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幕間 王国の勇者達


「―――ご結婚、おめでとうございます!」


王国にある訓練場。いつものように指導を担当してくれている騎士団長ラインハルトに向かって東正義は声をかけていた。


「ありがとう。まあ、結婚と言っても、正式にするのは随分と先の話になるだろうけどね」


照れ臭そうにしながら返事をする騎士団長。王国を守る粗暴な騎士達を束ねる長であるにも関わらず、女性を惑わすルックスを持った彼の顔は、思いのほかニヤけていた。


普通なら気持ち悪いと取られても不思議はないのに、同性でさえ見惚れる二枚目であったその顔のおかげで逆に絵になっていた。


残念な少年がこの場にいたなら、発狂していたことだろう。


「確か、私達の旅に同行するのよね?」

「ああ。訓練を終えているとはいえ、君達だけでは心配だからね。私と信頼できる者数名が同行することになっている」


南里輝夜は訓練の後で乱れていた呼吸を整えてから、騎士団長に尋ねた。


残念な少年が城を旅立ってから月日が経ち、遂に四人の勇者にも旅立つ日がやってきていた。


数日前に騎士団長から教えられたことを確認するように、南里輝夜は話しかけていた。


「どうでもいいけどよ、いつになったら出発するんだ? この前、準備するように言われてから、詳しいこと何も教えられてないんだが?」

「申し訳ない。一応、立場のある君達を、そう簡単に国から出すわけにはいかないんだ。どうしても、厄介な貴族との兼ね合いもあって手続きに手間取ってしまってね」


ムスッとした顔で不満を口にする西場拳翔に対して、苦笑いを浮かべて答える騎士団長。


残念な少年の旅立った後も、貴族との交流を四人の勇者は続けていた。その為、その貴族や周囲の人に説明をせず勝手に国の貴賓で最大戦力でもある勇者を旅立たせた場合、邪魔をしてくる者が現れるのは目に見えていた。


魔族との戦いの中で、同族の妨害にあうリスクをさける為に、勇者達は国で待機しながら、その裏で貴族への根回しが全力で行われていたのである。


「……はぁ~、めんどくさ」


訓練場の隅で座り込んでいた北見梨々花がため息を吐く。


以前の可愛らしい所作は影を潜め、どこか投げやりな印象を受ける。


「どうかしたの、ビッチ勇者?」

「その名で呼ぶんじゃないわよ!?」


南里輝夜の言葉に、憤慨する北見梨々花。


前に貴族との交流会で起きた事件の後、化けの皮のはがれた北見梨々花は、今まで彼女をチヤホヤしていた男達からは白い目で見られ、同郷の勇者達からは『ビッチ勇者』という愛称で呼ばれるようになっていた。


「前に魔術師団長の授業で聞いたけど、魔族との戦いなんて大昔にやって以降ぜんぜん起きてないんでしょ? 何でわざわざ私達から魔族に喧嘩を売るような真似しないといけないのよ」

舌打ちをしながら意見を言う北見梨々花。


実は彼女の言うように、魔族との戦いは人魔大戦のあった大昔から、種族ごとに大陸が分けられて以降、魔族との戦争はあまり起きていなかった。


「むしろ、同じ人族とか他の種族とばっか戦争してるじゃない。しかもこっちから仕掛けて」

「…………」


貴族との交流の中で得てきた情報を基に話をする北見梨々花。それに対して沈黙してしまう騎士団長。


現在、人族の間では同族や獣人のように同じ大陸に住む種族と戦争をすることの方が多くなっていた。自分達の領土を拡大する為である。


正直、客観的にみると、王国の人間である騎士団長に向かってこんな話をするというのは、その国に根を下ろしている立場としてどうかとも思う


「……お前、ホント性格変わったよな」

「はぁ?」


突然、声を上げた西場拳翔に、訝し気な目を向ける北見梨々花。


「違うわよ。これは『化けの皮がはがれた』というの」

「……言いたい放題言ってくれるわね」


南里輝夜の発言を聞き、蟀谷に青筋を浮かべる北見梨々花。


バチバチと視線で火花を散らせる二人の女子。勇者達にとっては日常の光景となっていた。


「と、ところで、騎士団長がご結婚されるのは、僕達の旅が終わってからになるんでしょうか?」


慌てた様子で話題を変えようとする東正義。


「……いや、正確には、君達が元の世界に帰れる目処が立ってからにするつもりだよ」


東正義の問いに、微笑みを浮かべながら答える騎士団長。


「いいのか? そんなのいつになるのかわかんねぇーのに?」


心配そうな表情で騎士団長に話しかける西場拳翔。少し前まで、病気の母親のためにすぐにでも帰りたいとずっと空回りしていた彼からは想像もできない発言である。


「ああ。勝手な話かもしれないが、君達を無理矢理ここに連れてきてしまったこの世界の人間の一人として、ちゃんと責任を取らせてほしい」


淡々とした調子で語る騎士団長。


彼の言葉を聞き、思わず唾を飲み込む東正義。


「それより確認なんだけど、まさかあいつと合流するわけじゃないわよね?」


どこか緊張感の漂い始めた空気の中で、南里輝夜は騎士団長に尋ねた。


「あいつ?」

「……一人しかいないだろ」


首を傾げている東正義に対して、渋い顔をしながら言う西場拳翔。言うまでもないと思うが、残念な少年のことである。


「ああ。一応、最初の目的地は彼の向かった街で、その予定だよ」

「冗談じゃないわ!?」


騎士団長の言葉を聞き、大声を上げる北見梨々花。


「ただでさえ魔王討伐の旅なんて面倒で暑苦しいことやらなきゃいけないのに、あんな頭の可笑しい奴と一緒だなんて冗談じゃないわよ!?」

「……初めて意見が一致したわね」


捲くし立てる北見梨々花の横で、ボソッと呟く南里輝夜。


「そうはいっても、目的地が同じわけだから、多分会うことになると思うよ?」


困った顔をして言う騎士団長。彼を見た後、よっぽど嫌なのか叫び声を上げながら、両手で頭を激しく掻きむしり出す北見梨々花。


「ああああもう! 私はただ、この世界でイケメンにチヤホヤされながら楽して生きていたかっただけなのに、どうしてこうなるのよ!」

「……ホント、最初の頃より性格変わり過ぎだろ」


膝をついて本心を吐露してしまう北見梨々花。そんな召喚されてすぐの頃からは想像もできない姿を目の当たりにして、若干引いている西場拳翔。


「自業自得でしょ?」

「うっさい、ファザコン女!」


またも火花を散らせる二人の女子。呆れたようにため息を吐く騎士団長。


「……とりあえず、近いうちに報告があると思うから、それまでに気持ちの整理をつけておいてほしい」


締めくくるように言った騎士団長の最後の言葉とともに、その日の訓練は終了した。


その数日後、四人の勇者達の旅立ちの日が正式に決まった。





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