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牧師とボクサーというのは、切っても切れない関係にある


言い知れぬ寒気を感じたロン毛の男は、依頼主でもあった金貸しの男を庇うようにして前に出た。


俯きがちになり両の手をだらりと垂らしてユラユラと歩き始めたスケルトンを前にして、彼から放たれている何か恐ろしいオーラのようなものを感じ、後退りしてしまう金貸しの男。


「な、何だ! 私のやり方に文句でもあるのか!」


謎の恐怖を肌で感じ、饒舌になる金貸しの男。いつの間にか、本物のアンデッドのようになっているスケルトンから二人は目が離せなくなっていた。


ゆっくりと体を揺らしながらこちらに近づいてくるスケルトンに警戒を強めるロン毛の冒険者。先程、礼拝堂の扉を破壊した時にも使用した剣の柄を両手で握り、構えをとっている。


そんな戦闘態勢をとっている彼が瞬きをした一瞬のうちに、スケルトンの姿が視界から消える。


「なっ!?」


思わず驚きの声を上げてしまうロン毛の男。構えを崩さずに、素早く周囲を確認しようとする彼の横に、いつの間にか、まるで幽霊のように突然現れたスケルトンがロン毛の男の顎に向かってパンチを入れる。


その枯れ枝のように細い腕からは想像もできない程、素早くキレのある拳を放ったスケルトン。それを食らったロン毛の男は、殴られた時の勢いのまま、前のめりに倒れていった。


「……え?」


一部始終を目の前で見ていながら、何が起きているのかを全く理解できなかった金貸しの男は、目を見開き、口を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。


ゆっくりと首を動かして、倒れてからピクリとも動かないロン毛の男から、こちらの方に向きを変えたスケルトンと目が合った金貸しの男。


「…………はっ!」


その時になって、次は自分の番なのだと漸く自覚した金貸しの男は、気が付いたかのように声を上げてしまう。


「ま、待て! こんなことをしてタダで済むと思っているのか?」

「…………」


慌てて相手を止めようとする金貸しの男。しかし、スケルトンは返事をすることなく、後退りする金貸しの男にゆっくりと近づいていく。


「ヒィッ!」


壁際に追い詰められ、短い悲鳴を上げてしまう金貸しの男。


恐怖で青ざめている彼に対して、本物のアンデッドのようにゆっくりと歩みを進めたスケルトンは、金貸しの男の目の前でピタッと立ち止まると、だらりと前に垂らしていた両手を肩の高さにまで上げて、構えた。


そして、金貸しの男が息を飲んだ次の瞬間に、右拳を振りぬき、その拳を礼拝堂の壁に突き刺していた。


「…………は……はは」


物凄い勢いで自分の頭のすぐ横をかすめた拳に硬直してしまう金貸しの男。ドゴッという拳が壁にぶつかった音と共に腰が抜けたのか尻餅をついてしまう。


今も瞬きもせずにこちらをじっと見つめてくるスケルトンに、乾いた笑いを浮かべながら、金貸しの男はそのまま気を失った。


「……はぁ」


沈黙した金貸しの男を眺めながら、スケルトンはまっすぐに伸ばしていた右手を下ろして溜め息をついた。


「……やはり、こういった手荒なことは、どうしてもなれませんね」


右手に付いた埃でも払うかのように、手の甲をハンカチで拭ったスケルトンがボソッと呟いた。先程まで発していた幽霊のような雰囲気は既に消えている。


「……これは、シスターアンジェにどう言い訳すべきでしょうか?」


今まさに、自分が殴りつけしまった壁を見てぼやくスケルトン。その壁には、くっきりと拳の形をした凹みと、小さな亀裂が入っていた。


途方に暮れたように天を仰ぎ始めるスケルトン。その時、礼拝堂の外から、ドタドタと沢山の人が走る音が聞こえてくる。


「骸骨先生!?」


勢いよく礼拝堂の中に入ってくる幼い子供達。騒ぎを聞いて慌てて駆けつけたのか、何人かが息を切らしていた。


「何があったの!」

「……とりあえず、落ち着いてください。詳しい事情はあとで話しますから」


中の様子を見て幼い少年が声を上げたのを、落ち着いた声音で宥めようとするスケルトン。


興奮して騒がしくしている子供達の前を通りすぎると、スケルトンは今も気を失っている幼い少女に近づいていく。


「……事情を話しますから、ついてきてもらえますか?」


倒れている幼い少女を優しく抱き上げたスケルトンは、漸く少し落ち着いたのか、事情を聞きたそうにじっと見つめてくる幼い子供達に話しかけた。


「そこに倒れている人達はいいんですか?」

「…………ええ。放っておいてください」


疑問を口にした幼い少年が指差した先を一瞥したスケルトンは、少しの間を開けてから、淡々とした調子で無視するようにと幼い子供達に告げる。


訳が分からず首を傾げていた子供達は、どこかいつもと様子の違うスケルトンを見つめて、扉の破片の散らばる礼拝堂を後にした。




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