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三・五章1話 歯の抜けたおじいちゃん

どうもビタミンです。

今日から三・五章を書いていきます。

これは細かな話からちょっと長めの話などいつもは取り上げないような話が多いと思います。

そこら辺はまぁ後に関わったら関わらなかったりと色々あります。

それでは今回はおじいちゃんの話です。

 あの劇的ピンチから早二週間が経とうとしていた。

 フツバとアトラは部屋に引きこもりきっており、フツバは空想の相手との戦いはできるほどには回復した。

 アトラはアトラで新しい機械を開発しようとしているらしく、こっちはこっちで忙しそうだ。

 ライラは朝から晩まで勉強詰め。

 よくもまぁ、こんな集中力が二週間も続く物だ。

 フツバならとうの昔に文句垂れ垂れで続かないだろう。

 あれからもう騎士団は来なくなった。

 あのフツバに気付いていたかのようなガルートスの態度も気になるが攻めてこないなら有難い。

 バンはと言うと、バンはガルートスと会った次の日ぐらいにもうこの街を出て行ってしまったのだ。


(「か、帰る⁉︎」


 フツバがバンに告げられた言葉に驚く。

 バンは何ら変わらない面持ちで頷く。

 

「えぇ、僕は一週間しか外に出ること許されてませんから」


 バンがこれまた変わった事を言う。


「何?門限でもあるの?」


「門限みたいな物ですね。なので帰ります」


「帰りますっても俺たちもできることなら竹一族に会いたいんだけど」


「勝手に会いに来てください。道は教えますので」


「俺たちだけでも行くからいいけど、それよりお前自由に外に出れないの?」


「今はまだ出れませんね」


「あ、そう。紙か何かに書いておいてくれ。頼んだ」


「ではまた。お二人にもお伝えください。手厚く歓迎すると」


「へいへい、じゃあなバン」


 フツバがバンに一時別れを告げる。   


「ちょっと‼︎」


 離れていくフツバを呼び止めるバン。

 フツバが無言で振り向く。


「今の君じゃ僕には勝てない。だから次会う時までにもうちょっと強くなる事をオススメするよ」


 バンが偉くフツバを舐め腐った事を言ってくれる。

 五英傑の弟子は皆んなが皆んな二人の様に自信たっぷりになってしまう物なのだろうか。

 

「うるせぇ‼︎ちゃんとお前よりかは強くなるっての」


 二人共、不敵な笑みを見せて別れる。

 バンはこうしてこの街を去ったのだった。)

 

 フツバが引きこもるアトラがいる部屋をこじ開け、陽気なテンションで入ってくる。

 今日も今日とて暇だし元気だ。


「おーい、アトラ。出かけようぜ!」


 フツバが両手に懐かしい仮面を持って現れる。

 アトラがその言葉に心中で葛藤が起こる。

 察するに機械の開発に勤しむか、フツバとほぼデート状態を楽しむかという葛藤だろう。

 

「最近はこもってばかりですし、せっかくの機会ですからいきましょうかね」


「そうこなくっちゃ」


 アトラが承諾して投げられた仮面を受け取る。

 この一ヶ月をライラの修行だけに使うつもりはない。

 アトラもフツバも自分の実力を高めている。

 フツバに関してはパナセアから疲労の回復を促進してれる薬などを貰っていて修行もしやすそうだ。

 修行の日々にも休みは必要だ。

 ライラにはパナセアが付いていてその休みを取れないが二人は別だ。

 それにしてもフツバがアトラを誘って出かけるなんて珍しいこともある物だ。


「何をしに行くんですか?」


 アトラが目的を尋ねる。


「特にないけど」


 フツバが適当な事を適当に答える。


「そうですか、それじゃあ寄りたいとこに寄っても?」


「いいよ」


 アトラが先陣を切って進み出す。

 仮面を一応見られた事がある酒屋の前は通らず、目当ての店へ。

 場所はもちろん機材屋。

 相変わらず灰色の鉄の色がズラッと並んでいる。

 鉄分の匂いが鼻を刺す。

 アトラが欲しい物を品定めしている間フツバは暇である。

 そんなフツバを後ろから何者かが叩いてくる。

 フツバが焦って振り向くとそこには腰が直角に曲がった白髪を大量に生やした老人が細々と立っていた。


「どーしたの?おじいちゃん?」


 フツバがおじいちゃんに老人ホームの様な話しかける。

 おじいちゃんは年齢で少し変になってしまったのかずっと首からかけた錆びれたアクセサリーを触ってハワハワしている。

 そのアクセサリーの柄は錆びてしまっていてフツバには何か分からない。

 

