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アンデッドが人肉を主食にしているなど常識である


古ぼけた教会。幽霊でも出てきそうな雰囲気のある廊下で、足音を立てないよう静かに歩く残念な少年は、とある部屋のドアの前に立ち、足を止める。


「…………」


唾を飲み込み、はやる気持ちを落ち着かせようと深呼吸をする残念な少年。ドアノブにゆっくりと手をかけ、部屋の中の気配に神経を集中させた少年は、バッと勢いよくドアを開けた。


そこは、大量の物が乱雑に置かれた薄暗い部屋。入ってすぐ目に付くところにも小さなガラクタの山が出来ている。周囲に素早く視線をやってから中に入る残念な少年。後ろ手にドアを閉め、ある一点を目指して歩みを進める。


「いるのは分かっている。 隠れてないで出てこい」


とあるガラクタの山の前に立ち、諭すように語り掛ける残念な少年。すると、小さいガラクタの山が崩れ、中から幼い少女が顔を出してきた。


「どうしてわかったの?」

「フッ、この俺から逃げおおせると思う方が大きな間違いなのだ」

「……う゛ぅ~」


目に涙を溜める幼い少女。その腕を取って歩き出す残念な少年。違和感のない自然過ぎるその所作は、まるで熟練の誘拐犯や人攫いのようであった。


残念な少年が幼い少女を連れて薄暗い部屋を出てからしばらくすると、物陰から幼い少年達が出てくる。


「……行ったかな?」

「……たぶん」


部屋の真ん中で集まり話し合いを始める幼い少年達。閉められたドアを見つめて、残念な少年はもう行ったのか確認し合う。


その時、バンッという大きい音と共にドアが開かれる。ビクッと硬直してしまう幼い少年達。トクトクと波打つ心臓を落ち着かせようと胸に手を当てる幼い少年達は、恐る恐る視線をドアの方に向ける。


