魔族の亡霊 VS 残念な勇者? パート2
「ヤレヤレ。ホント、この街に住んでる奴らはみんな短気なんだよな」
「うるさい! 何なんださっきから、今置かれている状況を理解しているのかお前は!」
「いや~、状況と言われてもな~」
声を荒げている悪魔に対して、いつものように首を振るウザい態度をとる残念な少年。
「よくわかんないけど、とりあえず、そこにいる二人を連れてとっとと帰りたいんだけど?」
「駄目に決まっているだろうっ!?」
「もぉ~、わがままだな~」
アメリカのコメディアンが偶にやる様に、両手を肩幅に広げて首を左右に振っている残念な少年に、怒りで歯を食いしばっている悪魔。今にも歯ぎしりをしそうである。
「全く全く全く、何なんだお前は! 人族の餓鬼二人だけでなく、こんな頭の可笑しい奴にまで見つかるとは、呪いに精通している筈のこの私が、誰かに呪われているとでもいうのか!」
「……なあ。さっきから気になってたんだけど、その偶に同じ単語を繰り返すのって癖か?」
「黙れっ!!!!!?」
「「プッ!」」
残念な少年の発言を聞き、思わず吹き出してしまう二人の幼い少年。その時、グリンッとでも音が鳴りそうな勢いで首を回して少年達の方を凝視する悪魔。
若干、悪魔の口角がピクピクと動いているのが印象的であった。
「キ・サ・マ・ラ! 魔族であるこの私を虚仮にするとは、生きて帰れると思うなよ?」
「え? さっき勝手に帰るなって言ってなかったっけ?」
「…………」
激昂している悪魔の発言に対して、首を傾げながら疑問を口にする残念な少年。
その瞬間、悪魔の頭の中でプツンッと何かが切れる音がした。
「……キ、キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
「ど、どうした? 急に笑い出して、頭でも打ったのか?」
真っ黒なその手を額に置き笑い出した悪魔。突然妙な行動に走った悪魔に対して、心配そうに声をかける残念な少年。原因があるとすれば間違いなく犯人は残念な少年なのだが、その対応はまるで他人事のようであった。
そんな残念な少年の言葉を無視し、悪魔は鎖に繫がれた二人の少年の許にゆっくりと近づいていく。
「……そうですね、最初からこうすればよかったんだ。……さあ! この餓鬼どもを死なせたくなければ抵抗せず大人しくしていろ!?」
「イヤだ!」
「はぁっ!?」
鎖でつながれた少年たちを人質にする悪魔。どうやら、迷宮にやって来た侵入者に対して利用するために彼らを生かしていたようである。
そんなテレビドラマの小悪党がとりそうな何とも滑稽な手段をとる悪魔に対して、もっとバカなことを言い始める残念な少年。
「勝手に迷宮に入って、勝手に捕まるような身勝手なお子ちゃま共の為に、どうして俺が犠牲にならないといけないんだ! 断固拒否する!」
「お前は悪魔かっ!?」
悪魔に悪魔呼ばわりされる残念な少年。今まさに危険な状況に立たされている筈の二人の幼い少年は笑いを堪えるので必死なようである。
「ハァ~、ヤレヤレ。しょうがないな」
憤慨している悪魔を一瞥した後、ため息をついた残念な少年は、懐から謎の球体を取り出した。
「ん? 何ですか、それは?」
「一応言葉は通じるみたいだから警告しておく。無理矢理に成仏させられたくなければ、大人しくそこにいるお子ちゃま二人を開放しろ」
「……キヒヒヒヒヒ。まさか、ここにきてようやく命乞いですか?」
謎の白い球体を掲げる残念な少年に対して、苦し紛れの命乞いと受け取った悪魔は高笑いを上げた。
「ハァ~、所詮はアンデッドか。言葉は分かっても会話が出来ないとはな……」
「何?」
「お子ちゃま共! 俺が『良い』って言うまでとりあえず目を瞑っとけよ!」
再び深いため息をついた残念な少年は、鎖に繫がれた二人の幼い少年に向かって声を掛けた。
それに反応してキョトンとした顔になる少年達。そして、幼い少年達が目を瞑ったのを確認すると、残念な少年は振りかぶり、その手に持っていた謎の球体を悪魔に向かって投げつけた。
「ん?」
飛んできた謎の球体を造作もなく片手で受け止める悪魔。その球体に悪魔と残念な少年の視線が集まる。
この瞬間、辺りに沈黙が訪れる。
「……どういうつもりかは知りませんが、どうやらあなたの考えていた手段は不発のようですね?」
暫くすると、手に持った球体から視線を外し、何も起きないことを確認した悪魔は、得意げになり三日月のような笑みを浮かべて残念な少年に向かって話しかける。
しかし、その時の残念な少年の姿をみて、悪魔は言葉を失ってしまう。
「…………」
「ん? どうかしたか?」
残念な少年は、その薄暗い部屋の中で何故かサングラスをかけていた。そんな滑稽な姿を前に、声を荒げる悪魔。
「貴様、どこまで私を馬鹿にするつもりだ!」
「え?」
悪魔の言葉に首を傾げる残念な少年。その態度を見て、蟀谷に青筋を浮かべる悪魔。
プルプルと怒りで体を震わせている悪魔。その時、カチッという妙な音がどこからか聞こえてきた。
「ん? なんだ今の音―――」
音の出所であった球体を見つめる悪魔が最後まで言葉を言い切る前に、突然、部屋の周囲を眩い光が包み込んでいた。