残念な少年による間違った仕事術 パート2
「……そうだろうな。なんせ、街中の野良猫どもを取っ捕まえてから、依頼主の婆さんの前に持っていって、間違い探しさせたんだからな!」
冒険者ギルド。当時の状況を思い出したかのように、叫び出す眼帯の男。
ある時、老婆が一人で暮らしている屋敷の周囲で、なぜか大量の猫の鳴き声が聞こえると報告があり、行った先でみた屋敷の庭を覆い隠すほどの猫の大群を思い出して額に手を置くギルドマスター。
「自分の飼い猫を探して、猫を一匹ずつ持ち上げてる婆さんの姿は、痛々しくて見てられなかったんだからな……」
「いや~、あれだけ探すのには苦労した」
「どこの世界に猫探しの依頼で、街中の猫を連れてこようなんて考える奴がいるんだよ!」
満足そうな笑みを浮かべて頻りに頷いている残念な少年を指差して、再び叫ぶギルドマスター。
「だって、あんなヘタクソな似顔絵だけじゃ見つけられないだろ? それだったら、近くにいた猫をまとめて全部連れて行ってから、飼い主に確認させた方が手間も省けるし早いだろ」
「お前、依頼主の婆さんの事も考えてやれよ」
「ハァ、ヤレヤレ。飼い主だったら、自分の飼い猫くらいすぐにわかるだろ」
「今更だけど、腹立つな、コイツ……」
両手を肩幅に開き、頭を左右に振る残念な少年。拳をぎゅっと握り怒りを堪えているギルドマスターの横で、自分と同じように怒りを覚えている存在を間近に感じて冷静になったのか、率直な意見を述べるヤクザ風のシスター。
「それぐらいの事で、俺を問題児扱いするのは間違ってるだろ?」
「それだけじゃねぇだろうが! この前のドブ攫いで何やらかしたか、もう忘れたのか!」
ふてくされている残念な少年の発言に対して、またも叫び声をあげる眼帯の男。どうやら、かなり気が立っているらしい。
ドブ攫いとは、冒険者ギルドにある初心者向けの依頼の一つであり、汚れている街の下水道を掃除する仕事である。
街にとっては重要な仕事であり、命の危険のない仕事でもあるが、地味で汚い上に大変な作業であるために、殆どの冒険者に敬遠されてしまう依頼で、違反行為をした冒険者の罰則として課すことが一般的な依頼であった。
「何って、綺麗に掃除しただけだけど?」
「お前、ものには限度ってもんがあるだろう」
キョトンとした顔になる残念な少年を見て、手のひらで目元を覆うギルドマスター。
「誰がドブ攫いで、薄暗い下水道をマジで光り輝くくらいに綺麗にしろと言った!」
地団太を踏みながら言う眼帯の男。不思議そうにしている残念な少年の態度を見て、余計に腹を立てている。
「えぇ~。別に綺麗にしたんだからいいじゃん」
「いいわけあるか! お前が街中の下水道を街の景観よりもピカピカにしたせいで、始めてきた奴らが名所と間違えて集まってきて、えらい騒ぎになったんだからな!」
その時の光景を思い出し、泣きそうになりながら叫ぶ眼帯の男。
ある時、街中で騒ぎが起きているという報告が冒険者ギルドにあり、魔族の一件を調査していたギルドはすぐさま騒ぎの起きている現場の一つに向かった。
現場に到着したギルドマスターがそこで見たのは、底が見える程に透き通った水が流れ、汚れなど一切ない真っ白な岩肌を覗かせる美しい水路だった。
ほんの少し前まで、ドロドロとした汚い水が流れ、少し触れただけでも汚れが付きそうな涅色の壁と床が続いている下水道だった筈の場所は、いつの間にか旅人を集める名所に変貌していたのだ。
一部の関係者に当時の話を聞くと、確認に来た冒険者全員が口をアングリと開け、呆然と立ち尽くしてしまう程、衝撃的な出来事だったそうだ。
「ドブ攫いのせいでこの街の領主に呼び出しを食らったのなんか、生まれて初めての経験だったぞ」
「おぉ、滅多にできない経験ができて良かったな!」
「よくねぇんだよ!?」
何故か感心している残念な少年に、怒りをぶつける眼帯の男。
「まぁ、他にも取り上げたい問題は山ほどあるが、言っても無駄だろうからこれぐらいにしておこう」
「おお、話終わった?」
「帰ろうとすんじゃねぇ!」
ギルドマスターの言葉を聞き、ようやく立ち上がった残念な少年は尻のあたりを払いながら面倒臭そうに言った。
「とにかく、俺が一番言いたいのは、魔物の討伐に関してだ」
「え? 何か問題あった?」
怒りを必死に堪え、若干震えているギルドマスターを見ながら、首を傾げる残念な少年。
「問題しかねぇんだよ! お前、魔物と一緒に人間まで狩ってんじゃねぇよ!?」