「わ、わ、わ、ワシの名前は何かのぉ?」


「知るわけないよ、おじいちゃん」


 当たり前にフツバは知らない。

 だが、このおじいちゃんフツバの警戒に引っかからずにここまで近づいてきた。

 敵意がなかったのか何なのか分からないが不思議だ。


「名前はメラルドじゃっ」


「いや、自分で知ってんのかい!」


 元から自問自答していたのか知らないがフツバの軽いツッコミだけで後ろに尻餅をついてしまうおじいちゃん。

 フツバが焦って謝りながら起き上がらせる。

 その時後ろのアトラがフツバが何やら変な事をしていることに気づく。


「何してるんです?」


「なんか知らないけどおじいちゃんが喋りかけてきたんだよ。たぶんこれは認知症か何かだな。自分の名前も覚えてないっぽい」


「だからメラルドじゃ」


「はいはい」


 フツバがおじいちゃんを宥める。

 

「名前覚えてるじゃないですか」


 アトラにはおじいちゃんがしっかり名前を覚えているのにフツバが相手にしないのがわからない。


「ん?まぁな。でも歳から見るにこれは昔の記憶をむし返してるだけだと思う」


「昔の記憶?」


「メラルドって言うと、」


「英雄メラルドの消失!」

 

 フツバ達から遠くにいる女が大声で叫ぶ。

 フツバの声はそこまで大きくなかったのであの距離まで聞こえているのは不気味だが正解だ。

 その女は服はボロボロで汚く、寝癖のままの髪にインクか何かで汚れたカラフルな手。

 独特な雰囲気の女がズンズン近づいてくる。


「キュミみたいな歳の子がよくその話を知ってるね」


 女はフツバの若い体格からその話を知っていることに驚く。


「英雄メラルドって何ですか?」


 アトラは女を気にする事なく話を聞く。


「二、三十年前に流行った英雄譚的な奴だ」


「二十八年前!」


 女が細かい事を付け足してくる。

 フツバが女を不審に思うが自分の知識を披露できて嬉しそうなのでほっておく。


「つまりこの人が認知症になる前の最先端の記憶を掘り出したという事ですか、なるほど」


 アトラがフツバの推測に合点がいく。


「あれ?おじいちゃんどこ行った?」


 フツバがいつの間にか姿が消えたおじいちゃんを探す。

 またフツバが気づけなかった。


「あ!あそこにいるぞ!ショウォネン!」


 変な発音でフツバ達の背を指さす汚い女。

 フツバ達の後ろにいつの間にか過ぎていたおじいちゃん。

 おじいちゃんの側には謎の怪しげな若い男が居る。


「誘拐かよ!」


 フツバがすぐにおじいちゃんの元へ走っていく。


「おい、何してんのアンタ?」


 フツバが威圧的な態度で男に話しかける。


「何してるって、このおじいちゃんはうちのお客さんで怪しげな人達に話しかけられてたから助けたんだよ!」


 男がフツバの威圧的な態度に腹を立てて、怒鳴り返してくる。


「怪しげな奴ら?どこにいる?」


 フツバがすぐに辺りを警戒して見渡す。


「いやアンタらだよ」


 フツバが意表を疲れたかの様に自分を指でさして確かめる。


「そりゃあ、怪しいだろ!おじいちゃんを仮面した二人とボロボロの女一人で囲って」


「確かに」


 フツバが言われてみれば真っ当な意見に納得する。

 

