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三章最終話 五英傑の意思


「フツバさん、血だらけじゃないですか」


 アトラが血に染まったフツバを見て心配する。

 実際はほとんどが返り血だが今はその説明に裂くエネルギーが不足している。

 フツバを治療するためにライラが力一杯にフツバの服を脱がしていく。

 

「えっ、、、」


 上裸になったフツバを見て二人が絶句する。

 

「どうしたんだ?」


 そこにパンと一緒に帰ってきたパナセアも入ってくる。

 パナセアもフツバの体を見て驚愕する。

 パナセアが事態を察して机に酒を置く。


「バン、一旦治療は後回しにしていいか?今はコイツが一大事かもしれん」


 パナセアが後ろで椅子に座り疲れ果てたバンに有無を言わさぬ勢いで聞き、返答を待たずにフツバの治療の準備を始める。

 バンはその態度に慣れているのかツッコもうともしない。

 どうやらバンは戦闘面での疲れもあるが精神面のショックもあってグッタリしているようだ。


「ライラ、これを無理矢理にでも飲ませな。一瞬だけだが元気が戻る」


 パナセアが棚から持ってきた黄色い木の実をライラに投げる。

 ライラはそれを上手いことキャッチしてフツバに食わせる。

 パナセアは慌ただしく動き回っている。

 流石のバンもあのパナセアが焦っているのを見てフツバがどうなっているのか気になりフツバが寝ている方へ向かっていく。

 そこで驚きの物を目にする。


「それは、」


「そう、ちょっと退け。危ないのが分かっただろ」


 パナセアがフツバの横に胡座をかいて座る。

 すると突然パナセアがフツバに水をぶっかける。

 女子二人が急な行動に慌てふためく。


「なに、大丈夫。あれ食わせてんならもう元気になってるはずだ」


 そう断言したと同時にフツバが咳き込んで目覚める。


「何するんですか?」


 フツバが不快の念を示す。

 パナセアはそれを一切聞こうともせず質問する。


「おい、この体は何だ?」


 パナセアがフツバの体を指して半ば怒っている。

 フツバの両肩を一周するかのようにに黒い数珠のような黒印が刻まれている。

 その刻印はただの黒ではなく何ともどす黒く気味が悪い。

 それはそれはあの悪魔のように禍々しい。

 ライラとアトラもその様子から嫌な予感を感じ取っていた。


「あぁ、これですかパナセアさんはまだしも二人には説明してなかったっけ?」


 フツバが困惑している二人に問いかける。


「どうやら聞いてないみたいだが?」


 パナセアが二人から返答がないのを見て結論づける。


「これは最終兵器的な奴ですよ。パナセアさんも知ってるでしょ。『蝕魔』じゃないから安心してください」


 フツバがライラにとっては初めての言葉を口にする。

 そんなライラを蚊帳の外に置き、パナセアがフツバのその刻印をしばらく見つめる。


「確かに、言われてみりゃあこれは呪印だな。こんな高等な事する奴って……言ってもアイツらしか。どっちにして貰った?」


 パナセアがこれをフツバにこの刻印をした人に心当たりがあるらしく焦りは解消されたようだった。


「どっちって、魔女の方って言えばわかります?」


「そっちか。アイツめ他人にこんな術を施すとはそれはまた別の意味で心配だな。それで詳しい能力は?」


「あの人は大丈夫ですよ。心配する必要なんてないですから。それと能力は、ヒ、ミ、ツ。ですよ」


 この二人、いやバンを入れて三人が前で意味の分からない会話が淡々と話されて顔を見合わせている。


「あ、あの何を師匠とフツバは話してるんですか?」


 ライラが会話を遮る。

 フツバが置いてけぼりにしていた事を今気づき脳内で噛み砕く。


「そうだな。この呪印は『蝕魔』に似てるけど俺が信頼している人がやってくれたから大丈夫でこれが俺の最終兵器だって事。アンダスタンド?」


 フツバが最後によく分からない事を聞いてくるがその前にライラには止めて聞きたい点がある。


「フツバのそれの説明の前に『蝕魔』って何?アトラもバンって人も知らないっぽいけど」


 フツバが直後にバンを見て嘲笑う。


「え、バン、お前『蝕魔』も知らないの?」


 フツバがニヤニヤ内心バカにしているのがよく分かる。


「まぁ、知りませんけど。問題ですか?」

 

