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「だったら持ち帰るな!」とツッコんではいけない


「ぎゃああぁああぁああぁぁああ………………」


古ぼけた教会の一室。断末魔の叫びの木霊する真っ白なペンキで塗りつぶされたような眩しい部屋の中で、青葉春人はニヤリとほくそ笑んでいた。


「ふっふっふっ。遂にやったか!」


不敵な笑みを浮かべる残念な少年。彼は声のした方向に視線を向けながら、サングラスをかけていてもよく見えない特殊な光の中で、光の収まるのをじっと待っていた。


そして、徐々に周囲を塗りつぶす眩い光が収まっていき、部屋の様子が明らかになっていく。


その時、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる残念な少年。


「……何でカールおじさんが倒れているんだ?」


ようやく光の収まった部屋の中で、残念な少年は泡を吹いて気を失っている変な髪形の男を目の前にして困惑する。


残念な少年が周囲を見回すと、片膝をつきながら目元を手で押さえているスケルトンを見つける。


「……め、目がぁああ……」


苦しそうに呻き声をあげているスケルトン。他にも、ヤクザ風のシスターや幼い子供達、ロン毛の冒険者も目を瞬いていたり、目元を押さえたりしていた。


「クソッ! これでも成仏しないのかよ!」


そんな中で、ただ一人地団太を踏んでいる残念な少年。目元をこすっているスケルトンの方を見ながら苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「…………ハルト兄ちゃん」


まるで子供のように悔しがっている残念な少年の姿を、迷宮での経験から難を逃れていた二人の幼い少年は呆れた目で見ていた。


そして、逸早く復帰したヤクザ風のシスターが声を上げる。


「……テメェー、ホントいい加減にしろっ!?」


手に持った銃の先を残念な少年の方に突き付けながら、ヤクザ風のシスターは睨みを利かせながら怒号を飛ばす。


「……ハァ~、ヤレヤレ。しょうがない、また新しい方法を考えるしかないな」


自身に銃口を向けているシスターの存在を無視し、残念な少年はため息をつきながらボヤく。どうやら、まだスケルトンを成仏させることを諦めていない様である。


確認のためにもう一度言っておく。この教会に住んでいる牧師はアンデッドではなく、スケルトンに似ているだけの普通の人間だ。


肩をすくめて首を振った後、残念な少年はゆっくりとした足取りで、今も苦しそうに目元を押さえているスケルトンに近づいていく。


「……うぅ……」

「全く、最近のスケルトンは、人と話す時には目を合わさなきゃいけないという社会の常識を知らないのか?」

「……誰のせいだと思っているのですか?」


蹲っているスケルトンを目の前にして再び肩をすくめる残念な少年。万全の状態でないにも関わらず、少年の発言に対して、的確にツッコミを入れるスケルトン。


「まあいいや。実はスケルトンに引き取ってほしいものがあってさ」

「…………今度はなんですか?」


漸く視界が回復し、残念な少年に対して疑わし気な視線を向けるスケルトン。どうやら、先程までは確かにあった、行方を晦ましていた子供たちを見つけてきてくれたという恩を感じる気持ちは、残念な少年の態度を前にして忘れ去られてしまったようである。


疑心暗鬼になっているスケルトンを前にして、懐を漁りだした残念な少年は、小さな袋を取り出して掲げる。


「迷宮を探索している時にみつけたんだけどさ、なんか持っていると呪われそうだから返すぞ」

「……何をですか?」

「スケルトンの遺産」

「……………………はい?」


残念な少年の言葉に、たっぷりと間を開けてからキョトンとした顔で答えるスケルトン。


スケルトンの返事を聞くと、残念な少年はそのまま手に持っていた小さい袋の口を下に向けた。


その時、その小さな袋に入っていたとは思えない量の金銀財宝がガチャガチャという激しい音と共に出てきて、残念な少年の前に積み上がっていく。


少年の腰の高さまできてもまだ止まらないその金の山を見て、アングリと口を開けるスケルトン。


「これスケルトンの墓から出てきたものなんだから、スケルトンが責任をもって処分しておいてくれよな?」

「…………」


積み上がった大きな金銀財宝の山を指差しながら可笑しなことを言う残念な少年。しかし、それを指摘できるだけの心の余裕が今のスケルトンにはなかった。


この瞬間、残念な少年の起こした行動にまともな答えを返せる冷静な人間はもう一人もいなかった。





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