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子供の意見を汲み取ることは、意外と難しい


「……行方不明?」


古びた教会の一室。頭を抱えているスケルトンを目の前にして、ヤクザ風のシスターは口を開いた。


「……ええ。起きてから、教会にいる筈の子供達の中に二人の姿がみえなくて」

「確か、その姿の見えない二人は冒険者ギルドに通っていた子ですよね?」

「……はい」


不安そうにため息を吐くスケルトンを見て、質問を投げかけるヤクザ風のシスター。


行方不明になっている子供というのは、冒険者ギルドに通っていた冒険者志望の少年ともう一人の幼い少年の事らしい。


「でしたら、牧師が気付かれる前に教会を出て、ギルドの方に向かったのではないでしょうか? 前にもありましたし」

「……ええ、確かにありましたね」


落ち着いた笑みを浮かべて答えるシスター。しかし、納得はいかないのか、テーブルに肘を乗せ、未だに俯いているスケルトン。


「……しかし、あの時は事前に他の子に伝言を残していましたし、その後、私達に心配を掛けないよう直接相談するようにちゃんと言い聞かせました。なのに、今回は子供達に聞いても知らないと言われました。ひょっとすると、あの子達の身に何か……」


血の気が引いて、ただでさえ青白い顔を余計に青く不気味にするスケルトン。今の姿を見たなら、怨霊だのアンデッドなどと言われても仕方ないかもしれない。


「心配し過ぎですよ。ああ見えて、あの子たちもしっかりしていますから」


心配しているスケルトンを優しい言葉で宥めるシスター。ここだけ見ると、残念な少年に掴みかかったり、怒りで銃口を突き付けたりした人と同一人物とは思えない。


「それより、ギルドの依頼でまたしばらく留守にしますけど、大丈夫ですか?」

「……ええ、心配はいりませんよ」


言外に金貸しの一件を臭わせて尋ねるヤクザ風のシスター。彼女は、教会に滞在させてもらっているお礼も兼ねて、ギルドで冒険者として依頼を熟し、その依頼料を教会に寄付しているのだ。


その為、教会を離れる期間が長くなるので、自分のいない間に借金の返済に金貸しが訪れないか気にしているらしい。


最近は治まっているが、いつまた再発するかわからない謎の病を心配しているヤクザ風のシスターに、安心させようと問題ないと答えるスケルトン。


「……もう覚悟は出来ていますからね。後は、この教会をいつ離れるのか話し合うだけですから、問題はないでしょう」

「…………本当に、宜しいんですか?」


苦しそうな笑顔をつくり答えるスケルトンに、俯きながら質問するシスター。


「この場所で孤児院を開くのは、叔父様の夢だったんでしょ? こんなことで手放してしまって本当にいいんですか?」

「…………シスターアンジェ」


絞り出すようにして言葉を紡ぐヤクザ風のシスター。そんなシスターの態度を見て、微笑みを浮かべたスケルトンは、悲しそうにしているシスターにゆっくりと近づいていくと、その肩にそっと手を置いた。


「安心してください。教会の一つや二つ取り壊されたくらいで何も変わりはしません。形あるものは、いずれ壊れてしまうのが自然の摂理です。本当に大事なのは場所そのものではなく、そこに住んでいる人です。貴女や子供達さえ無事でいてくれたら、孤児院などどこででも始められます」

「…………」

「それに、このまま放っておいてもこの教会はいずれ崩壊してしまうでしょうから、いい頃合いかもしれませんしね。今度孤児院を始める時は、もう少しまともな場所にしましょう」

「…………そう、ですね」


優しい微笑みを浮かべて語り掛けるスケルトン。一番つらい筈の人物からの言葉に、泣きそうになりながらも必死で笑顔をつくり返事をするヤクザ風のシスター。


感動的な場面なのだが、配役がスケルトンであるために、いまいち納得のいかない部分がある。


「それでは、仕事に行ってきますね」

「……ええ。行ってらっしゃい」


深呼吸をして気持ちを落ち着かせたシスターは、ドアの近くに立ちスケルトンに仕事に向かう前の挨拶をした。それに微笑みを浮かべて返事をするスケルトン。


ドアノブに手をかけて、シスターがゆっくりとドアを開けると、目の前に幼い少女が立っていた。


「ん?」


首を傾げるヤクザ風のシスターと目が合い、ピクッと少し体を震わせてから背筋を伸ばす幼い少女。


「どうかしたの?」

「…………あの」


優し気な口調で尋ねるシスターに、緊張で体を強張らせながら口ごもる幼い少女。


「……ごめんなさい、お姉ちゃんこれからお仕事があるの。だから、もし何か話たい事があるのなら、仕事から帰ってきた後で話してくれる?」


ドアの前に立ち、視線をさまよわせながらも何も答えない幼い少女に、シスターは困ったような顔をして語りかけた。


「だから、そこを通してくれないかしら?」

「…………うん。ごめんなさい」


俯きがちに渋々ドアの前から離れた幼い少女は、蚊の鳴く様な声でシスターに謝罪した。


仕事に向かおうと少し早歩きになるヤクザ風のシスターは、横を通る時に一瞬見えた、幼い少女の悲しげな表情に後ろ髪をひかれ、たまに振り返りながらも教会の入り口に歩みを進めた。


「……どうかしましたか?」


ドアの横に立ち、取り残されていた幼い少女に、スケルトンは優しく話しかけた。


「骸骨先生―――」

「……ぐっ!」

「っ!」


顔を上げてから、消え入りそうな声で言った幼い少女の言葉に、未だに慣れていない骸骨先生は苦しそうに胸を押さえてしまう。


まさか、純粋な子供に骸骨呼ばわりされて傷ついているなどと想像もしていない幼い少女は、苦しそうに胸を押さえるスケルトンの姿を見て、病気が再発したのかと思い、不安そうに言葉を詰まらせる。


「……急に驚かせてしまい申し訳ありません」

「……ううん、それより大丈夫?」

「……ええ、大丈夫ですよ」


焦る幼い少女を安心させようと落ち着いた調子で語り掛けるスケルトン。


「……それで、何かありましたか?」

「………………ううん、何でもない」


尋ねてくるスケルトンに対して、長い間を開けてから首を振る幼い少女。その後、スケルトンに背を向けて廊下を走り出す幼い少女。


「……急に走ると危ないですよ~」


走る幼い少女の背中を見ながら声をかけるスケルトン。何かを言いたそうにしながら、言い出せずにいる幼い少女の様子を不審に思いながらも、教会での仕事に戻っていった。


この時点で、消息の分からない二人の少年の事はすっかり忘れていた。





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