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男子はみんな、ドジでおっぱいの大きい女子が好き!

たゆん。目の前で揺れる楽園。


「春人君」


たゆん。青葉春人の生涯は、今、この時の為に存在したと言っても過言ではない。


「青葉春人君‼」

「…………はっ!」


城の勉強部屋。召喚された勇者達が世界の知識を学ぶために特別に設けられた部屋。部屋の様相は、今まで自分達が通っていた教室の雰囲気に近く、部屋の正面の壁には黒板が設けられ、その前に教卓が置かれ、教卓に合わせるように、机が等間隔に並べられていた。


如何やら、知識の吸収を早くしてもらうために、今迄に召喚された勇者の歴史を参考に、元いた世界に近い学習環境を作ったらしい。


現在、朝の訓練を終えた青葉春人は教卓に立つ人物の指導の下、異世界の知識を学んでいた。


「もう。授業中は真面目に聞いていてください」

「は~い。すみません」


教卓に立つ女性、ミネルヴァは授業に身がはいらない少年を叱る。注意されているにも関わらず、気持ち悪いぐらい顔がにやけている残念な少年。


「騎士団長の扱きの後で疲れているのは分かりますが、ちゃんと授業も受けないとだめですよ。こう見えても、魔術師団長である私も忙しい身の上ですから、取れる時間が限られていますからね」


少年に苦言を呈し授業を再開するミネルヴァ。武力において国を守る最高戦力が騎士団であるなら、知力において国を守る最高戦力が魔術師団であり、彼女は魔術師団の団長なのである。


魔術師団長は、王様の命令で異世界から召喚された勇者達にこの世界の知識を教えていたのだが、青葉春人以外の四人の勇者がパーティの準備に専念する為に中断され、青葉春人一人だけ授業を進めていた。


「取り敢えず、前回の復習も兼ねてテストをします」

「え~」

「真面目に聞かなかった罰です」


口を真一文字に結び腰に手を当てて怒る魔術師団長を見ながら、終始顔がにやける残念な少年。


「大丈夫ですよ。普段ちゃんと授業を聞いていたら解ける問題ですから」


机の上に、隙間なく文字列がびっしり書かれた紙が置かれる。


「……ミネルヴァさん。これ、答え何処に書くの?」

「……あ」


致命的な失敗に言われてから気が付いた魔術師団長。


「あの、その、えっと、……すぐ作り直します!」

「作り直さなくていいから‼」


動揺し、慌てて走り出そうとする魔術師団長。


「白紙の紙くれたら、そこに答え書くから」

「……すみません」


親に叱られた子供の様に落ち込みながら、魔術師団長は教卓から紙を取り出した。その時、かなりゆとりのある黒いローブの奥で魔術師団長の胸が揺れるのを青葉春人は見逃さなかった。


腰まである赤茶色の髪に、端正な顔立ちで眼鏡をかけた美女。何より、御伽噺に出てくる魔女が着ていそうなブカブカの黒いローブを纏いながら、見てわかるほどに胸元だけ隆起させる豊満な体。


健全な青少年である青葉春人は、最初の授業の日、魔術師団長の姿を見て人目を憚らず歓声を上げた程だ。その日以降、数日の間、周囲から白い眼で見られたのは彼にとって良い思い出だ。


「本当、どうしてこんな失敗ばかり」


一人、勉強部屋の隅で意気消沈する魔術師団長。若くして魔術師団の団長に就任する程優秀な人なのだが、どうにも抜けた所があり、授業中は必ず一つ以上は失敗をしていた。


授業初日、幼稚園の先生の様に優しくて朗らかな語り口で授業を始めたのだが、内容は高等な専門用語ばかりの授業。何の話をしているのか理解できなかった。


二日目、前日の謝罪と共に始まった授業は、何とか理解できる内容で勇者達を安堵させたが、ほぼ丸一日休みなく授業が続いた。窓の外が暗くなり始めた時、様子を見に来てくれた騎士団長がいなければ、何故か疲れを全く見せない魔術師団長を前に永遠に授業を受けていたかもしれない。


……そんな失敗が連日続いた。


「私だって気を付けているつもりなのですよ。なのに、いつも失敗ばかり。魔術師団の皆も妙に優しくて、呼んでもいないのに魔術の実験の時は必ず誰か傍に付いていますからね。この前も、魔術の実験をしようとしたら皆ついてきて、案の定魔術が暴発して迷惑を掛けましたし。……はぁ。本当、私何やっているのだろう」


部屋の隅でぶつぶつと独り言を言う魔術師団長。城に住む人間はもちろん、青葉春人にとっても既に日常の光景になっていた。


「ミネルヴァさん、出来ましたよ」


問題を解き終わった青葉春人。


「あ、はい。それじゃあ答え合わせをしますね」


すぐに立ち直った魔術師団長はテストの採点を始める。

教卓で筆を走らせる姿だけ見れば、魔術師団長の名にふさわしい理知的で頼もしい雰囲気を感じる。


「採点、終わりました。春人君はやれば出来る子なのですから真面目に授業を受けてくださいね」


満面の笑みで問題用紙を返す魔術師団長。返却された紙には、黒い文字の上に全て赤い丸が書かれていた。


「は~い」

「返事は短く『はい』ですよ」

「はい! わかりました!」


無駄に表情を引き締める青葉春人。


「それでは前回の続き『現代における魔術体系の発生と歴史について』授業を再開しますよ」


傍から見ていると全く理解できない授業を始めながら、残念な少年は終始、揺れる魔術師団長の胸を見つめていた。




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