歩いた所で服装からのイメージ通りの家がそこにある。
ボロボロで蜘蛛の巣が張っており、壁には穴が空いているところもある。
あとは周りに生い茂る雑草がとてつもなくウザい。
家からはとんでもない匂いがする。
「ちょっと待ってて!」
女はフツバ達を家の前に留まらせておくと家の中へ入って行く。
雑草や蜘蛛の巣が無いかのような立ち振る舞いには流石に引く。
「フツバさんあの人何なんですか!」
アトラが目を尖らせ、フツバの袖を引っ張りながら怒った口調で聞いてくる。
何にそこまで怒っているかは分からないがフツバにその質問の答えを求めるのは間違っている。
「知らないよ、絵本書きなんだとよ。なんか無理矢理連れてこられただけだし。まぁ、おもろそうだからいいけど」
フツバが雰囲気から変人オーラを嗅ぎ取り、少し興味を持っている。
「いや!そんなことじゃ無いですよ⁉︎」
アトラが何故か答えた筈なのに怒っている。
「そんな事って、他に何が?」
「あの人の格好を見て何も思わないんですか?それでも男ですか?」
アトラはどうやら格好について怒っているらしい。
フツバにはなんのことだか全くわからない。
「何が?」
「あの人の服装と体型が合ってなさ過ぎますよ‼︎あの豊満な胸なのにあんなボロボロの服、フツバさんはあんな格好を見ても何も思わないんですか⁉︎」
アトラの怒ってる理由を聞いたと同時に道中での男達の目にも納得がいく。
確かに言われてみればポルチーノはだいぶ大きなお胸を、そうまさに爆発寸前、つまりは爆乳を携えているわけだ。
あれに肌が見え見えの格好は確かに男達の目がとろけるのも無理はない。
フツバは幸いなのかは分からないがそこらへんの感覚が常人とは異なる。
その格好を見て、一切如何わしい気持ちにならないのだ。
「何も、思わなかった。ていうかマジで気づかなかった」
フツバが自分の鈍感な感覚に嫌気がさしながらも答える。
アトラはどうやらフツバがそれに釣られたと思っていたらしくその様子を見て安心している。
この鈍感さは後天的な物なのだが、ハニートラップを防ぐ修行としては成果は十分だったと言えるだろう。
フツバは可愛いとかそこら辺の感情があるのに性的な目を持つという点が欠如している。
そんな一悶着があった所でポルチーノが大量の雑誌の束を両手に持って家から出てくる。
雑誌の高層マンションは今にも崩れそうなのでフツバが雑草を踏み潰しながら近寄り、片方持ってあげる。
「ありがとうごでぇます」
「いいけど、これは何?」
表紙にはユニークな絵が描かれているが人間が快く思える絵では無い。
「これは私が書いた絵本どぅわ」
フツバ達はその言葉に唖然とする。
それはこの絵本と言われている一冊一冊はとんでもなく薄く、話が完結するとは思えないほど薄いからである。
「これが絵本ねぇ……帰っていい?」
「ちょうぉっとぉ!!一冊銀貨一枚でどうですか?」
ポルチーノは安くしたつもりでいるらしいがこの薄さで銀貨一枚は流石にない。
フツバがアトラに無言で帰るサインを送る。
アトラと心は通じていたらしく興味を持たずに帰ろうしてくれる。
「私が、私がメラルドの消失の作者でぅわ!」
フツバの足がピタリと止まる。
ゆっくりと首を回してポルチーノを見る。
フツバは話を聞く価値があると思ったのかまた舞い戻って行く。
アトラはフツバの後ろをついて行く。
「ポルチーノさん何歳なの?」
「失礼どぅわね。私はこれでも四十、ピロピロピロピロ歳だ」
口元を隠しながらピロピロ言っているがもし本当にメラルドの話を書いたのがこの人なのだとしたらこの人は相当若い頃から本を描いてることになる。
「作者っていう証拠はありゅのきゅわ?」
フツバがポルチーノに寄せた喋り方をする。
よく今まで真似したかったと思うほど真似しやすくやってみると面白い。
「ありゅよ。そこの一番下に埋まってるのが原本だった筈どゅわよ」
フツバは足元にある一束のそこから薄汚れた本を取り出す。
そこにはメラルドの消失と書かれた本があった。
確かに年季の入り具合から見るに作者である可能性は多いにある。
「表紙が一般で売られている物とも確かに違うな」
フツバが中身をパラパラとめくりながら確かめていく。
「君、僕の本を買ってくれてるのか⁉︎それは凄く見る目があるぬぅえ」
「買ったというか持ってる人のを読ませてもらった事があるだけなんですけど」
実はフツバが見たのはガーリンが持っていたからだった。
(「これなんすか?」
フツバが古い木造建築の家の中の本棚から明らかに様子が違う一冊を取り出す。
椅子の上に両足を乗せるという大胆な座り方をした大刀を持った男が白銀の頭を掻きむしり、記憶を呼び起こす。
「それか。ずっと前に流行った絵本だな」
「絵本なんて買うんすね?」
「それは特別だ。ちょっと中身に興味があってな。その作者と一度その本を作った経緯を聞いてみてぇもんだ、ガハ」)
「この本、なんで作ったんですか?」
