例え魔物であっても、生きていればそこに歴史がある(アンデッドではありません)
「……ぶっ殺すぞ、テメェ」
教会の一室。スケルトンの説明を聞いたシスターは、残念な少年を睨みながら静かに言った。
「……なあ、この教会には、まともな聖職者はいないのか?」
「…………」
正面に座るヤクザ風のシスターにからまれながら、スケルトンの方に視線を向ける残念な少年。少年の向けてくる疑わしげな目を無視し、明後日の方向を見て無言になるスケルトン。
「……そもそも何でこの教会は借金するほどお金に困ってるんだ?」
ふと疑問に思ったことを口にする残念な少年。
「確かこの国では孤児院とかには援助金が出てるんじゃないの?」
「……よくご存じですね」
残念な少年の質問に対して、疲れた顔をして感心するスケルトン。ペンドラゴン王国では、孤児院などを開くには事前に厳しい審査がある代わりに、それらの養護施設には国から援助金が支払われる決まりになっていた。
「……少し前までは、国からの援助金と月に何度か街で行っているバザーなどで賄っていたのですが、いつからか送られてくる援助金が減額されてしまいまして」
「ふ~ん」
困ったような顔をして笑うスケルトンの言葉に、よそ見をしながら返事をする残念な少年。
「テメェ、マジメに聞け!」
やる気のない残念な少年の態度を見てキレるヤクザ風のシスター。しかし、それを無視する残念な少年。
「だったら、わざわざ借金なんかしないで、国に直接文句を言えばいいんじゃないか?」
「……いやいや、そんな簡単な話ではないのですよ」
キョトンとした顔で尋ねる残念な少年を前に、苦笑いを浮かべるスケルトン。
「……そもそも、国から許可を得ている筈の孤児院を、こんなところで営んでいるのを不思議に思われませんか?」
残念な少年が疑問に思ったであろうことを先回りして質問するスケルトン。その質問に対して頷く残念な少年。
「うん。こんな今にも崩れそうなところに良く住めるなぁってずっと思ってた」
「…………そうですか」
少年の答えに『そこに貴方は秘密基地をつくろうとしてましたよね?』と喉まで出かかった皮肉を何とか堪え、無難な返事をするスケルトン。
「……私は元々この国で育ったわけではないよそ者でしてね。援助を受けているのはこの国からではなく、遠くにある私の住んでいた国からもらっていたのです」
「へぇ~。放浪癖のあるアンデッドとは珍しいな」
「……くっ!」
話の腰を折り、またもアンデッド扱いしてくる残念な少年を前にして、苦しそうに胸元を押さえるスケルトン。
「おい、テメェいい加減にしろよ?」
額に青筋を浮かべるヤクザ風のシスターは鋭い眼光で残念な少年を睨む。しかし、それを全く気にしていない残念な少年。
「……ゴホン。とにかく、送られてくる援助金が下がったからと言って、距離の問題がある為にそう簡単には連絡をとれないのですよ」
「そうなのか」
何とか気持ちが持ち直したスケルトンは説明を続けた。しかし、スケルトンの説明を最後まで聞いてもいまいち納得のいっていない残念な少年は頭を掻く。
「でも、そんな遠くから援助が出来るぐらいなんだから、手紙みたいに連絡する手段があるんじゃないのか?」
疑問の思ったことをそのまま口にする残念な少年。それを聞いて渋い顔をするスケルトン。
「……ええ、仰る通りです。正直に言えば、ここで孤児院を開いているのは私個人の我が儘でして、あまり強く言い出すことが出来ないのですよ」
「そもそも他国で暮らしてるアンデッドをわざわざ援助するとか、ちょっと可笑しくないか? スケルトンってその住んでた国で不死の王でもしてたのか?」
「……私はアンデッドでもなければ、ノーライフキングでもありません!?」
他国に住んでいながら援助してくるという不可解な話に、スケルトンが貴族の様な偉い立場にいるのではないかと予想して質問する残念な少年。
しかし、額を押さえて声を上げているスケルトンの姿をみるに、言い方が悪すぎた為に全く伝わっていないようだ。
「こいつの言い分は無視するとして。これからどうされますか?」
「……そうですね」
残念な少年を一瞥した後、スケルトンの方を向いて、追い返してしまった金貸しの一件について質問を投げかけるシスター。ヤクザ風のシスターは、これまでのやり取りを通じて、残念な少年に関わっても意味がない事をようやく理解したらしい。
シスターの質問を受けて、考えを巡らせようと両手を組んで思案し始めるスケルトン。この時、スケルトンの周囲に普通の感性を持った人間がいたなら、若干漏れる声が亡霊の呻き声のように聞こえ、顔をしかめていただろう。
唸りながら頭を悩ませている二人を暫くの間眺めていた残念な少年は、またも空気の読めない発言をした。
「なあ。スケルトンの遺産とかこのあたりに埋まってないの?」