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時に、子供の純粋な好奇心は奇跡を起こす


「―――ねえ。こんなことしてホントにいいのかな?」


真夜中。誰もが寝静まった教会の前で幼い少年は小さい声で疑問を口にする。


「―――しょうがないだろ。これしか方法がないんだから」


ヒソヒソと周囲に聞こえないようにか細い声で返事をする冒険者志望の少年。


小高い丘の上に建つ教会の横にある、残念な少年の掘った穴の前で子供達は話し合っていた。


「本当に、スケルトンの遺産なんてあるのかな?」


残念な少年の掘ったスケルトンの墓を見つめて、幼い少女は尋ねた。


「わからないけど、もしあるとしたらここしか考えられないだろ?」


ただ一人、スケルトンの墓の中で必死に地面を掘っていた冒険者志望の少年が答えた。


「でも、スケルトンの遺産とか言ってたの、たぶんハルト兄ちゃんだよ?」


スケルトンの墓を覗き込む幼い少年が答えた。どうやら、幼い子供達にも発言を信用されていないらしい残念な少年。


「そうだけど、このまま何もしないと教会が取り壊されちゃうだろ!」

「……うん」


声を潜めながらも叫ぶ冒険者志望の少年。彼の言葉に渋々頷く幼い少年と少女。


実は、この場に三人いる幼い子供達は、食事の後に寝てしまった子供達の中で、金貸しの訪問してきた時の激しいノックの音で起きてしまっていたのだ。


その後、部屋に険しい顔で入っていくスケルトンを見つけ、スケルトンやヤクザ風のシスターが話し合っているのを隣の部屋で盗み聞きをして、自分達のいる教会が取り壊されようとしていることを知ったのである。


「本当かどうかは分からないけど、教会を守るためにはスケルトンの遺産を見つけるしかないんだ」

「うん、そうだよね!」

「他に方法がないもんね!」


幼い子供達は、残念な少年の作ったスケルトンの墓を掘り返し、残念な少年の言っていたスケルトンの遺産を見つけて、借金を返済しようと考えていた。全ては、自分達の家でもある教会を守るために。


冒険者志望の少年は、スケルトンの遺産を求めて、汗だくになりながら穴を掘っていく。それを心配そうに見つめる二人。


「…………クソッ! 何で、何も出ないんだよっ!」


息を切らせた冒険者志望の少年は、額の汗を拭いながら吐き捨てるように言った。


「やっぱり、スケルトンの遺産なんてないんじゃないの?」


不安そうな顔をして幼い少女が言った。その言葉に舌打ちをして、諦めきれないのか、まだ穴を掘ろうとする冒険者志望の少年。


しかし、純粋な子供達には残酷な事実として、スケルトンの遺産などというものは存在しない。なぜなら、骸骨先生はアンデッドでもなければ、死んですらいないのだから……


大人なら当然理解できるそんな当たり前の事実に気付くこともなく、幼い子供達は自称スケルトンの墓を見つめていた。残念な少年の適当な発言を信じて、必死に穴を掘る冒険者志望の少年。