あの人が聞けなかった事を代わりに聞く。
「ん?面白い所に目をちゅけるねぇ」
豊満な胸を揺らし仮面越しでフツバの目の色を見てくる。
「私は夢を見るんだ。それも私に関係のない夢。私にはきっとそういう力があるんでゅわ!」
ポルチーノは大きく飛び上がりガニ股で着地し、胸を上下に振るわせる。
危うい服を着てるのであまり過激な動きは避けてほしい。
「でも見た感じどれもピラピラの薄いやつが何枚もあるだけでまともに完成してるのはそれだけみたいですけど?」
自分でもそれを分かっていたのか痛いところを突かれたような顔ををする。
「でもね、それの本は私が見た中でも何故かとても鮮明だったんでゅわ!そして現実味があった。だからその本は売れたんだと思ってりゅんだ」
確かに中の絵は舞台の北の国を綺麗に描いており、夢の中の情景とは思えないほどリアルだ。
「他のは何があるんですかね」
アトラが大量の本をそれぞれ見ていく。
ガーリンが一目は置いた人だ。
もっと面白い本があるかもしれない。
「えっと、『未来少年』に『脳みそだけ女』、『英雄の裏切り』ってなんか抽象的な物ばっかだな」
次から次へと本の題名だけ見ては撒き散らして行く。
ポルチーノが後ろでそれを一つ一つ右往左往しながら受け止めている。
フツバが一つの束を全て見終わった時、アトラが一冊の本に気を取られていた事が分かる。
「何の本だ?」
フツバが立ち上がり上から覗き込む。
『天使、再降し、誘う』という本だった。
「それはねぇ、私達の前に天使が舞い降りてくるお話でゅわよ。興味持っとぅわ?」
ポルチーノは否定的だったアトラが興味を持ったことに偉く嬉しそうだ。
「これはどうして」
アトラが虚無な表情で聞く。
ポルチーノは様子がおかしいことには気づくが答える。
「だから夢に出てきたんだって。面白い夢でゅえしょ?」
ポルチーノは自信に満ち満ちており、自分の作品が大好きな様子だ。
その四十、ピロピロピロピロ歳にしてその可愛らしい有様に一冊買うことにするフツバ。
「一冊銀貨一枚だっけ?」
「うん、そうだぁよ」
あまりに内容と見合わない金額だがポケットから一枚銀貨を出し渡す。
それに餌を前に出された猛獣のように飛びつく。
「なんか可哀想だし、一人一冊買ってくわ」
「ほんとゅに⁉︎ありがとぅや」
手を合わせて神に祈るかのように深く頭を下げるポルチーノ。
ここまで感謝されるなら少しの出費ぐらい我慢しよう。
アトラはどうやらあの本に夢中らしくフツバが独断でライラの分まで探す。
「『大陸が泣いている』とかいいな。これを買って行こ。んで俺の分は、」
フツバが漁りながら銀貨を一枚ポルチーノに投げ渡す。
ポルチーノはそこで何かを思い出したかのようにフツバの肩を叩く。
「何?あと一冊しか買わないよ」
「分かってりゅ。それなら今とっておきの物がありゅの」
ポルチーノはそう言うとまたボロボロの家へ入っていく。
今度は僅かな時間で出てきて、本を一冊だけ脇に抱えている。
「これ!」
ポルチーノが晴れやかな表情で題名を見やすいようにフツバに渡す。
「ん?……なっ!」
フツバがじっくりとその題名をみるとそれに驚く。
アトラもその反応にどんな本かとそれを見る。
アトラにとっては驚くに値しない題名。
「『大陸を守る少年。幼きにして最強の力で全てを捻じ伏せる。最強孤独の少年』って長‼︎なんですこの無駄に長い題名は⁉︎」
アトラが無駄に長く、内容をほとんど語っている題名に呆れる。
フツバはそれに驚いた訳ではないのだ。
ただ、
「よくこんな夢を見るな」
フツバが評価を改めたかのような尊敬する目でポルチーノを見る。
ポルチーノは慣れないその視線に動揺して言葉が紡げないようだ。
「そ、そ、そ、それは、さ、最近見た夢でしゅて、それも面白いんでしゅよ」
目線が行ったり来たりを繰り返してる。
アトラはそのフツバのポルチーノに向ける視線がアトラに向けられた事がない視線で非常に腹ただしい。
八つ当たりで手の甲をつねられたフツバは我に帰ったのか先程までと変わらぬ表情になる。
「それじゃあ、俺たちは偉大な絵本作家にも会えたし帰るとするか」
フツバが最後の銀貨を投げ渡す。
その枚数が二枚な事に驚くポルチーノはフツバの方を目ん玉が飛び出る間近の目で見る。
フツバはアトラを連れて帰り始めている。
フツバのサービス料を有り難く受け取ったポルチーノはまた深く礼をして
「ありがとうごじゃいましゅたー」
相変わらず出鱈目な言葉で名も知らぬ、顔も知らぬ男と女にお礼を言うのであった。
あと、すっごい胸を震わしていた。
読んで頂きありがとうございました。
今回は絵本嗅いでしゅた。
なんとも独特な喋り方で少し読みにくかったかもしれませんが感じてください。
三・五章で書きたかった事を次話から書き始めると思います。
それではまた次話でお会いしましょう。
良ければ、感想、アドバイス、質問、よろしくお願いします。