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残念な少年による間違った仕事術 パート3


「ハァ~、ヤレヤレ。森や洞窟に潜伏しているような汚いオッサンなんて、魔物と大差ないだろ?」

「全然違うだろ! お前には、魔物と人間の区別もつかねぇのかよ!?」


ため息をつきながら宣う残念な少年の態度に、ついに頭を抱えてしまうギルドマスター。


ある時、ギルドで魔物の素材を買い取りしている場所に、人間が運ばれてくるという問題が発生した。犯人はもちろん、残念な少年である。


たまたま買取カウンターに立っていた受付の証言によると、「なんか、ゴブリン退治に行ったら、その親戚を見つけたから連れてきた」と犯人は宣っていたらしい。


縄でグルグル巻きにされて、ギルドの隅に並べられたオッサンたちの姿は、それを目の当たりにしたギルドマスターが言葉を失う程にシュールだった。


「もののついでみたいに魔物退治の後に決まってオッサンを生け捕りにしてくんじゃねぇーよ! お前が毎回オッサンたちをカウンターの横に捨てていく上に、いつも異常な数の素材を売るせいで、素材の買い取りの担当してる奴らが何人か寝込んじまったんだからな!」

「ヤレヤレ。最近の職員には根性がないんだよなぁ~」


悪夢にうなされている素材の買い取りを担当しているギルド職員たちの姿を思い出して、叫ぶギルドマスター。


残念な少年の起こした事件は、拾ってきたオッサンをギルドに捨てていくというものだけではなかった。


魔物の討伐。それは、冒険者が生活資金を集める手段として、最も一般的とされる仕事である。仕事の報酬は、例えば集落の近くに住み着いた害獣の討伐など、依頼内容を達成することで依頼主からもらえるものと、その討伐の対象が魔物だった場合、その素材を売ることで発生する報酬の主に二種類があった。


残念な少年の受けていた依頼は、主に冒険者ギルドから出されている、討伐対象の指定されていない、街道など人のいる場所の近辺にある森での魔物退治。


つまり、一般人に危害が及ばないよう事前に防ぐために魔物の間引きをする仕事をしていた。命の危険はあるが、緊急性のある依頼ではなく、討伐対象の指定もなく要人の護衛のように専門的な能力も必要としないため、初心者向けの仕事であった。


その為、報酬の内容は取得した魔物の素材でのみ判断されることになっていた。売る素材の数が少なければ報酬は減り、多くなればその分報酬も増える仕組みである。


そんな中、残念な少年は、一日ではとても捌けない様な異常な数の素材をいつも売りに来ていたのだ。


「何が根性だ! 一部でいいっつってんのに、毎回、魔物の死骸ごと山のように持ってこられりゃ誰だって病むに決まってんだろうが!?」


叫びをあげるギルドマスター。本来、魔物の素材というのは、討伐された魔物が持っている特徴の一部を指していて、その部位だけを持って帰ることが一般的だった。


しかし、残念な少年は、どういった方法を使ったのか、不可能と思える異常な数の魔物の死骸を冒険者ギルドまで運んでいた。しかも、グルグル巻きにしたオッサンたちと一緒にである。それもほぼ毎日。


これは、いやがらせ以外のなにものでもない。こんなことを毎回されれば、どんなに強靭な精神をした人間であっても、寝込んでも仕方がないだろう。


「でも、魔物の死体は基本的に無駄になる部分がないから、死体ごと持って行った方がお得だって説明されたしさ」

「そりゃお前。普通、したくても出来ねぇからそう言ってんだよ。一部ならともかく、魔物ごと持って帰るなんて荷物になること、一人で出来ると思わねぇだろ」


キョトンとした顔で宣う残念な少年に対して、呆れたようにため息を吐く眼帯の男。


魔物とは、突然変異で魔力を宿すようになった動物の総称でもあり、人に害を与える害獣としての一面もあるが、中には買い取りの対象とされている牙や角といった一部の素材以外にも毛皮や内臓のように貴重な部位が沢山採れるものもあり、ほぼ無駄になる所のない人の生活に欠かせない生物でもあった。


その為、魔物の素材を売る時は、対象とされる部位だけを売るよりも死体ごと売った方がお得な場合もあった。


ただし、これは建前である。なぜなら、死体丸ごとを抱えて命の危険のある森を徘徊するなど、誰がどう考えても危険である。余程余裕のある冒険者でもない限りしないし、それが出来るベテランはもっと稼げる高難度の仕事をする。


つまり、提示されているだけで、本来なら実現不可能なことなのである。にも関わらず、残念な少年は毎日のように実現させ、しかも、買取担当のギルド職員が目を回すほど、大量に死体を持ち帰り続けたのである。


「……ホント、どんな魔法を使いやがったんだよ、お前」

「さぁ?」


海外のコメディアンなんかが偶にみせる、肩をすくめるようなジェスチャーをする残念な少年。それを見て、蟀谷に青筋を浮かべ、頬をヒクヒクさせるギルドマスター。そろそろ、我慢の限界も近そうである。



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