プロローグ 【怨嗟の声を発する鬼の子】
「――――――」
とある地下牢。耳をすませば、その息遣いさえ聞こえてきそうな程に静かで薄暗い空間。蝋燭の頼りない光が照らし出す鉄格子の先で、両手足に枷をつけた少女は、空間の隅の方で三角座りをしていた。
「――――――……」
蝋燭の光さえ届かない牢屋の隅で蹲っている少女。よく見ると、その額には普通の人間には見られない突起物があった。
「―――…………」
他に人の気配のないその薄暗い地下牢で、牢に入れられていた額に角のある少女は、影になっている隅の方で体育座りをしながら、とても小さい声で何かを囁いていた。
「―――……死ね」
ジッとただ地面の方にだけ視線を合わせ、死んだ魚のように虚ろな目をしながら、額に角のある少女は、同じ単語を繰り返した。
「―――……死ね……死ね……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…………――――――」
まるで壊れたレコードのように、ただただ同じ怨嗟の言葉を吐き続ける少女。
そんな恨みのこもった声を聞く者も、それを止めようとする人間もいない地下牢の中で、いつしか少女は声が涸れ、口の中に血が滲み始め、ついに単語さえまともに発せられなくなっても、全く同じ口の動きを繰り返し続けた。
そこは、とある商人の所有する地下牢。彼らが仕入れた特殊な奴隷を隠しておくための場所。
その一つである額に角のある少女の入れられた牢の入り口には、異世界の言葉で『魔族』と書かれた名札がかけられていた。