※この作品でシリアスな展開は長続きしません
「―――ヒック、ウゥ~……」
迷宮の最奥にある部屋。鎖でつながれていた幼い少年の一人はさめざめと泣いていた。
「……おい、いつまで泣いてるんだよ」
「うぅ~、だって……」
同じく、鎖でつながれている冒険者志望の少年が、隣にいた幼い少年に小さな声で話しかける。
ムッとした顔で注意してくる冒険者志望の少年に対して、愚図りながらも反論する幼い少年。
「とにかく、今は少しでもアイツの気を逆なでしないようにして、助けが来るまで時間を稼ぐんだ」
「……助けなんて来るのかな?」
冒険者志望の少年の言葉を聞き、ボソッと本音を口にしてしまう幼い少年。
「絶対に来る。冒険者ギルドの人たちがきっと助けに来てくれるから、それまで待つんだ」
「そんなのわかんないだろっ!」
相当追い詰められていたのか、突然声を荒げる幼い少年。思わずギョッとしてしまう冒険者志望の少年。
「おい、静かにし―――」
「どうやら、言い残す言葉は決まったようですね」
慌てて制止しようとした冒険者志望の少年だったが、いつの間にか目の前に立っていた悪魔に先に話しかけられてしまう。
じっと目の前に立つ悪魔を見つめて言葉を失ってしまう二人の少年。
「大人しくしているようにと言っておいたつもりなのですが、それすらも守れないとは、これだから人族は信用できない」
鎖に繫がれた二人の幼い少年を見下ろしながら、淡々と語る悪魔は、その真っ黒い手で幼い少年の首を掴んだ。
「まぁ、二人もいることですし、片方を先に殺してしまっても問題はないでしょう」
「っ!」
「待てっ!」
三日月を連想させる不気味な笑みを浮かべる悪魔に向かって、声を張り上げる冒険者志望の少年。
その声に反応して首を絞めようと動かしていた手を止め、青い顔でブルブルと震えている幼い少年から視線を外す悪魔。
「何か?」
「わざわざ俺達をこんなところで拘束しているぐらいなんだから、生かしておくメリットがあるんじゃないのか?」
声を震わせながらも、何とか言葉を絞り出す冒険者志望の少年。その言葉を聞き、驚いたかのように瞬くをする悪魔。
「ほう。少しは頭が回るようですね」
「……いいのか、そのメリットを失っても?」
感心したようにつぶやく悪魔を見据えて、内心の動揺を悟られないように静かに語ろうとする冒険者志望の少年。
「……少しは頭が回るようですが、人の言うことにはあまり耳を傾けないようですね」
「?」
「私は先程、二人も必要ないと言いましたよね?」
「!」
悪魔の言葉に黙って首を傾げた後、その後の発言を聞きハッとする冒険者志望の少年。
何かに気付いたかのように目を見開いている少年から視線を筈に、再び幼い少年の方に向きなおった悪魔は、また首を掴んでいた手を動かし始めた。
「やめろっ!」
声を張り上げる冒険者志望の少年に対して、頬が裂けたかのような不気味な笑みを浮かべる悪魔。
ミシッという不気味な音を出しながら、苦しみ始める幼い少年。そんな光景を目の前にして、鎖を引きちぎろうと必死に引っ張る冒険者志望の少年。だが、鎖に変化はない。
「うわぁああああぁああ―――」
「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒ―――」
必死に鎖を引く冒険者志望の少年の出した悲鳴と、三日月のような笑みを浮かべて高笑いを上げる悪魔の声が薄暗い部屋に木霊した。
その時、扉をノックする音が部屋の中に響く。
「……ん?」
思わず手を放して扉の方に視線を向ける悪魔。解放された幼い少年は首元を押さえて咳き込んでいる。
先程まで、必死で鎖を引きちぎろうとしていた冒険者志望の少年も、悪魔と同じ様に、扉の方を眺めていた。
気のせいかと悪魔が考え始めた瞬間、また扉をノックする音が聞こえた。扉の方を凝視する悪魔。そこに、なんとも能天気な声が外から聞こえてくる。
「ごめんく~ださ~い」
「「…………」」
場の空気にあまりにも似つかわしくない声色に、思わず沈黙してしまう悪魔と冒険者志望の少年。
横で咳き込んでいる幼い少年を無視し、ボーッと扉を眺めていた二人。
「あの~、誰か返事してもらえますか~? 返事がないってことは~、入ってもいいと解釈しますよ~?」
扉の外から聞こえてきた間延びした声に、ポカンとした顔になる二人。
茫然としている二人を無視し、その黒い鉄の扉はゆっくりと開くと、能天気な声の主が姿を現した。
「おっ邪魔っしま~す」
なんとも馬鹿馬鹿しい挨拶と共に、残念な少年、青葉春人が現れた。