その男、5歳児よりも幼稚‼
「……あぁーっ! 冒険者ギルドにいた兄ちゃん!」
すると、子供達の一人が残念な少年を指差して叫んだ。
「……おぉ、冒険者試験の時に訓練場にいたお子ちゃまか!」
青葉春人が冒険者になる為の試験を受けた時、訓練場で木の棒を貸してくれた幼い少年の一人だと気付き、驚きの声を上げる。
「子供扱いすんじゃねぇ!」
「はっ! お子ちゃまにお子ちゃまと言って何が悪い!」
残念な少年の言い方が気に入らなかったのか、抗議しながら剥れる冒険者志望の少年。それを何故か胸を張って悪びれもせず言い返す残念な少年。見た目5歳くらいの少年と張り合っている。
「……こら、ダメですよ。お客さんに対してそんなことを言っては」
スケルトンが、ムッとした顔の冒険者志望の少年を宥め始める。
「でも、先生……」
未だ納得が出来ないのか、スケルトンの方に懇願する目を向ける冒険者志望の少年。幼い少年の目を見つめながら優しく頭に手を置くスケルトン。そんな様子を見ながらため息を溢す残念な少年。
「せっかくいい隠れ家が見つかったと思ったのに、残念だ」
「隠れ家?」
ポツリと零した残念な少年の独り言に、近くにいた子供が反応する。
「ああ。ここに誰も住んでなかったら俺の秘密基地を作ろうと思ってたんだ」
「秘密基地!」
見た所3歳くらいの少年が楽しそうな声を上げる。それを聞いて他の子供達が集まってくる。
「秘密基地ってなぁに?」
「たしか、他人に知られないように作った隠れ家の事だよ」
「……もしかして、お兄ちゃんもお家ないの?」
子供達の間で話し合いが起こり、なぜか悲しそうな目で見つめられる残念な少年。帰る家のない可哀想な子と思われたらしい。
「失礼な、帰る家ぐらいあるっ!」
「どこに?」
「ものすご~く遠いところだ」
体全体を使って右手を左上の方向に伸ばすことで、子供達に対して、遠くにあることを表現しようとしている残念な少年。
「あはは! 変なの!」
子供達に笑われている。どうやらジェスチャーは伝わらなかったらしい。少しムッとする残念な少年。
「いいか、こう見えても俺は豪邸に住んでたんだからな!」
「えぇ~、嘘だ~」
「嘘ではない」
少年の発言を嘘だと言い、信じようとしない子供達。まぁ、今もみすぼらしい格好を続けている残念な少年の言葉では信じられないのも無理はない。
「お兄ちゃんはお金持ちなの?」
「いや。金持ちではない」
「じゃあ何で豪邸に住んでたの?」
当然の疑問を口にして首を傾げる幼い少女。少女の質問に対して、残念な少年な腕を組んで少し考え込む。
「昔、誰も住みたがらない幽霊屋敷があってな、持ち主がいなくて放置されてたから俺が勝手に住み着いてた」
「僕それ知ってる。確か不法侵入っていうんでしょ!」
残念な少年があっけらかんとした態度で言った言葉に、それは犯罪だと的確に指摘する幼い少年。それを見て残念な少年はため息をつきながら「やれやれ」とでも言いたそうな態度で両の手を左右に開き、ゆっくりと頭を振る。見ているだけで腹が立ってくるウザさだ。
「はぁ。これだからお子ちゃまは困る。空き家っていうのはな、長い間住み着いて『この家は俺のだ!』って言い続けたらその人の物になるんだぞ」
「……お兄ちゃん。それ犯罪っていうんだよ?」
「フハハ、馬鹿め! 国の法律でちゃんと認められていたのだ!」
幼さに反して理知的な正論を並べる子供達に対して、高笑いを上げながら否定する残念な少年。
「……あの、お話し中にすみません」
「うおぉ!」
突然、子供達の間から割り込むようにして現れた怨霊に驚く残念な少年。
「まだ成仏していなかったか、悪霊め!」
「だから、違うって言っているでしょー!?」
後退り、怨霊のような男との距離をとる残念な少年。少年の言葉に叫ぶように反論した後、今にも泣きだしそうに両手で顔を覆い蹲ってしまうスケルトン。
すると、先程までスケルトンに宥められていた、ギルドで木の棒を貸してくれた冒険者志望の少年が残念な少年の服の裾を引っ張る。それに気付いた残念な少年はそちらに顔を向ける。
「兄ちゃん。その人は魔物じゃないよ」
「………………マジで?」
衝撃を受けたかのように固まってしまう残念な少年。
「どう見てもスケルトンだろ!」
「見た目は怖いけど、この教会で僕たちの面倒を見てくれてる良い先生だよ」
「まさか、ホントに牧師なの?」
「うん」
泣いているのか今も蹲っているスケルトンを指差す残念な少年の質問に、首肯して答える冒険者志望の少年。衝撃の事実である。
「……まぁ、世の中にはゴブリンに似た爺や、人間のフリをした白髪のオーガが存在するぐらいだからな。スケルトンに似た人間がいても不思議はないか」
白髪オーガも一応人間なのだが、若干失礼な理屈をつけて納得する残念な少年。その間に、子供達に説得されて元気を取り戻すスケルトンに似た男。
「そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私はこの教会の牧師で『スケルト』と申します」
「ほら、やっぱり『スケルトン』じゃねぇか!」
「だから、違うって言っているでしょぉおおおおーーーー!?」
指をさして叫ぶ残念な少年。それを泣きながら古い教会中に響く大声で否定するスケルトンの姿は、子供達の目から見ても怨霊の様に見えたらしい。