 バンが澄ました顔で笑って聞き返す。

 

「いえいえ、何ら問題ありませんよ。まぁ確かに、アナタの境遇を考えれば分からないこともないですが、知らない物は仕方ありませんよね。アナタのような立場で『蝕魔』も知らないなんて、ねぇ奥さん。最近弟子入りした姫さんならまだしも……ねぇ?」


 最後に煽りを満点に込めた「ねぇ」をかましてくる。

 バンならいつもは斬りかかって戦闘が始まっていたが今はお生憎様動くことができない。

 心にいつかやり返してやると固く誓う。

 こんな会話をしていると当たり前だが


「あの、フツバさん。このバンさんという方は何者なんです?パナセアさんも全然話してくれなかったんですが」


 アトラはバンの素性が気になる。

 ライラも同感のようで更に付け足してくる。


「さっきも何かこの人の境遇がどうの。アナタの立場でどうの。って話してたじゃない。どういう人なの?」


 フツバがバンの方を見てどちらが説明するかをジェスチャーで話し合っている。

 無言で自分を指さしては首を振り、相手を指さし、口パクでお前がやれと言ったりと怪我人とは思えぬやりとりが行われる。

 ライラとアトラに共通の思考が生じる。


(「この二人仲良いなぁ」)


 先程から初対面では行えないようなお互いを理解したやりとり。

 まるで昔からの知り合いというかなんというか繋がりを感じる。

 そして嫌々フツバが説明をすることになったらしい。

 

「コイツは普通に『五英傑の弟子』だけど」


「何言ってんのよ、だってパナセアさんは弟子いないのよ。そんな弟子がポンポン出てきていいもんじゃないでしょ」


 ライラが自分がせっかくなった物がそんなに容易く出てこられては自分の価値が霞む。


「出てきていいもんじゃないなんて言われても今ここにいるんだからどうしようもないだろ。そうか、これが、、、まるで五英傑のバーゲンセールだな。って奴か」


 フツバの生え際が一瞬M字になったように見えたがきっと気のせいだろう。

 

「ふざけてますが、じゃあ本当にこの人もパナセアさんの弟子なんですか?」


 アトラがバンを指しながら事実を確認する。

 

「違うわ。勝手に私の弟子にするな。こんな野蛮なやつを私が育てるか!コイツは、」


「竹一族の者ですよ」


 一番重要な所はバンが口にする。

 多少フツバがふざけてはいるが三人が至って真剣に話している姿を見て認めざるを得ない。


「こんなに短期間で五英傑本人と弟子の三人に私とアトラは出会ったってこと?」


「そうなるな。ていうかもう姫さんもどちらかと言えばこっち側だけどな」


 フツバがまるで他人事の様に目の前の光景を口にするライラに自分の立場を突きつける。


「えっ⁉︎この部屋の五人のうち四人が五英傑関係者ってことですか?なんか私が変みたいじゃないですか⁉︎だってついこの間まで五英傑何て今も存在していると思ってなかったのに。こんな空間が存在するなんて」


 アトラが一般人の筈の自分がこの空間だと珍しい者になってしまうことに驚愕する。


「あのバンさん。竹一族はどこら辺にいらっしゃるんですか?」


 ライラが珍しく敬語を使ってバンにどこから来たのかを聞く。


「僕ですか?僕はここから四つぐらい村を越えた所ですよ」


「よ、よ、よ、よ、よ、四つ?」


 あまりの近さに驚愕する。

 

「あの五英傑がたったの四つの村の距離感でいるんですか?」


「もうそういうことだ。認めろ、ライラ」


 現実を受け止められなくなっているライラに無理矢理パナセアが認めさせる。

 五英傑本人からしたらこの会話がめんどくさくて仕方ないらしい。


「とにかくフツバの治療とバンの治療をするぞ。ライラ、弟子としての初めての仕事だ。トチるなよ」


 パナセアが立ち上がりバンを別部屋に連れて行く。

 隣でフツバがパタリと倒れ込む。

 