「俺達はその人から喋りかけられたとだけ言っとくけど。あと、お客さんっていうとあなたの職業は?」


 若い男は数秒間フツバを睨み続け、何もしない事を確認したのか話してくれる。


「俺は宿屋の者だよ。このおじいちゃんは旅人らしいんだ」


「た、旅人!このおじいちゃんが⁉︎」


 フツバが直角に曲がった腰をスリスリと摩っているおじいちゃんに目をやる。

 するとおじいちゃんもフツバの方をみて二回頷く。


「マジか、よく生きてんな。てっきりこの街によく出る変なおじいちゃんかと思ってた」


 フツバは旅の理由を聞きたいのは山々だが、おじいちゃんにも色々あるのだろうと配慮して聞くのはやめた。

 しかし、今後生きていけるか分からないこのおじいちゃんを、はいそうですかとほっといて殺すわけにはいかない。


「いらんよ」


 おじいちゃんが頭の中で葛藤しているフツバに言葉をかける。

 フツバはその言葉に反応し、おじいちゃんを見る。


「いらないって何が?」


 フツバが聞くよりも先に若い男が聞く。


「心配じゃよ」


 おじいちゃんがほとんど歯のない口で優しく喋る。

 

「お前さん、ワシの安否を案じておるじゃろ。それはいらんよと言ってるんだ」


「でも、」


「試してみる?」


 さっきまで自分の名前さえ言えなかったおじいちゃんが偉く自信ありげに拳を前に出してくる。

 これは力比べをしようと提案しているのだ。

 フツバは何を感じたのかこんなおじいちゃんの力比べに答える。

 アトラはまだ距離をとっており遠くから見守っている。

「どうせ、フツバ勝つ」、とこの場にいる皆が思っていた。

 フツバの事をフツバとは知らずとも若い方が勝つと思うのは当たり前だ。

 それも腰が直角に曲がったおじいちゃん、負ける筈がない。

 フツバも拳を合わせる。

 若い男はフツバに本気になるなよと目線を飛ばしてくる。

 そして合わさった拳に手を重ねる。


「始め!」


 男が重ねた手を上にあげ試合の始めの合図を出す。

 フツバは余裕の笑みでまずはおじいちゃんの実力がどんな物か見ようかと。


(ヤバい‼︎‼︎)


 フツバが拳から伝わってくる大きな波に反射的に全力を出してしまう。

 その力におじいちゃんは倒れ込んでしまう。


「おい!アンタやりすぎだ!」

 

 若い男はフツバが力の加減を間違ったことに腹を立てながらおじいちゃんを起こしてあげる。


「ご、ごめん」


「で?」


 おじいちゃんは何も無かったかのように聞いてくる。


「心配をまだするか?」


 おじいちゃんが一本しかない前歯を見せてニヤリと笑う。


「いぃや」


 フツバが脇汗をたっぷりかきながら答える。

 男はその返答を聞くとおじいちゃんを支えながら宿屋へと帰っていく。


(何だ、あの爺さん。一瞬だけだけどとんでもない力が加わった。俺、勝てたのかな)


 フツバは何だか負けた感じがして気持ち悪い。

 遠くへ離れていくおじいちゃんを見て、アトラが近づいてくる。

 

「珍しいですね。力加減を間違えるなんて」


 いつも正体がバレないようにと行動しているフツバがおじいちゃんを吹き飛ばしたことに不信感を持つアトラ。


「二週間ぶりに力加えると変な感じになっちゃった」


「まぁ、二週間なら仕方ありませんよね」


 フツバが自分の中だけでなにかを感じ取り他言はしない。

 

「フツバさん、もう一人変な人が居ますよ」


「そうだった」


 フツバが少し前から出てきてた謎の女の事を思い出し、そちらの解決に向かう。

 このおじいちゃんとの出会いがいずれ大きな恩となって返ってくる事をフツバは知るよしも無かった。

 そしてあのおじいちゃん、大量の白髪に歯の抜け具合なのにも関わらず、年齢はまだ五十前半であった。

 

読んで頂きありがとうございました。

謎のおじいちゃん。最後の伏線感満載の言葉。

いつ出てくるのかは正直今の僕にも断言できないほど先です。

軽く二、三百話は飛ぶでしょうね。

そんなこんなで次はあの近づいてきた女の話です。

ちなみにこれは読んだ方が楽しい章ぐらいの感じだと思って欲しいです。

それではまた次話でお会いしましょう。

良ければ、感想、アドバイス、質問、よろしくお願いします

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