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未だかつて、こんな理由で財宝を押し付け合う者がいただろうか・・・


「―――断る!」


古ぼけた教会の食堂。見知らぬ冒険者や衛兵の行き来する広い部屋の中で、残念な少年は叫んでいた。


「……どうしてそう頑ななのですか!」


困った顔で残念な少年に話しかけているスケルトン。その周りでは、見たこともない宝石やネックレスなどを手に取りながら子供達が楽しそうに遊んでいる。


「聞き分けの悪いスケルトンだな! さっきから言ってるように、それはお前の墓から出てきた遺産なんだから、墓の持ち主が責任をもって処理するのが当然だろ?」

「……だから、何度も言っているように、あれは貴方が勝手に掘った穴で、私とは何の関係もないんです。そもそも、私はまだ死んでなどいないのですから、遺産なんてあるわけがないでしょうが!」


不毛な言い争いを続ける残念な少年とスケルトン。今も部屋を行き来している冒険者や衛兵達、金銀財宝を手に取り遊んでいる子供達は既に無視しているようである。


「……これは貴方が迷宮で発見したものです。冒険者のダンジョン探索における決まりとして、これは発見者であるハルト君のモノになるんですよ」

「ハァ~、ヤレヤレ。だから、その迷宮の主も、見つかった財宝を隠したのも、元は全部スケルトンじゃんか! 変な理屈をこねて俺に押し付けようとするんじゃない!」

「……それは貴方でしょうが!?」


ついに頭を抱えてしまうスケルトン。


現在、ありもしない筈のスケルトンの遺産を発見し持ち帰ってきた残念な少年は、それを元の持ち主であるスケルトンに返そうとしていた。それをスケルトンが全力で拒んでいるところである。


なぜこんなことになっているのか。その理由は彼の発見した金銀財宝の所在にある。


あれは本来、教会の地下にあった迷宮に封印されていた魔族の亡霊が所持していた物であり、元々は人魔大戦の頃に魔族達自身が拠点として造った迷宮に軍資金として用意していた金であった。


しかし、本来の用途として迷宮が魔族に使用される前に、大昔にある人族に見つかり、その迷宮の管理をしていた魔族の亡霊は肉体を消された後に迷宮ごと封印されて、迷宮を埋めるようにしてその上に教会を建てられてしまう。


そして長い年月が過ぎ、魔族の亡霊が封印から解放され、地上に出られた時に使うために隠してあったのだが、それを残念な少年は見つけてしまったわけである。


しかも、そんな長い歴史や所在を唯一知る魔族の亡霊から一切話も聞かずに成仏させてしまったために、迷宮の持ち主はスケルトンであるという変な誤解が生まれ、今も続いてしまっているのである。


正直、最後に名前さえ名乗れなかった魔族の亡霊が可哀想でならない。


「……既にハルト君には、子供たちを見つけてもらったという恩があるのですから、これ以上何かを貰うわけにはいきません」

「だからさ! 貰うも何も、それは元々スケルトンの遺産なんだから、責任をもって引き取れよ!」


魔族の残した財宝を前にして、何故か所有権を押し付け合っている二人。


普通の感性を持つ人なら奪い合いが始まってもおかしくない状況のはずなのに、何故お互いに嫌がっているのだろうか。


常識の通じない残念な少年はともかくとして、牧師としての正義感があったとしても、借金をしてお金に困っている筈のスケルトンが頑なに拒んでいるのは妙である。


「……もし借金の事を気にされているのならば、もう心配はいりません。先程、衛兵の方から金貸しの男が不当な方法で借金を水増ししていた事が明らかになって、全て帳消しになりましたから」


実は、スケルトンのしていた借金というのは、金貸しの男が不当な手段を用いて作り出された物であり、本来ならすぐにでも返済のできる金額だったらしい。


どうやら、金貸しの男は他の人にもいくらか金を貸していたようなのだが、最近になって急に似たような手段で借金を作らせ、無理矢理金や所有物を押収する行為を繰り返していたため、衛兵に目をつけられていたらしい。


今迄は決定的な証拠がなく衛兵達はどうしようもなかったのだが、偶然にも行方不明になった孤児の捜索という別件で来ていたが、今回はその現場に居合わせたことで現行犯逮捕となった。


その時に、金貸しの男の所有していた証拠となるスケルトンのした借金の書類は全て押収され、その場で無効にされていたのだ。


「も~、スケルトンの借金とか俺に関係ないだろ! そんないかにも呪われてそうな遺産を人に押し付けようとするんじゃない!」


どうやら残念な少年は、迷宮で見つけた財宝をスケルトンの遺産と思い込み、変な呪いのついた品と思っているようである。


「自分の死後に残した財宝なんだから、その呪いごと責任もってスケルトンが処理しろよ!」

「……だ・か・ら、私はアンデッドではありません!?」


もう何度目かわからない程に言ってきた言葉を大声で叫ぶスケルトン。その目の端には、もう既に涙がたまっていた。




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