ダンジョンに隠し扉があるというのは定番である
「―――何だ、また行き止まりか?」
黒い鉄の扉の先。迷宮の最奥に辿り着いていた青葉春人は、周囲を見回した後に目の前にあった石の壁に手を置いた。
スケルトンの墓から見つかった扉に入り、行方を晦ましてしまった教会に住む二人の幼い少年を探して、迷宮の中を探索していた残念な少年は、またも行き止まりにぶつかりため息をついていた。
「変だな、ここに来るまでの間に全部の通路を確認した筈なんだけどな。もしかして、見落としでもあったか?」
腕を組んでから首を傾げる残念な少年。
迷宮に入ってからずっと探索していた残念な少年は、ここに辿り着くまでの間に見つかった経路は全て行き先を確認していたのだ。
「……この壁、妙な切込みがあるんだよな~」
目の前にある行き止まりと思われた石の壁を嘗め回すように見ていた残念な少年は、いやらしい笑みを浮かべて独り言をつぶやいた。
そして、ペタペタと壁に手をついていくと、妙な出っ張りを見つけて手を止める。
「やっぱり、また隠し扉か」
その石の出っ張りを押したり引いたりしてみる残念な少年。すると、出っ張りのあった部分の石が抜け落ち、中から扉の取っ手のようなものが見つかった。
「ふっふっふっ。あのゴブリン爺ちゃんの秘密の部屋さえ看破したこの俺にみつけられないものなどない!」
誰もいないのに、一人で威張っている残念な少年。アンデッドすらいない薄暗い場所で、一人で誇らしげに胸を張っているのが何ともシュールである。
そのまま、残念な少年が出てきた取っ手を掴み動かしてみると、石の壁に不自然な亀裂が入り、まるで扉のように壁の一部が動いた。
動いた石の壁の面積分、ポッカリと開いた穴の先には、先程まで通ってきた道とほぼ同じレンガのように積まれた石の壁と天井から降り注ぐ謎の光源が見えた。
ただ、今迄と少し違っていたのは、穴の先に続いている道は一本道になっており、その最奥には、この迷宮に入る時に通った入り口と全く同じデザインの黒い鉄の扉があった。
「へぇ~、ここにきてようやくまともな扉が見つかるとは。ひょっとすると、ここが終着点かもしれないな」
隠し扉の前で立ち尽くしていた残念な少年がボソリと呟いた。
「にしても、お子ちゃま共は何処に行ったんだ? この仕掛けを解いて誰かが入った様子はないしな。……まさか! 俺が入った後に迷宮から出て行ったんじゃないだろうな!」
ハッとなにかに気付いたかのように隠し扉を見つめて独り言を口にする残念な少年。
隠し扉がちゃんと施錠されていたことからも、ここを出入りした人間のいないことは容易に想像できる。
加えて、迷宮の中を隅々まで探索してアンデッド以外に誰とも遭遇していなかった残念な少年は、この迷宮に入った幼い少年たちは、自分が迷宮に入った少し後に、自力で出て行ったのではないかと予想していた。
「おのれ、お子ちゃま共め! 人様を無駄に働かせるとは、帰ったら説教してやる!」
ムスッとした顔で怒りを露わにする残念な少年。グチグチと文句を零しながら、踵を返した残念な少年は来た道を引き返そうとする。
その時、後ろの方から子供のすすり泣く声が聞こえてくる。
「ん?」
石の壁に反響して聞こえてくる声の方に残念な少年が視線を向けると、黒い鉄の扉が目に入った。
「…………マジで?」
キョトンとした顔でボヤく残念な少年は、声のする方に近づこうと、ゆっくりと黒い鉄の扉に向かって歩き出した。