三章幕間 一番得意な事
「す、すいませんでしたぁー」
男はビビりながら走り去っていく。
四豪御雷が来たのが運の尽き、即興の嘘で実力者を騙せる訳はない。
「はい、それで嘘はもう良いのでこの中であれを倒した奴」
ガルートスがパンパンに金貨の入った布袋を提げる。
自分ではないと確信している者たちは諦めムードで早く終わって欲しいと思い始めている。
ある理由で早く見つけ出したいガルートスは加えて情報を付け足す。
「今回の礼金、金貨百五十枚になった。更に当人に近づく情報をくれた者にも金貨一枚をやる」
何もせず金貨一枚を貰えるとなるとこれまた意味が変わってくる。
この言葉でやっと全員が本気で記憶を探り出す。
民衆はお互いにあの時の状況を確認し合っている。
「ティオー様、礼金の金額を勝手にあげてよろしいんですか?」
先に着いていた一般隊士が心配する。
「ん?まぁ、良いだろー。どうせ、俺の報告書を見ればそうなるー。むしろもっと高くなるかもしれないよー」
幼稚な喋り方が鼻につく。
「もう森の中を見てこられたのですか?」
隊士が言葉の意味から察して質問する。
「うん、まーねー。一回目は軽ーく見るつもりだったんだけどねー。入り口ら辺にもう大物が転がってたからねー」
碧眼で木の丸太の後ろを見る。
そこを目くばせで見るように指示する。
二人の隊士も何があるのかと恐る恐る近づいて行く。
「うえっ」
二人が同時にえずく。
そこにあったのはサンライの上半身だった。
「何ですか?あれは」
口元を手で押さえて吐き気を抑える。
「あれは穢軼魔族の死体だーよ」
「穢軼魔族⁉︎そんな大物があんな風に?」
「そう、僕もビックリしちゃったー。今回は被害が小さかったから雑魚ばっかりだったっていう推測だったからー、残念だなー、って思ってたけど。面白そうで良かったー。アイツ相手でこの被害に抑えた奴がいるってのは結構重大だよー、これ」
手の関節をポキポキと鳴らしながら闘気が湧いてくるガルートス。
穢軼魔族、今のガルートスが戦って勝てるかわからない。
そいつを倒した奴がいる。
楽しみで仕方がない。
そしてガルートスは一人で最高の結果を妄想していた。
それは
(倒したのが一般人なら戦えない。だけどもしオトメ・フツバなら。戦う事も規定内だ。だから今は負傷してるだろうから拘束して、回復を待って戦う。それが良い、いやそれしか今は考えられない!)
溢れ出る脳汁が麻薬のような効果を齎し、ガルートスを絶頂にする。
戦いの鬼にとってはまだ知らぬ強者と戦えるのならそれでいい。
そうして絶頂になっていると民衆から一人が手を挙げる。
「あの、俺見ました!」
「ん?」
自我を取り戻したガルートスがその男を強く睨む。
恐怖で肩をビクつかせはしたがそれ以上の反応はない。
どうやら内容は置いといて一旦嘘つきではないらしい。
「何を見たんですか?」
一般隊士が優しく声をかける。
「あの本人に繋がるから分かりませんが、俺見たんです。獣魔雨でみんなが避難してるのに逃げる事なく逆にそっちに向かって行く人を!」
「へぇー」
ガルートスが興味を示す。
「誰ー?」
男はある人を指さして言う。
「あの人です。あの森の中に住んでるあの女の人。あの酒を飲んでる人が向かっていってました」
指の先には酒を飲んだパナセアが居た。
「え、私?」
パナセアが酒を片手に自分を指さす。
やってもいない自分が言われると思っていなかったようだ。
「君はどういう人ー?」
興味深げな目でパナセアに質問するガルートス。
パナセアも乱闘は特段好きではない。
「私はただあの家で薬を作って、売って、酒を飲んでを繰り返してるだけの一般人ですよ。だから私がそんな凄いことをできる人ではありません」
パナセアが酒を飲んでいるのに落ち着いた口調で話す。
こうして見ると美人なのが分かる。
「そうだねー。お姉さんからは何にも感じられないなー」
辺りを掻きながら取るに値しない相手だと踏んだガルートスが闘気を抑える。
その判断は五英傑相手なので間違いなのだが一度置いておこう。
「そうです、そうです。私もちょっと獣魔雨なんて珍しい物ですから気になってしまったんですが、すぐに怖くなって逃げましたよ」
パナセアは一安心して酒を持っている分を一気する。
バンはもう飽きて帰っていたのが不幸中の幸い。
もし近くに居たと考えるとよりめんどくさいことになっていた。
「もうこの街には居ないんじゃないですかね?」
隊士が諦め、ガルートスに別の街に行くよう促す。
ガルートスはジッとパナセアを見つめる。
すると急にスイッチが切り替わったかのように
「そうだねー。別の街行ってみるかー。移動しててもおかしくないもんねー」
ガルートスが切り替えて別の街へ行くことにする。
住人も残念がりながらも解散して行く。
ガルートス達の姿は消えておりもう別の街に行ったようだった。
パナセアも家に帰り、家の前に着く。
その時、背筋が凍ったような感覚に見舞われる。
咄嗟に後ろを振り向く。
そこにはガルートスの姿があった。
「へぇ、僕の気配に気づくんだー。気配を消すのが二番目に得意なのになー」
ガルートスが自分の気配に気づかれたことに驚く。
「な、何ですか?私の疑いは晴れた筈ですけど」
パナセアが気づけなかった事にも焦るが何より中にフツバ達がいる事に焦る。
「僕が一番得意な事なんだと思うー?」
突拍子もない質問をしてくるガルートス。
「知りませんよ、そんなの」
知ったこっちゃない質問に適当に返す。
するとガルートスの目の色が変わり、
「面白そうな人を見つける事だよー。君、知ってるよねー。面白そうな人。というより中に居るよね?」
本能的に何かを感じ取ったガルートスがフツバの目の前まで迫っていた。