残念な少年とヤクザ風のシスター パート3
「ああ、それ。何かギルドにいつも貼ってあったから俺が剥がしてたやつだな」
「……やっぱりテメェが犯人か……」
ヤクザ風のシスターの出した一枚の依頼書を指差して、残念な少年は言った。
それを聞いて何かに納得したように頷くヤクザ風のシスター。
「この依頼、俺が毎回出してていつも誰かが受けてたはずなのに、テメェ以外の冒険者と一度も教会ですれ違ったことがないから、おかしいと思ってたんだよな」
淡々と語り始めたヤクザ風のシスター。
彼女は冒険者ギルドで、仕事でどうしても教会に居られない自分や、咳き込む謎の病を抱えていたスケルトンの代わりに孤児と遊んでくれる相手を用意するために、ずっと依頼を出していたのである。
「え? その依頼って、教会のお子ちゃま達が出してたんじゃないの?」
「は?」
ヤクザ風のシスターの発言を聞き、目を丸くする残念な少年。
どうやら、冒険者ギルドでヤクザ風のシスターの出していた依頼を、残念な少年はずっと孤児達が出していると思っていたらしい。
「てっきり遊び相手のいない可哀想なお子ちゃま共が、遊び相手が欲しくて出してるのかと思ってた……」
「……マジで言ってんのか、テメェ。子供達がそんなことで依頼なんて出すわけねぇーだろうが」
残念な少年の言い分に、呆れたようにため息を吐くヤクザ風のシスター。
確かに、金銭的に困っている筈の孤児達がわざわざ依頼するというのはおかしな話である。
「それと、テメェが全部依頼を受けてたんなら、聞いときたいことがある。何で一銭も報酬を受け取ろうとしないんだよ」
「ん?」
残念な少年に向かって疑問を投げかけるヤクザ風のシスター。
実は、彼女の出していた依頼に関して、どういうわけか払われるはずの報酬を受け取り側がずっと拒否し続けていたのである。その受け取る側とは、依頼を受けていた人間の事であり、当然残念な少年の事である。
そんなヤクザ風のシスターの懐いていた疑問に対して、不思議そうな顔をして首を傾げる残念な少年。
「そりゃ、ただ遊び相手を探してるだけの可哀想な相手から、お金をもらうわけ無いだろ?」
「…………なんか、言い方が腹立つな、コイツ」
まるであたり前のことを言っているように振舞う残念な少年を前にして、少しばかりイラっとし始めるヤクザ風のシスター。
「それにしても、まさか依頼を出していたのがお子ちゃまじゃなくて不良シスターだったとはな」
「あ?」
何か含みのある言い方をする残念な少年。そんな少年に訝し気な目を向けるヤクザ風のシスター。
「いや~、ひょっとして、そうじゃないかとは思ってたんだけど。不良シスターって、友達がいないの?」
「あ゛ぁっ!?」
残念な少年の言葉を聞き、額にはっきりと青筋を浮かべて睨み始めるヤクザ風のシスター。
どうやら、孤児達の遊び相手を探すという依頼を出していたのを、頼める相手がいないからだと残念な少年は解釈したらしい。
「テメェ、ホントいい加減にしろよ……」
「え? 図星をつかれて怒った?」
「…………」
その時、プルプルと肩を震わせていたヤクザ風のシスターの中でピキッという音が鳴った気がした。