嫌味な奴が後悔するシーンというのは、「ざまぁ」の次くらいには視聴率がとれる(たぶん!)
「――――――ハァ~……」
アルバの街にある広場。街の大通りに面していて綺麗な噴水を中心に据えた緑と石畳の広がる空間で、噴水の縁に腰掛けたまるで頭にロールパンを乗せているように見える変な髪形の男がため息をついていた。
「――――――私はなんてことをしてしまったんだ」
頭を抱えて独り言をブツブツと呟く変な髪形の男。親子連れやカップルが楽しそうに燥いでいる広場の中にあって、その男のいる空間だけが暗く淀んでいるようだった。
「――――――ハァ~……」
もう何度目かもわからない大きなため息をまた吐いた頃、その変な髪形の男に誰かが近づいていった。
頭を抱えていた変な髪形の男は、ふと聞こえてきた足音から誰かが近づいてくる気配に気づき、俯いたまま視線を動かして、近付いてきた人物の足先を見た。
「…………何か御用かな?」
足先を自分の方に向けて立ち止まっている人物に向かって話しかける金貸しの男。その声は、少し前まで彼が纏っていた高圧的な雰囲気のない、耳を澄まさないと聞き逃してしまいそうな弱々しい声だった。
「別に。カールおじさんこそ、こんなところで何してんの?」
どこかで聞いたことのある能天気な声に不思議そうな顔をする金貸しの男。『カールおじさん』とは自分のことを言っているのかと、疑問に思っているようだ。
「…………別に何もしてはいませんよ。しいて言うなら、少しばかり後悔をしていただけです」
「こうかい?」
絞り出すようにして声を出す金貸しの男。それに疑問の声を上げる能天気な声の少年。
「カールおじさん、いつの間に海に出たんだ?」
「……その航海ではないですね」
俯きながらも、何とか少年の声にツッコミを入れる金貸しの男。
「私の言っているのは、過去を悔いるという意味です」
「ふ~ん。何を後悔しているんだ?」
話をするのさえ辛そうな金貸しの男を前にして、その能天気な声の少年はそんな相手の気持ちを無視して話を続けようとする。
「………………………………実は、人を騙してしまいましてね」
長い沈黙。話そうか話すまいか悩む金貸しの男は、どこか諦めた様に長い沈黙を破って話し始めた。
「気が付くと、多くの善良な人々を騙してお金を巻き上げていました」
「ふ~ん」
能天気な声の少年の適当な相槌を無視して、金貸しの男は淡々と話を続けた。
「……こんなことを言っても信じてもらえないと思いますが、私にはそんなことをしていた時の記憶がないんです」
辛そうに声を絞り出す金貸しの男。
「最後に覚えているのは、街の外にある教会で、そこの牧師様にお金を貸したところまでです。その後、急に目の前が暗くなって、気が付いた時には、この街の兵舎にある牢屋の中でした」
俯いたまま淡々と語る金貸しの男。
実は、この金貸しの男はずっと教会の地下に封印されていた魔族の亡霊に洗脳されていたのである。全ては、封印されていて身動きのとれない迷宮の中から、人族を滅ぼすという自身の計画を実行するためであった。
出所のわからなかった魔族の噂や、借金による不正も全てその洗脳に影響されて起きたものであり、教会を無理やり取り壊そうとしたのも、封印を弱めて自身が脱出しようと考えた魔族の亡霊の仕業であった。
その為、魔族の亡霊に洗脳されている間に起きたことを金貸しの男は一切覚えていないのである。
「本当に自分は何をしていたのか、衛兵の方たちに尋ねたのですが、聞いてもよくわからないのです。まるで悪い夢でも見ていたようで……」
辛そうに語る金貸しの男。
そもそもなぜ彼は洗脳が解けたのか。その理由は、残念な少年がスケルトンを成仏するために投げた白い球体にある。
呪いのプロであり、術者であった魔族の亡霊が倒された後も効果を発揮していた強力な洗脳は、残念な少年の超強力なお祓いグッズの効果で浄化されたのである。その為、洗脳が解ける際の強いショックを受けて金貸しの男は気を失っていたのである。
「……ふふ、人の頭というのは都合よくできていますよね。覚えておきたくないことは簡単に忘れてしまうのですから」
自虐気味に笑う金貸しの男。そして、また淡々と話し始める。