男子はみんな、スパイグッズが好きである
「ヤレヤレ、しょうがないな。じゃあ、お前らにだけ特別に、このお祓いグッズの隠し機能を教えてやる」
「ホント!」
しょげている冒険者志望の少年に目を向けた残念な少年は、ヤレヤレと首を振りながら二人に話しかけた。
残念な少年の言葉を聞き、元気を取り戻す冒険者志望の少年。
「いいか。これはな、アンデッドをただ成仏させるだけじゃなくて、その周囲の環境も浄化できるスゴイ機能が備わっているのだ!」
「……周囲を浄化って何?」
偉そうに語っている残念な少年に対して、キョトンとした顔で尋ねる冒険者志望の少年。
「浄化っていうのは、汚れなんかを取り除いて清浄にするって意味なんだが。このお祓いグッズはな、元々、下水道を掃除する時に俺が作った清掃用の魔道具を改良したもので、光で覆われた部分のこびりついた汚れや人の体に悪いバイ菌なんかをまとめて消し去ってくれる効果があるんだ」
「スゴイ! それゼッタイ売れるよ!」
「は?」
得意げに話す残念な少年の言葉を聞き、楽しそうな声を上げる幼い少年。
「それ、お店で売ったら、きっとみんな欲しがるよ!」
「これを店で売る? そんな面倒臭いことするわけ無いだろ?」
「「何で!?」」
嫌そうな顔をしている残念な少年に対して、ほぼ同時に驚きの声を上げる二人の幼い少年。
「何でって、これ一個作るのにどんだけ手間がかかると思ってんだよ。いいか、商売ってのはな、どんなに良い商品を売ろうが、それを用意するのに無駄な手間が掛かり過ぎてると商売として成立しないんだよ。そんなことも知らないのに働きたがるとは、これだからお子ちゃまは」
「「ム~ッ!」」
両手を肩幅くらいに開き、ヤレヤレと首を振る残念な少年を前にして、ムスッとした顔になる二人の幼い少年。
「そんな事より、とっとと帰るぞ」
「待ってよ、まず、この鎖を……」
ストレッチを始める残念な少年に向かって、文句を言おうとした冒険者志望の少年は、自分達を繋いでいた鎖が無くなっていることに漸く気が付く。
どうやら、幼い少年達を拘束していた黒い鎖は、魔族の亡霊が創り出していたもので、悪魔が成仏したのと同時に効力を失い消滅したようである。
「ほら、ボーッとしてないで早く立て」
ウザい態度で少年達を急かす残念な少年。その時、冒険者志望の少年が何かを思い出したかのように俯いてボソッと呟いた。
「……そういえば、スケルトンの遺産をまだ見つけてない」
「あっ!?」
冒険者志望の少年の言葉を聞き、その横で声を上げる幼い少年。
元々、二人の幼い少年がこの迷宮に足を踏み入れたのは、教会にある借金を返すためにスケルトンの遺産を探すためであった。危機的状況にあったためにすっかり忘れてしまっていた二人。
そんなことを思い出し、立ち上がると共に落ち込んでしまった幼い少年達を見つめる残念な少年。
「お前ら、漸く帰れるって時になんて顔してんだよ」
「……だって、スケルトンの遺産が……」
「そんなの俺がとっくに見つけてるから、とっとと帰るぞ」
「「え?」」
思いがけない発言に、黒い鉄の扉を目指して歩き始める残念な少年を呆然と立ち尽くして見つめる二人の幼い少年。
放心している二人など無視し、扉に手を掛ける残念な少年。
「お~い、置いていくぞ~」
「「! ちょっと待って!?」」
残念な少年の間延びした声を聞き、正気に戻った二人は慌てて残念な少年を追いかける。
騒がしい声と共に静かに閉められる悪魔の居た部屋。残念な少年が立ち去った後、窓などない筈のその部屋に何故か一陣の強い風が吹いた。
まるで、漸く呪縛から解き放たれた魔族の亡霊を、誰かが労わるかのように……