感動的なシーンにおいて、配役というのはとても重要である
「……二人共、無事で本当によかった!」
古ぼけた教会の一室。スケルトンは二人幼い少年を捕まえて、その枯れ枝のような両腕で抱きしめていた。
スケルトンの墓から出た二人の幼い少年は、教会に住み着いているというアンデッドの討伐の準備をするためにどこかに行ってしまった二人の衛兵と隊長を無視して、教会の中に入っていた。
「心配かけてごめんなさい、骸骨先生……」
「ごめんなさい……」
スケルトンに抱きしめられながら、申し訳なさそうな様子で謝辞を口にする二人の幼い少年。
「……いえ、二人が無事でいてくれたのなら、それで構いませんよ」
目に涙を溜めながら、抱きしめる力を幼い少年達がつらく感じない程度に強くするスケルトン。
感動的な場面の筈なのだが、傍から見ると幼気な少年達がスケルトンに襲われているようにしか見えない。
「……ところで、ハルト君は一緒ではなかったのですか?」
「……わかりません」
「穴から出るところまでは一緒だったんだけど、僕達が気付いた時にはいなくなってました」
暫くの間抱き合った後、ようやく落ち着いて二人を開放したスケルトンは、二人の幼い少年に尋ねた。しかし、スケルトンの問いに対して首を振る幼い少年達。
スケルトンの墓を一緒に出た残念な少年だったが、二人が目を離した隙に、その姿を消してしまっていた。
「……そうですか」
「それよりも骸骨先生、あいつは?」
納得して頷くスケルトンを、不安そうな目で見上げる冒険者志望の少年。
「……ひょっとして、シャ-ロットの事ですか?」
「……うん」
「長い間待たせちゃったから、謝りたくて……」
首を傾げるスケルトンに対して、申し訳なさそうに視線を逸らす二人の幼い少年。どうやら、留守番をさせていた幼い少女の事を気にしているようである。
すぐに帰るつもりだったのに、結果、黒い鉄の扉を発見した仲間を一人ぼっちにして長い間心配をかけてしまった事に後ろめたさを感じているらしい。
「…………すみません。あの子はケガをしてしまって、今は眠っているんです」
「「え!」」
スケルトンの言葉に驚く二人の幼い少年。
「…………私の責任です。本当に申し訳ない」
「……よくわからないけど、骸骨先生のせいじゃないと思うよ?」
「うん」
責任を感じて落ち込み始めるスケルトンに対して、元気づけるように声をかける幼い少年達。
すると、部屋の扉の方から声が聞こえてくる。
「――――――骸骨先生?」
「っ!」
キィッという扉のきしむ音と共に少し開いた扉の隙間から、幼い少女が顔を覗かせていた。
扉の方から感じた気配に気づき、そちらに視線を向けたスケルトンは、幼い少女を見つけて目を見開く。
「「シャーロット!」」
「きゃ!」
スケルトンよりも早く動き出していた二人の幼い少年は、扉の方にいた幼い少女の許に駆け寄る。
幼い少年達に捕まり、小さな悲鳴を上げる幼い少女。
「心配かけてごめん」
「ううん。それより二人とも大丈夫?」
「ああ。お前こそ大丈夫だったか?」
「うん!」
抱き合いながら再会を喜ぶ三人。冒険者志望の少年の謝罪の言葉に首を振る幼い少女は、逆に二人を気遣っていた。
そんな微笑ましい光景を前にして、またも泣きそうになっているスケルトン。鼻をすすりながら、ハンカチで目元を拭っている。
「―――三人とも。再会を喜ぶのは良いけど、扉の前で騒がないでくれる? 通る人の邪魔になるでしょ?」
「「「っ!」」」
嬉しそうにしている三人だったが、扉の外から聞こえてきた声に驚き、その場で静止してしまう。
「「「ごめんなさい」」」
「別に謝らなくてもいいの。でも、今度からは気を付けるようにしてね」
三人が扉から離れると、他の孤児たちを連れてヤクザ風のシスターが部屋に入ってきた。
「……シスターアンジェ。確か仕事で出ていたのではないですか?」
ギルドの仕事で長い間留守にするはずだったシスターの存在を見つけ、疑問を投げかけるスケルトン。
「そのつもりだったのですが、ギルドに二人が来ていないという話を耳にしたので、すぐに戻れるように簡単な仕事に変えてもらっていたんです」
スケルトンの問いに苦笑いを浮かべながら答えるヤクザ風のシスター。
実は、金貸しの一件を気にしたシスターは、仕事に向かう当日になって冒険者ギルドに立ち寄り、受けていた仕事の内容を変更してもらっていたのである。
「……そうだったのですか」
「骸骨先生」
納得したように頷くスケルトンの許に、幼い少女が駆け寄っていく。
近付いてきた幼い少女の頭に手を置き、優しい手つきで撫で始めるスケルトン。
「……ケガはもう大丈夫ですか?」
「うん! お姉ちゃんに直してもらった!」
「……そうですか、それは良かった。…………本当に申し訳ありませんでした」
幼い少女の頭を撫でながら、ゆっくりと膝を下ろすスケルトン。
元気そうにしている少女と目を合わせながら、スケルトンは謝罪を口にした。
「骸骨先生?」
「……私がちゃんと注意していればこんなことにはならなかったのに、本当にすみません」
不思議そうな顔をして首を傾げている幼い少女を前にして、スケルトンは暗い表情をして言葉を紡ぐ。
どうやら、自分がちゃんと止めなかったせいで少女はケガをしてしまったのだと責任を感じているようだ。
「ううん、骸骨先生は悪くないよ」
「…………ありがとう」
自分のせいだというスケルトンの言葉に、首を振って否定する幼い少女。
そんな幼い少女の行動を見て仄かに笑ったスケルトンは小さく感謝の言葉を口にする。
空気を読んで部屋の隅の方で大人しくしていた子供達が一斉にスケルトンに押し寄せようとしたその時、バンッという大きな音と共に扉が開かれる。
「……見つけたぞ!」
そこには、頭にロールパンを乗せているような変な髪形の男が立っていた。