そこには、いやらしい笑みを浮かべる残念な少年の姿があった。


「大人しく投降するんだな」

「……くそぅ!」


ニヤニヤと笑う残念な少年を前にして、四つん這いになっている一人の幼い少年は悔しそうに地面を叩いた。


彼らは、古ぼけた教会でかくれんぼをしていた。











「兄ちゃんかくれんぼ強すぎだろっ!?」


古ぼけた教会にある中庭。見つかってしまった子供達の集められた場所で、冒険者志望の少年は叫んだ。


「ハッハッハッ。だから言ってるだろ、俺はこの道のプロだって」

「だから、ハルト兄ちゃんが本気で兵士役をしたらすぐ終わっちゃうだろ! 少しは手加減してよ!」

「バカめ! 俺はお子ちゃま相手でも手は抜かないのだ!」

「ほぼハルト兄ちゃん一人でみつけちゃうから、同じ兵士役なのに、僕達の出番なかったもんね」


大人げない事を平気で口にする残念な少年。胸を張る残念な少年を前にして、頭を抱えてしまう冒険者志望の少年。そんな二人を交互に見てヒソヒソと話し合う子供達。


兵士役とは、この世界でかくれんぼの鬼を担当する人の事で、隠れる側は義賊役と呼ばれていた。


「しょうがないな。じゃあ、今度は義賊役をやれば問題ないだろ?」

「それはダメ」


肩をすくめていう残念な少年の提案を、すぐさま否定する冒険者志望の少年。


「何でだよ?」

「この前義賊役をした時、隠れるフリをしてそのまま帰ったじゃないか!?」


首を傾げる残念な少年に対して、声を荒げる冒険者志望の少年。


「みつけられなかったことを棚に上げて文句を言うとは、ホントに我儘だなぁ~」

「むぅ~!」


ヤレヤレと馬鹿にした態度で首を振る残念な少年。それを見て、リスの様に頬を膨らませて怒る冒険者志望の少年。子供相手に何とも大人げない態度である。


その時、ぐぅ~というお腹のなる音が子供達の方からした。


「……お腹空いたぁ~」

「仕方ない、かくれんぼはやめて、そろそろお昼にするか」


一人の幼い少年が声を上げる。それに反応して、遊びをやめて食事をしようと提案する残念な少年。


「……お~い……」


すると、どこからともなく怨霊の声が聞こえてくる。声のする方に視線を向けると、割烹着を着たスケルトンが歩いていた。


「……みなさん、ご飯が出来ましたよ―――」

「くらえ、悪霊!」

「ぎゃああああ! 目がぁあああああっ!」


すぐさまスケルトンの顔面に向かって、懐から取り出したお清めの塩を素早く投げつける残念な少年。塩が目に入ったのか、叫び声をあげるスケルトン。


蹲りながら目元をこすっているスケルトンを見ながら、周囲に聞こえるくらいはっきりと舌打ちする残念な少年。


「チッ! これでもまだ成仏しないのか!」

「うぅ~。……だから、何度も言っているように私は―――わっぷ!」


スケルトンが否定の言葉を言い切る前に、彼の顔面に向かって瓶に入った聖水を勢いよくかける残念な少年。本当に容赦がない。


結果的に水を掛けられたことで、目に入った塩が取れたのか、落ち着いたように安堵の息をつくスケルトン。叫び声をあげたスケルトンを心配して、彼の周りに子供達が集まってくる。


「まさか聖水もお清めの塩も効かないとは、教会に住み着いてるだけあって、なかなか強力なアンデッドだな」

「……だから、私はアンデッドではないと言っているのに、いつになったら信じてくれるのですか!?」


驚愕して後ずさる残念な少年に向かって、自分は悪霊じゃないと叫ぶスケルトン。残念な少年が初めて教会を訪れた日から月日は経ち、何度も訪れたことで幼い子供達とは一緒にかくれんぼをする程にすごく仲良くなっていたのだが、スケルトンに対する扱いは全く変わっていなかった。


むしろ、会うたびにお清めの塩か聖水を掛けられるので、最初の頃より悪化しているともいえる。


「お兄ちゃん、骸骨先生をイジメたらダメでしょ!」


一人の幼い少女がムッとした顔で残念な少年を注意する。面と向かって怒られているにも関わらず平気な顔をしている残念な少年とは違い、いまだに慣れていないのか、自分を骸骨呼ばわりする幼い少女の存在に傷つき胸元を両手で押さえるスケルトン。幼い少女の発言は、予定と違う人にダメージを与えていた。


「はぁ~、やれやれ。これだからお子ちゃまは」


肩をすくめながら、両の手を開き誰が見てもウザいと思う態度で首を左右に振る残念な少年。


「これはイジメじゃない。現世に縛られた怨霊を成仏させようという高尚な行為であり、寧ろ感謝されるような行いをしてるんだぞ!」

「そうなの?」

「騙されないでください! そもそも私は死んでなどいません!」


メチャクチャな言い分を吐きながら胸を張る残念な少年を見て、信じそうになる幼い少女。それを慌てて否定するスケルトン。


「ねぇ~、そんなことよりご飯まだ~?」


おそらく、先程お腹を鳴らしていたであろう幼い少年が声を上げる。慌てて立ち上がり、軽く足元を手で払って土や砂を落とすスケルトン。


「……そうでしたね。食堂に用意してあるのでみんなで食べましょう」

「「「「「は~い!」」」」」


スケルトンの言葉に元気よく返事をする子供達。スケルトンを中心にして、普通の悪霊なら逃げ出すような覇気を纏っている。


「……よろしければ、ハルト君もご一緒にいかがですか?」

「……せっかくだけど俺、カニバリズムとかちょっと理解できないから―――」

「誰が人間を食べると言いましたか! 無垢な子供達にそんなものを食べさせるわけがないでしょうが!?」


スケルトンの誘いに対して、視線を明後日の方向に向けながら後ずさる残念な少年。少年の物言いに、声を荒げるスケルトン。


「ふぅ~、それは良かった。流石に、教会に住み着くだけあって良心は持ち合わせていたようだな」

「……だから、私はアンデッドではありませんっ!!!?」


声を張り上げたスケルトンに、最後まで疑いの眼差しを向ける残念な少年。結局、食堂に向かうまでの間、スケルトンはずっと幼い子供達に慰められていた。『骸骨先生』と呼ばれ、余計に心の傷を深くしながら。




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