幕間 葛藤する勇者達
「本日の訓練は以上です。お疲れ様でした」
城の一室。大理石で出来た広々とした部屋。貴族のパーティに備えて四人の勇者が集められ、専属の家庭教師が付き礼儀作法の訓練をしていた。
「ふぅ。疲れた」
大理石の壁に寄り掛かり一息つく東正義。午前中の訓練が終わり、昼食の時間までしばしの休息をとっていた。
「よろしければ、お使いください」
東正義が声のする方に視線を向けると、目の前に手拭いを差し出す若いメイドが立っていた。
「ありがとうございます」
誰もが見惚れてしまう様な笑みを浮かべ手拭いを受け取ると、顔を赤くしたメイドはそそくさと部屋を出て行った。
「天然誑し」
東正義の対応を見て、軽蔑の視線を向ける南里輝夜。
「人聞きの悪い。ただ手拭いをもらっただけだよ」
「よく言うわ」
反論する東正義を鼻で笑う南里輝夜は、顎をしゃくり、部屋の入り口を示す。部屋の入り口では、ちらちらとこちらを窺いながら重厚な扉の後ろで犇めき合うメイド達の姿が見えた。
「あれが何よりの証拠よ」
「別に、僕は何もしてないんだけど」
頬を掻きながら苦笑いを浮かべる東正義。息遣いが荒く、仄かに体を上気させる金髪美男子の姿は、白い大理石の背景と合わさり、女性を惑わす色香を放っていた。
「女性にとって、貴方の存在そのものが害悪なのよ」
「いくら何でも言い過ぎじゃない!」
思わず慣れたツッコミを入れる金髪リア充。
「それに、彼女達の目当ては僕だけじゃないと思うよ」
心当たりのある東正義は、メイド達が目当てとするもう一人の人物を見る。
西場拳翔。切れ長の目と凛々しい顔の美少年。今は薄着の為、服が汗で張り付き、ボクシングで鍛え抜かれた精強な体を薄っすらと浮かび上がらせている。
「あぁ、あれも女性に良い影響を与えないわね」
「あれって」
輝夜様の物言いに嘆息する東正義。
西場拳翔は、先程まで自分達に礼儀作法を教えていた家庭教師の男性と話し込んでいる。徐々に険しい顔で相手を責めるように話す西場拳翔は、ハッキリと聞こえるように舌打ちすると足早に部屋を出て行こうとした。
「おい、ちょっと待てよ」
咄嗟に呼び止めてしまう東正義。
「……なんだ?」
足を止め、敵意剥き出しで尋ねてくるマッチョ君。
「あ、いや、えっと。何か機嫌悪そうだけどどうしたの?」
「お前には関係ない」
にべもなく答えるマッチョ君。
「ちょっと、仮にも同郷の仲間に対してその態度はないんじゃない」
西場拳翔の態度に文句を言う輝夜様。
南里輝夜に視線を向けると、彼は深い溜息を漏らした。
「すまん、悪かった。ちょっとイライラしてた」
頭を下げて謝罪するマッチョ君。
「別に良いよ。それより何があったの?」
「いや。大したことじゃない」
質問を投げかける金髪リア充だが、言葉を濁される。
「別に、話したくないならそれでいいけど、同じ世界から呼び出された仲間として、悩んでいることがあったら相談してほしい」
「……ああ、考えておく」
終始表情が硬かった西場拳翔は、そのまま部屋を出て行った。
「大丈夫かな」
西場拳翔の後ろ姿を目で追いながら、東正義は呟いた。
「さぁ、問題は山済みだしね」
返答する南里輝夜は、部屋の隅で話し込んでいる北見梨々花を見やる。
そこには、元いた世界では海外でしか御目に掛かれない様な高身長で色素の薄い美男子に囲まれ談笑する北見梨々花の姿。
「本当、先が思いやられるわ」
先の見えない不安を感じながら、南里輝夜は深いため息を漏らした。