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天職というのは、とても意外なつながりから見つかったりする


「どうせ全てを失って、これ以上失くすものもないんだから、汚いオッサンらしく泥にまみれて好きなことしたらいいんじゃないの?」

「……えぇ~……」


肩をすくめながら言う残念な少年の頭の可笑しい理屈に、困惑する金貸しの男。


「……………………仮に、その……店を、始めるにしても……資金がありませんし……」


途切れ途切れになりながらも、何とか言葉を絞り出す金貸しの男。


「ハァ~、ヤレヤレ。そんなこと、自分で考えろよ」

「ええぇ~……」


自分から提案をしておいて、方法は自力で考えろと宣う残念な少年。どこまでも自分勝手である。


「……そうは言いましても―――」

「ハァ~、ようするに金があればやるんだろ?」


面倒くさそうにため息をついた残念な少年は、懐から小さな袋を取り出すと、どういう原理なのか、その袋より何倍も大きい袋を小さな袋から取り出してみせた。


「……へ?」


何が起きたのか訳が分からず目を見張っている金貸しの男。そんな彼に向かって、見るからに重そうな袋を差し出す残念な少年。


「ほい、いらないからあげる」

「…………何ですか、これは?」

「ハゲの施し」

「…………」


無理やり金貸しの男に袋を押し付けた残念な少年。その大きな袋を膝に乗せた金貸しの男が中身について尋ねると、訳の分からない返答をされ沈黙してしまう。


とりあえず袋の中を確認しようと金貸しの男が口の部分を開くと、大量の金貨がぎっしりと詰まっているのが見えた。


「! 何ですか、これは!」

「だから、ハゲの施し」


袋の中を凝視し、思わず声を上げる変な髪形の男。それに反応して、また訳の分からないことを言う残念な少年。


「じゃ、俺もう行くな」

「待ってください! こんなもの受け取れませんよ!」


その場を後にしようとする残念な少年に向かって、漸く噴水の縁から立ち上がった変な髪形の男が叫ぶ。


「人からもらったものに難癖をつけるんじゃない!」

「ええええぇーっ!?」


またも可笑しなことを言い始める残念な少年。どの口が言っているのか。スケルトンやギルドマスターの善意に対して自分が散々していたことを完全に棚に上げていた。


そんな残念な少年を前にして、困惑して立ち尽くしてしまう変な髪形の男。


「……あ。そういえば、カールおじさんの名前って何?」


先程自分の言った文句など一切気にせずに、ふと疑問に思ったことを口にする残念な少年。


「…………えっと、トニー・タイガーと言います」

「コーンフレーク!」


未だに混乱している中、何とか名乗る変な髪形の男に対して、急に奇声を上げる残念な少年。


「まさか、そんなカール頭であのコーンフレークと同じ名前とは……」

「…………何の話ですか?」


何故か驚愕している残念な少年を、ずっとキョトンとした顔で見つめる変な髪形の男。


「生まれながらの運命と言ってもいい! あんた、お菓子屋さん絶対に向いてるから頑張れよ!」

「……えええぇ~、何なんですかさっきから……」


変な髪形の男の肩を偉そうに叩く残念な少年。どうしたらいいのか未だに状況を理解できずにいる変な髪形の男。


「……ところで、今更なのですが、前にお会いしたことってありましたか?」


残念な少年に対して質問を投げかける変な髪形の男。


実は、魔族の亡霊に洗脳されていた時に会っていたために、洗脳が解けた際に記憶を失ってしまった変な髪形の男は残念な少年の事を覚えてはいなかった。


つまり、彼からすれば、見ず知らずの人に大金を渡されたという状態になる。不思議に思って当然である。


「ん~……。いや、こうして話すのは初めてだな」

「……そうですか」


変な髪形の男の質問に対して、否定の言葉を口にする残念な少年。もし、この場に関係者が一人でもいたなら「嘘つけ!?」と全力でツッコミを入れただろう。


確かに、残念な少年と変な髪形の男は話したことはあったが、それは教会の扉を間に挟んでの事であり、面と向かって話すのは今回が初めてであった。


残念な少年は短い沈黙の間に『直接話すのは初めてだよな?』などと思いながら発言したようである。


「じゃあな!」


最後まで締まらない会話をした後、残念な少年は能天気な言葉と共にその場を離れた。


残された変な髪形の男は、残念な少年を見送った後、少年の置いていった大きな袋を見つめてため息をついた。


「……ふふ。どうせ、他にやりたいこともないしな……」


ボソッと独り言をつぶやくと、変な髪形の男はその重そうな袋の口の部分を両手で持ち上げた。


さっき迄の暗い顔が嘘のように、どこか晴れやかな表情になっていた変な髪形の男は、その大きな袋を背負いながら、街の大通りに向かって歩き始めた。







その後、彼がどんな人生を歩んだのか、それを知る者は誰もいない。


ただ、遠い先の未来。風の噂で、とある場所に有名なお菓子屋さんが一軒現れる。その店の看板には、デカデカとロールパンの様な髪形をした男の絵が描かれていたそうだ。




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