バック・トゥ・ザ・ゴブリン パート2
「それで、そのアルバムにはどんなことが書いてあるの?」
「そう慌てる出ない、久しぶりの休日なんじゃからゆっくり読もう」
この日は、用事のあった魔女の為に魔道具店は休みにしていたのだ。それに合わせるように、休みなくずっと鍛錬を続けていた少年にもゴブリン爺ちゃん達の教えている魔術に関してだけ休日にしていた。
なぜ残念な少年は休日なのに外に出ていないかというと、前回、森で迷子になったせいで丸一日行方を晦ましてしまった事が影響しており、冒険者としての仕事以外で外に出ているのを白髪オーガに見つかると、メチャクチャ怒られた後に死ぬほど扱かれてしまうため仕方なく魔道具店の中にいたのである。
「誰だ、この長身のイケメンは?」
「儂じゃ」
アルバムを開くと真っ先に目に入った高身長のイケメンの写真を見つけて指差す残念な少年。そこには、見覚えのあるローブを身にまとい、爽やかな笑みを浮かべる美男子の姿が写っていた。少年の質問に対して、短い言葉で返事をするゴブリン爺ちゃん。
思わず写真の人物と隣に座っている小柄な老人を見比べた後、聞き間違いと考えた残念な少年は老人に聞き返す。
「……誰だって?」
「じゃから、若い頃の儂」
「………………嘘だ!?」
自分を指差して答えるゴブリン爺ちゃんを見ながら、たっぷりと間を開けた後に叫びだす残念な少年。
「この爽やかイケメンがゴブリン爺ちゃんの昔の姿とか、時を経て進化するどころか退化してんじゃねぇか!」
「大きなお世話じゃ! 儂の人生にケチをつける出ない!」
「こんなの魔術で姿変えてたとしか思えねぇよ。もしくは偽物に決まってる!」
「アホか! 他人に見せるならともかく、自分のアルバムに偽物を出す馬鹿がいるものか!?」
残念な少年の物言いに、声を荒げるゴブリン爺ちゃん。
「……この爽やかイケメンが将来ゴブリンにメタモルフォーゼするとは、老いってこんなにも恐ろしいものなんだな。……時の流れの怖さってやつを今更実感した」
「人の顔を見てしみじみ黄昏るでないわ! 後、儂はゴブリンではない!」
物思いに耽る残念な少年に対して、抗議するゴブリン爺ちゃん。
「ところで、この自称ゴブリン爺ちゃんの過去の姿と一緒に写ってるボンキュッボンの美魔女は誰?」
写真を見ていてふと気になったことを口にする残念な少年。写真の中で爽やかな笑みを湛えている青年の隣には、頭に尖がり帽子をかぶり、ゆとりのあるローブを纏いながらも女性らしいふくよかな起伏を浮かび上がらせる美しい肢体を持ち、どこか気品を感じる立ち姿でこちらに微笑みを向けている見目麗しい魔女の姿が写っていた。
「自称ではない、歴とした事実じゃ!」
「いや、そういうのいいから、この超絶美人は誰?」
「この餓鬼、言わせておけば……。ゴホン、それは昔の婆さんじゃ」
憤慨するゴブリン爺ちゃんに対して、煽るような態度を平然ととる残念な少年。再熱しそうになる怒りを何とか押し止めてから返事をするゴブリン爺ちゃん。老人の発した衝撃的な発言に硬直する残念な少年。
「……は?」
「まぁ、信じられんかもしれん。じゃが、残念なことに、ここに写っとるのは昔の婆さんじゃ」
「………………嘘だぁあああああああああああぁああああああああ!!!!!!!!!!」
ゴブリン爺ちゃんの発言が信じられず、老人の方を見ながら固まってしまう残念な少年。追い打ちをかけるようにゴブリン爺ちゃんから告げられた言葉で、写真の人物を穴が開くほど見つめた残念な少年は、一瞬の間をおいて泣き叫んだ。
その声には、先程、爽やかなイケメンを昔のゴブリン爺ちゃんと聞いた時に上げた声以上に明らかな悲しみを帯びていた。
「あんなナイスバディのお姉さんが皺くちゃのババアに転生してしまうなんて、こんな不幸なことがこの世にあっていいわけがない。もうこの世界はおしまいだ」
「……その言葉、絶対に婆さんの前で言ってはならんぞ」
今も泣きじゃくる残念な少年に、若干引き気味に注意を促すゴブリン爺ちゃん。
その後、しばらくの間泣き崩れていた残念な少年は、目の端に涙を溜めながらアルバムのページをめくっていた。