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三章26話 お休み太陽

 月が地平線に沈みだした頃、森の中に三つの影。

 二つは助け合いながら、一つの大きな影に立ち向かっていく。

 二刀流の男が基本相手の動きを止め、もう一人の影が隙を突いて攻撃を入れる。

 どれも決まらず弾かれてしまう。

 剣の弾かれる甲高い金属音のみが聞こえる。

 この激戦に見えなくもない戦い、しかしこれは一つの影の方が敢えて一方的に攻撃をさせているに過ぎない。

 辺りに吹くのは優しいそよ風のみ。

 二刀流のバンのヴェーラももう使う体力がない。

 相手の腕は二本、こちらは剣と刀を合わせて三本、腕を含めて四本。

 なのに分があるのは二本の方というなんとも不思議な状況だ。

 

「つまらん」


 フツバとバンの攻撃を最も容易く見切り、掴み取る。

 投げられるが大した威力は出ずそのまま足で勢いを殺せる。

 ただ足に少し負担がかかったに過ぎないのに関わらずフツバの表情は良いものとは言えない。

 

「今のお前達では我を殺せるとは到底思えん。面白みに欠ける。次の一手で進化が見られなければ殺す」


 そう冷酷に宣言するサンライ。

 殺されそうという感覚を味わえないのがつまらない。

 フツバ達は特にフツバはもう死にかけなのだが。


「バン、アイツに通用する攻撃あるか?」


 フツバが隣で構えるバンに聞く。

 

「今の私にはそんなものはありませんよ。全力で斬りかかってますが……肌が硬い。斬れても致命傷までとはいきません」


「俺にはアイツを倒せる技が一つだけある。それを頼りの綱にするしかなさそうだ。作れるか?」


「何秒?」


「時間じゃねえよ、隙だ。お前が一人で相手して隙を作ることができるかどうかだ」


「1秒、いや0.5秒ほどならなんとか」


「充分だ。頼むぞ!」


「そっちこそ」


 作戦が大方決まると二人は二手に分かれる。

 フツバは全体が見渡せ、いつ何処で隙ができても対応できるような位置に。

 バンはサンライに一直線に向かっていく。


「何のつもりだ?二人でなんとか相手してやってるのに一人で向かってくるなど」


 サンライが眉間に皺を寄せ、バンに本気の一撃をぶつけようとする。

 バンの刀と拳がぶつかる直前にバンが横に跳び衝突を回避する。

 空中に放たれたサンライの一撃は周囲の空気を破裂させる。

 ぶつかっていたらバンの腕ごと吹き飛んでいたかもしれないと思うと間一髪だった。

 バンがサンライの横から攻撃を加えるのではなく地面に両刀を突き刺す。

 途端にサンライの足元の地面から竜巻のようなものが発生し、サンライを持ち上げる。


「こんな事して何になる⁉︎」


 サンライが空中で拳を振りかぶるとガンスの時よりも早い紫色をした拳が向かっていく。

 その攻撃を受けるよりもバンには優先したい物がある。 

 そちらを優先し、やむなくバンはその攻撃を無防備に受けてしまう。


「捕まえた」


 バンが口から吐血しながらもサンライにそう勝ち誇った表情をする。

 

「ん?」

 

 サンライは自分の体が落ちていかない事に気づき、自分の周囲が風で囲われていることが分かった。

 小さな球状の風の檻。


「これで私を止めたつもりか⁉︎こんな物力で壊してくれる」


 サンライが黒い殺気のようなもので檻の中を満たしていく。


「オトメ・フツバ、これでは攻撃もできまい」


 フツバが入った瞬間ダメージをくらっしてまう。

 これでは死にかけのフツバも攻撃できない。

 隙を作り何かしらの技を仕掛けようとしていたことは分かる。

 しかしその発動までがあまりに杜撰だ。

 こんな物はどうにでもなる、そうサンライは考える。

 当たり前の到達結論だ。

 人間は戦闘中、状況把握において最も簡単な答えを出したがる。

 それが当たり前なら当たり前なほどそちらに釘付けになってしまう。

 この状況ならまさにこのサンライが考えることである。

 しかし、フツバとバンには何故か共通の思考ができていた。

 まるでいつか教えてもらったことがあるかのように同じ作戦を考えついたのである。

 風の檻は耐えかぬて壊れる。

 周囲を満たしていた殺気も同時に散っていく。

 

「はい、浮いた」


 バンの声がサンライの耳に届く。

 サンライが嫌な予感を感じる。

 下から猛烈な風が吹いている。

 気づけなかったのであるその猛風に。

 檻で囲われていたから外で風が吹いていることに。

 その風を撃ち壊すのに要する時間0.5秒。

 サンライはすぐにフツバが居たはずの場所に目を向ける。


(俺がやられる訳が、)


「『無力神殺』」


 声が聞こえたのは視線とは真逆の位置。

 視線がゆっくりと傾いていく。

 姿勢を戻そうと思っても戻らない。

 体に力が入らないまるで神経が通っていないかのようにピクリとも動かない。


「何をした⁉︎」


 神経に毒でも盛られたのかと考え、下腹部を見る。


「な、、、に」


 つい先程まで繋がっていた筈の胴体が綺麗に出血することなく斬られていた。

 血が吹き出したのは視認した後の事だった。

 今まで感じなかった痛みやら何やらが一気に押し寄せてくる。

 上半身が風に浮く下半身と切り離され、地面に落ちる。

 目から鼻から口から血が溢れてくる。

 

「俺が斬られるだと。あり得ん、あり得ん、あり得ん‼︎きさまぁ⁉︎」


 顔を血で染めたサンライが余韻が残って呆然と立ち尽くしているフツバの背後から真っ黒な高密度な玉を撃ち放つ。

 もう誰も動けないのなら当たることは必至のはずだった。

 が、フツバが気絶をした事により体勢が崩れる。

 下半身から崩れ落ちたフツバは奇跡的にサンライの攻撃を避ける。

 サンライが血の涙で眼を染める。

 

「我は死ぬのか」


 その時その血で溢れた戦場だった場所に日光が射しかかる。

 陽射しはフツバ達を照らしサンライを影へと追いやる。

 

(我は、死ぬらしい。おやすみ、太陽)


 そう太陽に寝る前の挨拶をしてサンライの命は途絶えた。

 

 この勝負奇跡的に一撃を入れることのできたフツバ達の勝利である。



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