「フ、フツバさん⁉︎」


 白目を剥いて倒れ込むフツバに死んでいないか心音を確かめるアトラ。


「丁度あの実の効果が切れたのね。師匠はそれが分かった上で話を無理矢理切り上げたのね」


 ライラがまだまだ自分が未熟なのを自覚する。

 

「さっ、アトラ手伝ってよ。コイツの体重いし、なんか不気味な呪印とかいうよく分かんないやつあるし、聞きたいことも山ほどあるし。早く治して全部話させましょ」


 ライラが傷だらけのフツバの体を丁寧に治していく。

 アトラはアトラで何だか置いていかれてる気がするが


(私はこれでいいんです。二人が置いていってくれて、それで私はその後ろを必死について行く。それでいい。いや、それがいい。私はこの二人が先導してくれる道ならどこまでだってついて行きます)


「お疲れ様でした。フツバさん」



ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー


 同日の昼、太陽は南中し、世界を太陽が照らしている。

 

「今、なんて言った⁉︎」


「いや、そりゃあ。会うだろ。なっ、バン」


 包帯を絶対に余分に巻かれているフツバ。

 髪の毛まで包帯が巻かれていて目と鼻と口しか出ていない。

 断言しよう、アトラが杞憂でここまで包帯を巻いたと。

 ミイラさながらのフツバが今度は逆に包帯が少ないと思ってしまうほどに僅かしか巻かれていない、包帯が最低限のバンに話しかける。

 

「まぁ、ここまで来たら行くしかないでしょうね。というか僕も連れていかないと絶対に怒られますから」


 バンがパナセアから借りた仮の服を着、腰に二刀を刺しこむ。


「フツバ本当に行くのね!」


 ライラは何だか嬉しそうだ。

 そういえばだがライラは五英傑好き属性があったのを思い出す。

 よくパナセアの時は我慢したなと今更になって思う。


「よし、竹一族の本拠地に乗り込むぞ!会いに行こう二人目の五英傑に!」


 フツバが空に剣を向け、高らかに宣言する。

 

「ガーリンの弟子にパナセアの弟子となれば手厚い歓迎が待ってますよ」


 バンが刀に手を添え、殺伐とした雰囲気を感じさせる。

 竹一族、それは五英傑の中でも最も危険と言われている。

 戦いを好み、愛するあまり戦鬼と言われていた一族。

 

「どんな強ぇ奴がいるのか楽しみだ。それにバン、お前とも一度やり合ってみたいしな」


 フツバが八重歯を輝かせて笑いかける。


「手加減してあげる程優しい人は竹一族にはいませんよ」


「臨む所だ。全員倒してやんよ」


「全員と戦ったらお前死ぬぞ」


 パナセアがフツバの勢い任せの発言に苦言を呈する。


「死にませんよ。そう未来が肯定してる」


 パナセアがフツバの目に何を見たのかそれは本人にしか分からない。

 フツバとバンの掛け合いを見て何かを思い出したのだろう。

 もう見る事のできないその何かを。

 パナセアがフツバを鼻で笑い、どこか奥の部屋へと姿を消す。

 消したと思ったら顔だけ出してこちらを向き、


「あ、ライラはまだ修行しなきゃ駄目だからな」


 ライラがその言葉に軽い笑いで答える。

 パナセアは奥の暗い薬材庫へと入って行く。

 

「なぁ、お前たち何だか懐かしいな。今のアイツらに私はお前らと過ごしたあの辛くも楽しかった日々を思い出したよ。なぁ、ガーリン、本当に死んだんだな……」


 床に雫が滴り、パナセアの声が震える。

 ずっとずっと、この二日間近く我慢していた色々な物が耐え切れなくなって弾ける。

 

「頼んだぞ、お前たち。五英傑の意思はお前たちに」


 ガーリンからフツバへ、パナセアからライラへ、五英傑の意思は確かに繋がれていく。

 

 今後起こる、地獄の戦争のピースはもう揃いつつある。

 運命は止まらない。

蝕魔の話はまた今度。

三章終了!次も五英傑が登場しますのでお楽しみに

あと、章まとめとかも投稿するので次の章はもう少し先になると思います。

ですが大丈夫です。必ず投稿します。

そう未来が肯定してますから。

これ、テストに出ますから覚えておきましょう。

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