魔族の亡霊 VS 残念な勇者? パート1
迷宮の最奥にある部屋。教会に住む二人の幼い少年が鎖でつながれ、悪魔の住み着いていたその部屋に、残念な少年がやって来た。
「へぇ~、意外と広いな。まさかスケルトンの墓にこんな場所まであるとはな」
キョロキョロと部屋の中を見回す残念な少年。突然現れた変な男を前にして、言葉を失ってしまう悪魔。
「ハルト兄ちゃんっ!?」
「ん?」
名前を呼ばれて、声のした方に視線を向ける残念な少年。そこには、鎖でつながれた二人の幼い少年の姿があった。
今も喉のあたりを押さえて咳き込んでいる幼い少年と、目に涙を溜めて残念な少年の方をじっと見つめている冒険者志望の少年。
そんな二人の姿を見た残念な少年は、目を吊り上げて叫んだ。
「お前ら! 人がマジメに捜索している時に、何を遊んでやがる!」
「遊んでないよ! 捕まってるんだよ!?」
ムッとした顔で言った残念な少年の言葉に、即座に泣きながら反論する冒険者志望の少年。
理由は分からないが、どうやら、残念な少年には二人は遊んでいるように見えたらしい。
「ハァ~、ヤレヤレ。人がせっかくここまで苦労して探しに来たというのに、まさか、こんなところでごっこ遊びをしているとはな」
「うぅ~、だから違うって―――」
「……なるほど、どうやらそこにいる二人を探して、ここまで来たようですね」
いつものように首を振ってウザい態度をとる残念な少年を前にして、目に涙を溜めて反論しようとする冒険者志望の少年。
しかし、それを遮るように、ようやく気を取り直した悪魔が言葉を紡いだ。そして、声のした方に残念な少年が目を向ける。
「……あんた誰?」
「き、貴様。この私の姿を見てわからないのか?」
「?」
異様ともいえる不気味な姿をした謎の存在を目の前にして、残念な少年は冷静に思ったことをそのまま口にした。
残念な少年の相手を馬鹿にしたような態度に頬をヒクヒクさせながら、悪魔は言葉を発した。その言葉を聞き、まるで頭にクエスチョンマークを浮かべたように首を傾げる残念な少年。
その瞬間、悪魔の蟀谷に青筋が浮かぶ。
「ん~、見た感じだと、悪魔っぽいんだけどな~」
「……ま、まあそうだろうな」
「……ああ、そういうことか!」
何かに納得したように手を打った残念な少年。それを見て、何故か安堵のため息をついている悪魔。
「お前! 教会に住み着いているスケルトンの仲間だな!?」
「………………は?」
予想外の答えを吐く残念な少年を前に、口をアングリと開けマヌケな顔を晒す悪魔。
「貴様は何を言っているんだ?」
「おかしいと思ってたんだよな。ここに来るまでの間に異様にアンデッドと遭遇するし、つまり、お前があいつらを統率してたんだろう!」
悪魔を指差しながら持論を展開する残念な少年。困惑してしまう悪魔だが、一応、『統率』という部分だけは奇跡的に当たっていた。
実は、残念な少年がここに来るまでの間に大量のアンデッドと遭遇していたのは、最初の侵入者であった二人の幼い少年を捕らえた後、二人を追いかけてきた人間を追い払うための警備として悪魔がアンデッドを配置していたためであった。
「正直、全く全く全く意味が分からないが、この私を低級のスケルトンごときと一緒にするな!」
「うるさい! 悪魔のコスプレしてるくせに、偉そうなことを言うんじゃない!」
「こ、コスプレだとっ!?」
悪魔のコスプレと断じる残念な少年を前にして、怒りでプルプルと震えながら蟀谷に青筋を浮かべている悪魔。
「私は正真正銘の魔族だ!」
「はんっ、バカめ! 本物の魔族がこんな穴倉の中に住んでるわけがないだろうが!」
「なっ!?」
憤慨する悪魔に対して、ある意味正論を口にする残念な少年。確かに、普通の魔族が教会の地下深くに隠れ住むなど、考えられない話ではある。
「こんな劣悪な環境で普通に住んでいるくらいだ。まぁ、仮にお前が魔族だったとしても、どうせとっくに死んで亡者になったアンデッドの親戚かなんかだろ?」
「くっ! 変に当たっているから余計に腹が立つな」
メチャクチャな理屈を吐いている筈の残念な少年だが、意外と当たっていることに余計に腹を立てる悪魔。
この迷宮に住み着いている悪魔は、大昔にあった人族と魔族の戦争で命を落とし、魂だけの存在になった所を教会の地下にあったこの迷宮に封印されてしまった存在なのである。
「それより貴様、先程アンデッドと遭遇したといったな。私が警備に当たらせていた筈のそいつらはどうした!」
「え? あいつ等だったら皆とっくにお亡くなりになりましたけど?」
「何?」
残念な少年に向かって疑問を投げかける悪魔。それにキョトンとした顔で答える残念な少年を見て、悪魔は目を丸くする。
「この迷宮にどれほどのアンデッドを配置したと思っている。いずれ地上にいる全ての人族を殲滅するために私が長い長い長い年月を掛けて用意した全戦力を置いていたんだぞ!」
「いや、まあ、確かにスゴイ数いたけどさ……」
興奮している魔族を前にして、頬をポリポリと掻いている残念な少年。
「待てよ。『お亡くなり』って表現はこの場合間違ってんのかな?」
「そんなことはどうだっていいっ!?」
「えぇ~」
腕を組んで考え込もうとしている残念な少年に対して、文句を言っている悪魔。
もうすでに、残念な少年が現れるまでに部屋に立ち込めていた重苦しい空気は完全に吹き飛んでいた。
今も鎖でつながれ、恐怖で顔を青くしていた筈の二人の幼い少年は、お腹を押さえて笑いを堪えるのに必死になっていた。