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バック・トゥ・ザ・ゴブリン パート4


「おい! 何で白髪オーガの姿は今と変わらずに写ってるんだよ! やっぱりこのアルバムに写っているイケメンは偽物なんじゃないのか!」

「だから、違うと言うとるじゃろうが! 写真の剣鬼をよう見てみい、髪の色とか、顔のしわだとか、今と所々違うじゃろ?」

「……言われてみれば、今より若々しい気がする」


声を荒げる残念な少年に対して、写真を良く見るように諭すゴブリン爺ちゃん。注意してみると、写真の白髪オーガは髪も白くなく、今よりも若く見える。


「しかし、信じられん。隣にゴブリン爺ちゃんの居るせいかもしれないが、ここまで時の経過を感じないとは。流石は白髪の化物だ……」


写真を眺めながら戦慄する残念な少年。その横で苦笑いを浮かべているゴブリン爺ちゃん。


なかなかに衝撃的だったページをめくり、アルバムの写真を見ていく老人と少年。すると、ある写真を見つけて、ページをめくる残念な少年の手が止まる。


「おい、嘘だろ、こんなことはあり得ない……」


絶句する残念な少年。そこには、全く同じ顔と姿をした二人の見目麗しい魔女が写っていた。


「……まさか、婆ちゃんは妖怪だったのか!」

「なわけあるか!?」


驚いている残念な少年の頭をはたいて素早いツッコミを入れるゴブリン爺ちゃん。二人の掛け合いは、ある意味で、既に名人芸といえる。


「でも、どう見てもこれ二人共まったく同じ顔じゃん! 妖怪か突然変異のモンスターとしか思えないだろ!」

「お主の中には双子と言う選択肢はないのか!?」

「双子?」


突飛な発想を展開する残念な少年に対して、双子だと告げるゴブリン爺ちゃん。


「え? 婆ちゃんって双子の姉妹がいたの?」

「うむ。写真に写っている通り、全く同じ顔をした美人の姉がおったのじゃ」


首を傾げる残念な少年に、魔女には双子の姉がいたという事実を口にするゴブリン爺ちゃん。老人に諭されて、写真を注視する残念な少年。


「最初に見た時は全く同じ容姿かと思ったけど、よく見ると、この二人も微妙に違う気がするな」

「……ほう。気が付いたか」


写真を見つめながら考えこむように顎に手をやる残念な少年。それを、何故か両手を組んで重苦しい雰囲気を出しながら眺めているゴブリン爺ちゃん。


「儂らから見て右側におるのが妹で、左におるのが姉の方じゃ」

「そうなの? 服装からして、見た目まったく同じなのに、よく違いが分かるな」

「フッ、当然じゃ」


軽い称賛を口にする残念な少年に、得意げに鼻を鳴らすゴブリン爺ちゃん。


「特徴としては、まず、姉の方が妹より胸のサイズが一回り大きい。腰回りのボリュームもあり妹よりも肉感的な身体つきをしておる。一見、姉の方が女性らしい体をしておるともいえる。しかし、ウエストは妹の方が細く、全体のバランスも良く、豊かな胸と尻からくるメリハリのあるくびれも出来ておることは姉との明確な違いじゃ。芸術的な美しさで言えば妹の方に軍配が上がるじゃろうな」

「……へぇ~」


姉妹の特徴の違いについて熱く語り出したゴブリン爺ちゃん。それを、冷めた目で見る残念な少年。


「爺ちゃん。よく婆ちゃんと結婚できたな」

「どういう意味じゃ! 言っておくが相思相愛だったのじゃぞ!」


反論するゴブリン爺ちゃんを見つめながら、ため息を溢す残念な少年。


「ところで、この婆ちゃんのお姉さんはどうしてるんだ? 連絡とか取ってるの?」

「…………」


自然とわいてきた疑問を老人に投げかける残念な少年。口を噤むゴブリン爺ちゃんは渋々答えた。


「わからん。婆さんがこの国に亡命してから、実家とは一切連絡をとっとらんし、家の情報もまったく入ってきておらん」

「気になったりしないの?」

「気にならんと言ったら嘘になるな」


一瞬だけ少年の方を見た老人は、肩を落として語り始める。


「婆さんの実家は魔術大国でもかなり歴史のある家で、厳しいなどという言葉では言い表せんような異常な仕来りで家族を縛っておってな。他国の生まれであった儂の目から見ても婆さんのようなまともな人間のいることを不思議に思うような家じゃった」

「……まとも?」


淡々と語るゴブリン爺ちゃんの横で、普段からふとしたきっかけで人に向かって魔術で雷を落とす人間をまともと表現していいのかポツリと疑問を吐く残念な少年。


「昔からとても仲の良い姉妹だったらしいからのぅ。実家そのものに関して未練はないと婆さんは言うとったが、結果的に一人だけ残していく姉のことはずっと気にしとった」

「だったら、そのお姉さんも一緒に連れて行けばよかったんじゃないの?」

「そう簡単な話ではないんじゃ」


残念な少年の疑問に、首を左右に振って答えるゴブリン爺ちゃん。


「婆さんの実家は国と密接なつながりを持っていて、儂みたいな他国の人間が不敬を働けばその時点で国同士の戦争になりかねんような権力を有しておった。そんな家の二人しかいなかった娘を連れ帰ろうというんじゃ、常識で考えて、ただではすまんじゃろう」

「…………」

「今、こうして、婆さん一人をこの国に連れてこられたこと自体、成功したのは魔術師団長という儂の経歴も含めた偶然ともいえる奇跡に近い出来事が何度も起きた結果でしかない」


どこか暗い影を落として淡々と語る老人を前にして、沈黙する残念な少年。


「姉の近況については儂も知りたいが、結果的に魔術大国とは事を構えてしもうたからのぅ。あの国で犯罪者として指名手配されているであろう儂が出向いて調べるのはまず不可能じゃし。この国自体に迷惑をかけてしもうたから、昔のコネを使って頼むというのもちょいと難しいんじゃ」

「……爺ちゃんたちにも色々あったんだな」


自嘲気味に笑うゴブリン爺ちゃんを見ながら、普段からは想像もできない様な真面目な顔で声を出す残念な少年。


「……エロ本大好きなだけのスケベ爺じゃなかったんだな」

「きさま、最後に余計なことを言うでない!」


元気よく残念な少年の頭をはたいてツッコミを入れるゴブリン爺ちゃん。先程まで醸し出していた重苦しい雰囲気が無くなっている


「そういえば、この写真に写ってる二人って、何というかミネルヴァさんと纏っている雰囲気が似てるな」


写真に目を向けて、魔女の美人姉妹の姿と、現在の魔術師団長の姿を重ねてみる残念な少年。


「あたりまえじゃろ。何せ実の娘なんじゃからな」

「なるほどな。今になってようやく、婆ちゃんの娘だという実感が持てたわ」

「……まだ、疑っとったのか」


残念な少年の言葉に、呆れるゴブリン爺ちゃん。皺くちゃの魔女とナイスバディのお姉さんに繋がりを持てなかった残念な少年は、今になってようやく、血のつながった家族なのだと心の中で納得したらしい。



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