残念な少年による間違った仕事術 パート1
「おい。何だよ、この騒ぎは?」
冒険者ギルドの奥の方から、まばゆい光と共にギルドマスターが現れた。その頭から反射している光を、その場にいた人間はまるで後光のように感じたという。
「お! ハゲ、久しぶり!」
「よし、お前。喧嘩なら買ってやる。今すぐ表出ろ‼」
胸倉を掴まれ持ち上げられているにも関わらず、余裕のある態度でギルドマスターに話しかける残念な少年。
明らかに自分の頭を見ながら言った少年の発言に、蟀谷に青筋を浮かべてから返事をするギルドマスター。
「ていうか、どういう状況だよ、これは?」
ゆっくりと受付カウンターに近づくギルドマスターは、周囲に素早く視線をやってから疑問を口にした。
「よくわかんねぇけど、お前もとりあえずその手を下ろせ。そんなの持ちあげてても、お前が疲れるだけだぞ?」
「……チッ!」
ヤクザ風のシスターに話しかけるギルドマスター。彼の言い分を聞き、舌打ちと共に仕方なく手を放すシスター。
その時、持ち上げられていた残念な少年は当然のように落ちて、尻餅をついていた。
「……おい、テメェはさっきから何を蹲って仕事放棄してんだよ、シャーリー!」
「へ?」
受付カウンターを覗き込みながら、蹲っているギルド職員の女性に呼びかけるギルドマスター。
ようやく名前の判明したシャーリーことギルド職員の女性は声に反応して顔を上げた。
「あ、ギルドマスター。お疲れ様です」
「お疲れじゃねぇんだよ! 今すぐシャキッとしろ!」
座り込んだまま吞気に労いの言葉をかけるギルド職員の女性。それに蟀谷をひきつらせながら返事をする眼帯の男。
ギルドマスターの発した大きな声に、慌てて立ち上がるギルド職員の女性。
「お見苦しいところをお見せてしまい、申し訳ありません!」
「あぁ~、別に謝罪はいい。原因は大体わかってるからな」
腰を90度に曲げて頭を下げるという、そのマジメそうな見た目通りの丁寧な謝罪をするギルド職員の女性。
そんな畏まった態度に、片手を振りながらやらなくていいと指示するギルドマスターは、今も床に座り込んで腰のあたりを摩っている残念な少年の方に視線を向ける。
「で? 今度は何をやらかしたんだ?」
「何が?」
その厳つい顔で睨みを利かせながら、残念な少年に話しかける眼帯の男。
「とぼけてんじゃねぇよ! こういったことの原因は大体お前だろうが!」
残念な少年の方を指差して叫ぶギルドマスター。眼帯の男のそんな態度を前にして、なぜかムッとした顔になる残念な少年。
「失敬な! 何でもかんでも俺のせいにするんじゃない!」
「うるせぇ! お前がどんだけ問題起こしてると思ってんだ! 信用できるかボケ!」
「俺がいつ問題を起こした!」
事実、この騒動の原因は彼が発端なのだが、なぜか逆ギレする残念な少年。見ているだけでウザいと感じる残念な少年の態度に、ギルドマスターの蟀谷に青筋が浮かぶ。
「よし、分かった。じゃあ、前にお前が受けた猫探しの依頼を覚えているか?」
口角を歪めるギルドマスターは、残念な少年に尋ねた。
現在、白髪オーガに言われて本格的にギルドの依頼を受けるようになる以前から、残念な少年は空いた時間を見つけると、いつも冒険者ギルドで依頼を熟していた。
この猫探しの依頼というのも、その時に残念な少年の受けた仕事依頼の一つである。
「もちろん覚えてる。あれはなかなか大変な依頼だった」
ギルドマスターの質問に対して、腕組みをして何度も頷きながら答える残念な少年。
「……そうだろうな。なんせ、街中の野良猫どもを取っ捕まえてから、依頼主の婆さんの前に持っていって、間違い探しさせたんだからな!」
当時の状況を思い出したかのように、眼帯の男は叫び出していた。