三章幕間 礼金
「竹一族の本拠地に行くとは言ったはいいが、姫さんの修行もあるし何より」
フツバとライラとアトラが三人並んで窓から頭を出して外の様子を確かめる。
今は家には三人しかおらずバンとパナセアは街へ出て行った。
何故街へ向かったのかそれは
「騎士団の派遣ですか。そりゃあ考えてみれば妥当な話ですが」
獣魔雨が降り、この街は壊滅する筈だった。
なのに何者かがそれを食い止め被害を小さくした。
それは騎士団へと伝わり、隊員が派遣されてきた。
隊員は三人、全員雑兵と呼んでいいほどこれといった強さは見受けられない。
一度森の中へ入り、調査報告を書いていたらしい。
それはもう一般隊士にはあまりにグロテスクな物だったので全員顔色は真っ白できっと腐臭が漂っていたのだろう。
騎士団は進行を止めた立役者に礼金を払うべく当人を探し始めているらしい。
もちろんフツバが万歳三唱して出て行く訳にもいかず、黙って家の中で籠っている。
バンもパナセアも指名手配はされていないので怪しまれないために出て行ったわけだ。
一応アトラも指名手配はされていない。
が、セメラルトの一件で少人数に顔は見られた。
念には念をと引きこもっている。
「この中に被害を抑えてくれた方はおりませんか。その人に心当たりがある方でも構いません。何でも良いので情報をお願いします。国から金貨百枚が出ているんです」
その大金に一同がざわめく。
フツバも心の中で金欲と戦い苦しんでいる。
喉から手が出るほど欲しい、なのに出れないのが悔しい。
「はい、俺がやった」
集められた民衆の中の一人の大柄な男が手を挙げる。
金に飛びついた大馬鹿だ。
「本当ですが⁉︎良かった、見つけないと上に怒られるんですよ」
隊員が見つかったことを喜びその男に駆け寄る。
「それで金は?」
男が矢継ぎ早に金の話に入る。
「あぁ、お金ですか。それは大金なので僕たちみたいな一般兵では持って行くことに許可がおりなくてですね」
「じゃあ、ここにはねぇのかよ!」
男が怒鳴りつける。
それは一刻も早く立ち去りたい男からすれば仕方のない態度だ。
その男に不信感を抱いている人も多く、いつ痛いことを聞かれるか分からない。
バンとパナセアはどうやら口出しするつもりはないらしい。
「大丈夫です。もうすぐ上の者がお持ちしますのでもう少しお待ちください」
「う、上の者?」
男がその言葉にビビっている。
「誰が来るんだよ?」
男が額に汗を輝かせながら聞く。
「それは、」
「上の者だって。物理的にも」
バンとライラも気づかなかったその声の正体。
集められた場所のすぐ真上にある大木の木の枝に座っている少年。
それはちょうど隊員達の真上、そう上の者が持ってきたのだ。
「おい、アンタが金を持ってきてくれたのか。俺が止めたんだ、金を早くくれよ」
男が手に持った異様に膨らんだ袋を目にして催促する。
その少年は高さ八メートルほどある場所から飛び降り、当たり前に着地する。
「これが欲しいのかい?」
マントを着ており、耳は尖っており、目と髪は水色でクルクルにはねていて可愛らしい。
男の前で金の入った袋をブラブラと吊り下げる。
「アイツ、」
「フツバどうしたの?」
フツバが何かその少年から感じ取り、少し離れた距離を睨むように見ている。
「そうだ、それをくれ」
男がその袋を取ろうとした瞬間その袋はその少年の後ろへと隠される。
「あげる訳ねぇだろ!パーカー‼︎」
水色の瞳の瞳孔が大きく開き、横に大きい口から暴言が吐き出される。
「なんだと!俺が止めてやんなかったらもっとひどいことになってたんだぞ⁉︎」
その態度に激昂する男。
焦りもあり感情的になってしまう。
「その通ーり!止めてくれなきゃもっとひどいことになってた」
「じゃあ、」
「お前は止めてないだろーが」
マントを旗めかせながら強い眼光で睨む少年。
その旗めいたマントの間からその少年の肩に刺繍された紋章が皆の目に止まる。
「貴方は」
ライオンに剣が突き刺されているというなんとも残酷なデザイン。
だが、それはその紋章を付ける者達の強さの象徴でもあった。
その少年、僅か十五歳。
十五歳にして一人、軍にとんでもなく強い者がいる。
「四豪御雷 ティオー・ガルートス」
四豪御雷一番の暴れ者、若きにして東国最強の地位についた少年ガルートス。
フツバとの距離、約百メートル。
「さっさと失せろ、ゴミ嘘つきゴミ人間が!」
年相応の言葉遣いだが、強さは百メートル先からでも明確に分かる。
フツバは今手負い、見つかれば、確実に死ぬ。
読んで頂きありがとうございました。
とうとう来ました、四豪御雷、絶対に強いですね。
体は歳の平均よりもより小柄と思ってくれるとありがたいです。
このガルートスは扉を蹴り飛ばした犯人でもあります。
フツバはガルートスと戦うことになってしまうのか⁉︎
それではまた次話でお会いしましょう。
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