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どうしてもホラーの似合わないキャラというのは存在する


「うぉおおおおおおお!?」

「わぁあああああああ!?」


慌てて後退りしながら驚きの声を上げる両者。何故か怨霊まで驚いている。急に後退りしたせいで怨霊が長椅子にぶつかり尻餅をつく。


「ビックリした。まさか本当に出るとは……」

「……いったた」


腰のあたりを摩りながら痛がっている怨霊に、不思議なものを見るような視線を向ける残念な少年。


「幽霊のくせに痛がるとか珍しいな」

「……いや、私は幽霊ではありませんよ?」


思わず口をついて出た少年の疑問に、起き上がった怨霊のような男がその見た目に相応しい不気味な声で反論する。


「え、違うの、じゃあ何?」

「……面と向かって何と言われると返答に困るのですが、一応種族は人間ですね」

「なるほど。人間を自称するアンデッドか」

「……だから、違いますよ」


話が前に進まないことに苦笑いを浮かべてしまう怨霊のような男。アンデッドとは、死んだ生き物の体に別の意識が宿り、人を襲うようになった魔物の一種である。


「嘘を吐くな! 俺の目を騙せると思うなよ。白骨死体の分際で、人間に化けるならもう少しうまく化けろ!」

「誰が白骨死体ですか!?」


残念な少年の物言いに思わず声を荒げてしまう怨霊のような男。少年が信じないのも無理はない。怨霊のような男の容姿は、身に纏った黒い法衣の袖口から覗く木の枝のように痩せ細った手に、厚みのない肉の皮をそのまま張り付けたような面長の顔。頭髪のない頭に病的なまでに青白い肌。誰がどう見ても骸骨、ゲームに出てくるスケルトンにしか見えない。


「ゴホッ、ゴホッ!」


急に大声を出した所為か苦しそうにせき込むスケルトン。


「……おい、大丈夫か?」

「ゴホッ。……ええ、少し体調が悪いだけですのでご心配なく」

「お迎えが来たんじゃないか? お清めの塩か聖水買って来てやるから素直に成仏したらどうだ?」

「……ですから、私はアンデッドではありませんよ」


話の全く通じない少年を前に乾いた笑いをしてしまう怨霊のような男。結果的に、異様に怖い見た目と合わさりより不気味になっている。


「……それより、この教会に何か御用でしょうか?」

「ん? 教会?」


気を取り直すように本来聞こうとしていた質問を少年に投げかけるスケルトン。


「ここって無人の廃墟じゃないの?」

「……まぁ、確かに見た目は廃墟ですね。ですが、一応この国に許可をもらっている教会なのですよ」

「モンスターが住み着いてるのに?」

「……ですから、私はアンデッドではありません。この教会に住む牧師です」


十字架の付いた首飾りを少年に見えるように少し持ち上げて自身の役職を言うスケルトン。


「嘘だ!」

「……何でそんなに頑ななのですか。正真正銘の牧師ですよ」

「そんな生気のまったくない幽霊みたい感じで、牧師なんかになれるわけがない!」

「……泣きますよ? いい加減にしないと私ホント泣きますよ」


頑なに信じようとしない残念な少年を前にして、ショックを受けた様に項垂れるスケルトン。本人は否定しているが、ドンヨリとした雰囲気を纏い、ますます怨霊のようになっている。


すると、どこからか聞こえてくるドアをノックする音で礼拝堂の中は静まり返る。ドアの方に視線を向ける残念な少年とスケルトンに反応するようにドアは軋み始めた。


「先生、大丈夫?」


ドアの隙間から少しだけ顔を覗かせた幼い少年がスケルトンに向かって怯えながら声をかける。


「……ええ、ご心配には及びませんよ」


幼い少年を安心させるように笑みを浮かべて答えるスケルトン。正直、普通の感性を持った子供なら泣き叫びそうになる程に笑顔も怖い。


「ホント? よかったぁ~」

「だから言っただろ? 先生がコソ泥なんかにやられるわけないって」

「言ってないだろ、そんなこと」


スケルトンの言葉に安心したのか、胸を撫でおろす幼い少年の後ろから騒がしい子供達の声が聞こえてくる。


「ちょっと押さないでよ!」

「しょうがないだろ、俺も後ろから押されてるんだから!」

「ちょっと待って、わわわわ―――」


ピシっと言う不吉な音がしたかと思うと、木製のドアはけたたましい音と共に壊れた。破壊されたドアと共に倒れ込むようにして礼拝堂になだれ込んでくる幼い子供達。


「だ、大丈夫ですかっ!?」


慌てて子供達に駆け寄るスケルトン。ケガをした子はいないか確認しながら、同時に泣き出してしまった子を宥めている。恐ろしく手際が良い。


「何だ、このチビっこ共は?」


突然現れた大勢の子供達に目を丸くする残念な少年。


「驚かせてしまったようで申し訳ありません。この子たちはこの教会で面倒をみている子供でね。色々な理由で身寄りのない子供達を、私が引き取って育てているのですよ」


べそをかく子供の頭を撫でながらスケルトンは、顔を少年の方に向けて子供達の事を説明する。


「いや、正直あなたの顔の方が怖かったから別に驚きはしてないけど。この子たちってどこかから誘拐して来たとかじゃないの?」

「なんで私がそんなことをするのですか!」

「そりゃ、食べるため?」

「だから私はアンデッドではありません!?」


どこまでも自分をアンデッドだと言い張る残念な少年に、声を荒げてしまうスケルトン。宥めている子供よりも先に、先生の方が今にも泣きだしそうになっていた。



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