その時、冒険者志望の少年は持っていたスコップの先に確かな手ごたえを感じる。それに気付いた少年はスコップを何度も動かして、それが何なのか確認しようとする。


急に動きが変わった冒険者志望の少年を不審に思い、声をかける幼い少年。


「どうしたの?」

「わからないけど、何か固いものにぶつかった」

「岩じゃないの?」

「……多分、違うと思う。何かもっと固い、金属みたいな感じがする」


返事をしながらも手元でスコップを動かしている冒険者志望の少年。その言葉を聞いて目を丸くする二人。


自身の口から金属という単語を出したことで気付いたのか、口角を上げて急にやる気を出し始める冒険者志望の少年。


「おい! 掘り出すのを手伝ってくれ!」

「わかった!」


冒険者志望の少年の呼びかけに反応して、手元にあったスコップを手に取り、スケルトンの墓の中に入ろうとする幼い少年。


「悪いけど、外で見張っておいてくれ」

「うん、わかった」


誰かに見つからないように見張りをお願いする幼い少年。それを受けた幼い少女が首肯したのを確認すると、幼い少年は穴に垂らしておいたロープを伝って下に降りて行った。


冒険者志望の少年と合流した幼い少年は、視線を合わせてから何かを確認するように頷きあうと、二人で協力して固い手応えのあった場所を掘り返していった。


「……おい、何か出てきたぞ!」


暫くの間、黙々と作業をして汗と泥にまみれた二人は、突如その姿を現した黒い鉄の扉を目の前にして呆然と立ち尽くす。


「……やった……」


ポツリと、穴の外にいた幼い少女が声を出した。それに反応して、ボーっと突っ立っていた二人の少年も動き出す。


「やった! スケルトンの遺産を見つけたぞ!」

「これで、教会は残るんだよね!」

「わーい!」


真夜中であることを忘れて燥ぐ幼い子供達。この時は、自分達がスケルトンやシスターに内緒で行動していることをすっかり忘れていた。


ひとしきり喜んだ後、ようやく冷静になった子供達は、ほぼ同時に人差し指を口の前に出し「シーッ」と静かにするよう相手にジェスチャーで伝えた。


「それより、この扉凄く頑丈そうだけど、僕達で開けられるかな?」

「わからないけど、とりあえず押してみよう」


話し合う二人に少年は、とりあえず押してみようと重そうな鉄の扉に手を置いた。そして、「せーの」という掛け声とともに、足を踏ん張って力一杯押すと、扉は思いのほか簡単に開き、二人の少年は勢いよく扉の向こうに転がっていった。


「だ、大丈夫~!」

「……ああ、大丈夫だ」


穴の外から二人に呼びかける幼い少女。それに扉の奥から返事をする冒険者志望の少年。


「そっか、よかった」

「……なあ、悪いんだけどさ。俺達、このままこの中を探索するから、外の穴を何かで隠した後、俺達が教会に戻るまで、上手く誤魔化しておいてくれないか!」

「えぇっ!?」


二人の無事を知り安堵して幼い少女は、突然してきた冒険者志望の少年の提案に仰天する。


「いやだよ! それに、その扉なんか怖そうだし、骸骨先生やお姉ちゃんに相談しようよ!」

「駄目だ! 骸骨先生は病気だから、あまり無理をさせられないし、姉ちゃんはお金を稼ぐために毎日必死で働いてるから、これ以上迷惑はかけられない!」

「でも……」


必死で拒否をする幼い少女に、スケルトンとシスターに迷惑を掛けたくないと叫ぶ冒険者志望の少年。


子供達は二人を信頼していないわけではない。むしろ、本物の家族のようにとても大切に思っている。しかし、それ以上に、スケルトンとシスターが今、苦しいんでいる事を子供達は何となく理解していた。


身寄りのなかった自分達を引き取り、面倒を見てくれているからこそ、子供達は信頼しているスケルトンとシスターに今は相談してはいけないと感じていた。


「大丈夫だよ! お金になりそうな物を見つけたらすぐ戻ってくるから」

「ん~」


安心させようと扉の奥から声を出す幼い少年。しかし、まだ納得のいかない幼い少女は頬を膨らませて剥れていた。


「わかった。じゃあ、俺達がすぐに帰って来なくて不安になった時は、冒険者ギルドにいる人に相談してくれ。多分、俺達の名前を出したら、すぐに捜索してくれると思う」

「ホント?」

「ああ! だから、それまで待っててくれ」

「…………うん、わかった」


頭をひねった冒険者志望の少年の出した提案に、渋々頷く幼い少女。


納得した幼い少女を扉の隙間から確認した二人の少年は、扉を背にして、真っ直ぐ続いている先の見えない石の道を見つめる。真夜中で光源のない筈の穴の中で、ポツポツと謎の光を放つ石の天井を頼りに、石で出来た壁に片手を添えて二人の少年は歩き始めた。


偶然にみつけた黒い扉の奥に、絶対にあるはずのないスケルトンの遺産を求めて……





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