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黒い鉄の扉の先に潜むモノ・・・


「―――ヤレヤレ。まさか、今頃になって侵入者が現れるとは想定外でしたよ」


薄暗い部屋。天井から降り注ぐ頼りない謎の光に照らされた石の部屋で、それは部屋の中をゆっくりと動き回りながらボヤいていた。


「全く。この私が何年も、何年も、何年も費やした計画に土足で踏み込んでくるとは、人族という生き物は本当に無粋ですね」


足元もよく見えない暗い部屋の中を、何かにぶつかることもなくボソボソと呟きながらそれは動いていた。


「……そうは思いませんか?」


薄暗い部屋の中で、黒い人型に見えたそれは突然立ち止まると、グリンッとでも音がしそうな勢いで首を回して、壁際に鎖でつながれた二人の幼い少年に話しかけた。


思わずビクッと体を震わせてしまう幼い少年達。しかし、彼らからは陰になっていて話しかけてきた存在の顔は良く見えなかった。


「「…………」」

「えぇえぇえぇ、そうでしょうとも。人魔大戦の頃から人族は何も成長していない。あの時代に、忌々しい光の勇者の手によって私が命を落としてから幾何の時が流れたのか、こんな穴倉の中にいては知る由もありませんが、あなた達人族がなにも進歩していない事だけは理解できます」


恐怖で沈黙してしまう幼い少年達の態度を気にせずに、黒い人型をしたそれはまた、ブツブツと呟きながら、部屋の中を動き始めた。


言い知れぬ恐怖で青白い顔になっていた二人の少年は、お互いの腕を必死で掴みあうことで泣きそうになるのを何とか堪えていた。なぜか、泣き出してしまえばもっと恐ろしい目に遭うと直感で感じたためである。


「我らが偉大なる魔王様の理念も理解せず、自分達の利益しか考えない愚かで醜い存在。あのお方を亡き者にし、地上でノウノウと生きている人族を根絶やしにする事こそ、ひいては世界の為に必要な事なのです。……そう思いますよね?」


またも突然立ち止まり、それは振り向きざまに少年達に尋ねた。


「「…………」」

「全く全く全く持って不愉快な話です。しかし、それももう終わりです。偉大なる魔王様の理念を引き継いだこの私が、こんな穴倉から出て、奴らを殲滅する時が来たのです!」


両の手を高々と上にあげて、黒い人型をしたそれは、何かに宣言するかのように薄暗い部屋の中心で叫んだ。


「本当に本当に本当に長かった。肉体を失ってこんな穴倉の中に封印されてから、一体どれほどの時が流れたのか。魂だけの存在になった私を封印したあの忌々しい神の御使いを名乗る人族にはたっぷりと礼をしなくてはいけませんね」


ニタァと頬が裂けるかのような不気味な笑みをそれは浮かべた。


「ヒッ!」

「……もっとも、この穴倉の上に住み着いた奴らの血族には私が呪いを掛けましたからね。こんな穴倉に封印されていては大したことはできませんが、人族である奴らにも寿命はある。どんなに効果の小さな呪いだとしても、長い長い長い年月を掛けてじわじわと浸透すれば、十分な効果を発揮するでしょうから、今頃は全滅しているでしょう」


一瞬だけ黒い人型のそれが笑った姿を見た幼い少年が、思わず小さな悲鳴を上げる。それに気づいていないのか、幼い少年の方を見ることもなく、黒い人型をしたそれはブツブツと呟きながら部屋の中を動いている。


「私の封印が弱まり、影響を及ぼせる範囲が増えたことからもそれは明らかです。直接手を下せなかったのは残念で残念で残念でなりませんが、まぁいいでしょう。漸く、待ちに待った計画を実行する時が来た……」


薄暗い部屋をゆっくりと動き回っていたそれは、突然立ち止まった。


「そう、漸くその時が来た。なのに……なのに……なのに…………何でお前らが来たっ!?」


ダンッと何かを叩きつけたかのような音を響かせて、黒い人型をしたそれは鎖に繫がれた二人の幼い少年に向かってど怒鳴り声をあげた。


「ヒッ!」

「漸く漸く漸く、忌々しい血族の最後の生き残りであったあのクソ女が死に、この時が来たというのに、なぜなぜなぜ、今頃になって邪魔ばかり入るのですかっ!?」


先程までの落ち着き払った態度が嘘のように、黒い人型のそれは怒り狂っていた。どうやら、またも小さな悲鳴を上げた幼い少年の声が耳に入らない程に。


「死に損ないであるあの一族の生き残りがこの地に戻ってくるは、蛆虫のように湧いてきた鬼族の娘のせいで気配さえ一切出していなかった私達への警戒を強めてしまうは、計画実行の直前になって本当に本当に本当に碌な事が起きていない!」

「「…………」」

「なにより、一番の問題は…………お前らだ!?」


頭を掻きむしりながら怒り狂っている黒い人型のそれを、黙って見つめる事しかできない二人の幼い少年に、突然振り返ったそれは人差し指を突き付けながら叫んだ。


「「っ!」」

「忌々しいあの血族の生き残りと共に、この穴倉の上に住み着くだけでなく、まさかまさかまさか、地下深くに隠しておいたこの迷宮の扉を掘り起こすとは、全く全く全く持って想定外でしたよ。生きているのか死んでいるのかもわからない血族の男に呪いをかけ、変な頭をした貴族を名乗るデブを洗脳して、邪魔な封印を丸ごと消し去ろうという時になって、まさか、二人も目撃者が現れてしまうとは」


声を詰まらせ悲鳴も上げられなくなる二人の幼い少年。そんな二人を見つめながら、黒い人型をしたそれは捲くし立てる様に喋る。


そして、ゆっくりと謎の光の下に進み、二人の幼い少年にも姿を視認できる位置まで黒い人型をしたそれは移動した。


「……さて、何か言い残すことはありますか?」

「「…………」」


光の下に現れた黒い人型をしたそれの全容を見た時、二人の幼い少年は恐怖のあまり歯をカチカチと鳴らして震え上がった。


ヤギのような角を頭に生やし、蝙蝠のような翼を背に持ち、いまだに闇の中にいるかのような真っ黒な肌。


二人の前に立っていたのは、紛れもなく、御伽噺でしか聞いたことのなかった悪魔そのものであった。


「……生きて帰れるとは思わないでくださいね」


鎖でつながれた幼い少年達に顔を近づけた悪魔は、三日月を連想させるような不気味な笑みを浮かべて、少年達に話しかけた。


そこは、黒い鉄の扉の先にある迷宮の最奥にあたる部屋。スケルトンの遺産を探しに来た二人の少年は、ある意味、今も街に住む冒険者達が血眼になって探し続けている存在を発見したのであった。




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