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三章幕間 勘を舐めると痛い目遭うで


「中には誰も居ませんよ。私は一人暮らしなので」


 パナセアが扉を背に必死に抵抗する。

 フツバ達も逃げ場のないこの場所では地面に這いつくばって外から見える表面積を少しでも減らすことしかできない。


「いや、いいよー。そういうの。分かってるからー。中から気を感じる。これは勘違いで感じる様なもんじゃない。絶対に中に誰かいる。出てきなよー。もう逃げらんないから」


 ガルートスが部屋の中にも声が通る様に大声でそう呼びかける。

 事実、勘づかれてここまで来られては逃げ場はない。

 今のフツバがガルートスと戦って勝てる確率は微塵しかない。

 打開策を思考しているフツバの横を通り、扉の方に向かう、バン。

 無言で扉に向かう、バン。

 まさか戦おうとしているのではと焦るが今はフツバが声を出すことができない。

 外ではパナセアが居ないという一点張りで時間を稼いでくれている。

 バンが扉のノブに手をかけ、勢いよく扉を開ける。

 第一声に全員の注目が集まる。

 

「どうも、すいません。パナセアさん。なんか変な気使わせてしまったみたいで。私は確かに人とはあまり会いたくないですが、恩人にこれ以上迷惑を掛けるのもお世話になっている身からするとあまりに忍びありませんので」


 バンが陽気なテンションでいつの間にかフツバ達の仮面を盗んで付けて外に出る。

 パナセアもだいぶ困惑している様だがここはバンに任せるしかない。

 この数時間過ごして分かったがバンは知識量が多い訳ではないが頭の回転は早い方だ。

 きっと何か巧妙な言い訳を考えているのだろう。


「ほら、居たでしょー。隠さなくていいって。君は何?」


 ガルートスが何だか心なしか残念そうだが一応素性を聞く。


「私は実は、、、そこの魔獣を倒した者なんですよ」


「君が?」


「えぇ、とは言っても倒したのはその手前の奴だけで中まで入ってはないんですがね。私の存在を隠してもらってたのは私はこの仮面を被ってるとはいえ人と会ったり、喋ったりするのが大の嫌いでして。なので人と会うのは避けさせて貰っていたんです。ですがどうやら迷惑をかけてしまっていたみたいなので泣く泣く出てきた訳です。お金にはあまり困ってないので出ない予定だったのですが。ここまで来られてはもう私もお手上げです」


 鋭い目でバンの体の様子を観察する。

 巻かれた包帯、傷口、確かに治療はされていたらしい。


「あの手前の雑魚にそんなに傷を負ったの?」


「えぇ、まだ駆け出しな者でして、この様な形で優しい方に匿ってもらいながら修行しているもんなんです」


「ふん、一回前に出てきて」


 ガルートスの指示通り、外に出て全体を更に観察される。

 ここまで野生の勘で来たガルートスだ。

 きっとこのバンの嘘にも勘づいている。

 だが、バンの言葉が嘘だという証拠もない。

 一応は礼金という形だそれなのに見せたくないと言ってる顔を見せろというのは失礼に値する。

 

「分かった。お金の一部を渡すよー。わざわざ守ってくれてありがとーございまーす」


 心のこもってない素晴らしくないお礼だ。

 まさにゴミだ。

 だが、嘘を信じてくれた点では有り難い。

 これで一応は去ってくれる。

 ガルートスは袋から金貨を十枚取って、渡す。


「ありがとうございます」


「あの奥の方をやった人の事は知らないんだよねー?」


 完全に疑うことをやめたガルートス。

 

「知りませんね。手前で私も手一杯でして。奥まで行けてれば良かったんですが」


 本当に申し訳なさそうに、とにかく疑われない様にと心掛けて言葉を交わす。

 

「はい、それでは失礼します」

 

 ガルートスが引き返して行く。

 どうにかなったらしいと安心するフツバ達とバンとパナセア。

 全員が完全に乗り切ったと思った、しかし。

 バンは後ろから何かが飛んでくることを察知する。

 その何かは突発的で瞬速だ。 

 脳を経由して判断する余裕はない。

 だからこそ自然に手がその石を片手で掴んでしまう。

 バンは石が飛んできた方向でガルートスが野球の投球フォームのような綺麗な型で止まっている事に気づき、自分の失態に気づく。

 

「へぇ、今の不意打ちの一撃を片手で受け止めるんだー。手前で手一杯だった人がー。手前の雑魚にそんな怪我するんだー。変なのー。僕の本気の投石より雑魚の群れの方が強いんだー」


 返す言葉が無いバンとパナセア。

 脳をフル回転させて言い訳を考える。

 が、くだらない言い訳しか出てこない。


「今のはたまたま、」


 バンは言い訳を発する口を止め、確信する。

 今、目の前のガルートスがいい獲物を見つけたと悦び、目が血走り、口を横に大きく開き笑っているのは鼻からバンの実力を推測っていたのだと。

 騙せたと思っていたガルートスはただの相手の演技だったのだと。


「覚えたぞぉ‼︎緑髪に長い髪、二本の刀‼︎必死に隠してるその誰かさんの顔を拝めるのが楽しみだ‼︎またどこかで会えそうだな‼︎」


 鬼の形相でそう叫び、一応はまだ罪人では無いバンをこれ以上は問い詰めず去って行くガルートス。

 全身の毛が立つ感覚を久々に味わったバン。

 実力の大差を見せられたからなのではなく、嵌められたと分かった時のあの特有の興奮。

 去るガルートスに向かい風が吹いていた。

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