表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/172

合コンでは最初の印象が意外と大事

「改めて、まずは自己紹介から始めようか」


城の一室。謁見の間を後にし、自分達が置かれている現在の状況と今後の方針について詳しい説明を王様の家臣から聞き終えると、明日から始まる鍛錬に備え、歓迎の気持ちも込められた豪勢な食事をすることになった。


通された部屋は、テーブルや椅子などの家具の一つ一つから洗練された匠の技を感じ、纏まりのある部屋全体から高潔な雰囲気を感じる、一般庶民には息苦しい広々とした空間だった。


現在、異世界に召喚された五人だけが部屋に集められる中、テーブルの上に並べられた豪華な料理を前に、金髪の少年が舵を取る。


「まずは僕から始めさせてもらいます。僕の名前は東正義。泉国高校の一年生です。現状についていけてない所もありますが、同じ境遇にある仲間同士、この五人で力を合わせて乗り切りたいと思っています」


二枚目だけが許される爽やかな笑顔を浮かべ、東正義は理路整然と自己紹介を終えた。


「あの。ひょっとして東君って、雑誌とかに載った事ない?」


栗色の髪の少女は、今も怯えているのか、小さく手を上げて尋ねた。


「うん。一応、中学の時から読者モデルをしていて、何度か雑誌に載った事があるよ」


金色の髪を掻き揚げ、はにかむ少年の姿は、高潔な広間の空気とも合わさり、思わず見惚れてしまう程、絵になっていた。


「……ちっ」

「え、なんで舌打ち!」


腹の立つような二枚目で、歯の浮くような言葉を並べる東正義に、少年は心の中に堪る不平不満を表すように舌打ちする。


「知るか。それより、次いくぞ」

「えぇ~」


納得のいかない金髪リア充を無視し、自己紹介を続ける。


「西場拳翔。泉国高校の一年だ」

「…………え。それだけ?」


短い自己紹介にツッコミを入れる軽薄な少年。


「へいへ~い。そんな怖い顔しないで、もっと何か情報プリーズ」

「……」


変な煽りを始める馬鹿で軽薄な少年に、他の四人は眉を顰める。


「一応、中学の時からボクシング部に入っていた」


重い口を開いた西場拳翔の言葉に、栗色の髪の少女が反応する。


「もしかして、大会三連覇の期待の新人」

「……あぁ。たぶん」


緊張している少女の疑問に、西場拳翔は気怠げに答えた。


「なにそれ?」

「名前は知らなかったけど。確か、中学のボクシングの大会で三年連続優勝した天才が、今年うちの高校に入学したって聞いた気がする。多分その事じゃないかな」


首を傾げる目つきの鋭い少女に、無難な解説をする金髪リア充。


「通りで良いパンチしてると思ったぜ」


いまだに疼く腹を押さえて、少年は言った。


「川の向こうで手を振るお婆ちゃんの幻覚をみたからな」

「……渡ればよかったのに」


少年の冗談に、辛辣な言葉を浴びせる、目つきの鋭い少女。


「顔もガタイも良い、スポーツマンタイプのイケメン。女子がほっとかないだろ」

「別に」


少女の言葉を気にせず、少年は話を続ける。


「謙遜しなさんな。どうせ、練習の時とか女の子にキャーキャー言われてんだろ。年上のお姉さんに、寡黙で凛々しい所が素敵、とか言われてんだろ。……羨ましい‼」

「いや、俺、彼女いるし」


少年の勢いに押され、西場拳翔はつい、口を滑らせる。


「えっ。彼女いるのですか」

「えぇえぇ、そりゃいるでしょうよ。こんな細マッチョの美少年に彼女がいないわけないし」


反応する栗色の髪の少女と、軽薄な少年。


「ていうか、現時点で三人しかいない男子の能力の差がおかしいんだけど! どう考えても俺だけすっごい低くないか、既に天と地程の差があるぞ! 絶対詐欺だ!」

「…………ぷ」


少年の物言いに、込み上げてくる笑いを必死で抑える少女。


「おいこら、何笑ってるんだ」

「ごほん。次は私の番ね」


何とか、咳払いをして誤魔化す目つきの鋭い少女。


「私の名前は南里輝夜。同じく泉国高校の一年生よ。高校では剣道部に所属していて、小さい頃から続けてきたわ」

「へぇ、剣道部員か。道理で凛としていて綺麗だと思った」


南里輝夜の言葉に、恥ずかしげもなく爽やか笑顔で答える金髪リア充。


「まぁ確かに、見た目だけは巫女さんみたいなんだよな」

「貴方は少し口を閉じてなさい」


少年の言葉に、南里輝夜は鋭い眼光を向けて戒める。


「ねぇ、南里さんって、うちの高校でファンクラブのある輝夜様じゃないですか?」


俯く少年を無視し、喜色を浮かべて尋ねる栗色の髪の少女。


「輝夜様?」

「はい。泉国高校のかぐや姫って呼ばれていて、切れ長の目と凛とした立ち姿から高校でファンクラブが出来るくらい男子にも女子にも人気なのですよ!」


西場拳翔の小さな疑問に、思わず熱を持って答える少女。


「こうしてお話しできるなんて夢見たいです」

「別に、ただ周りが騒いでいるだけで、たいした事じゃないわ」


少女の言葉に対して、気にしていない風を装っているが、明らかに口角の端が上がっているのが見て取れる。


「所で南里って苗字、南里神社と関係あったりする?」

「…………え」


立ち直った少年は、湧き上がる疑問を口にした。一転して顔が引き攣る輝夜様。


「そんな神社あったか?」

「えっと、確か、高校の近くにある神社の名前がそうだったと思うけど」


聞き覚えのない神社の名前に、二人の少年は首を傾げる。


「俺、友達と良く願い事しに行くんだけど、ずっと気になってたんだ」

「意外だな。何を願ってるんだ」

「もちろん。超絶美少女と出会えるよう、お願いしてます!」

「……そうか」


予想を裏切らない少年の答えに、西場拳翔は嘆息する。


「えっと、一応縁結びの神様なのかな?」

「知らん」

「え、よく行くのだよね?」

「ただ近いから通ってるだけで、神社の名前以外は知らん」

「それで無茶な願い事するとか図々しすぎるからね‼」


少年の物言いにツッコミを入れる金髪リア充。


「そもそも神社って願い事をする場所じゃないから」

「え、そうなのですか」


金髪を掻き揚げる東正義に、栗色の髪の少女が反応する。


「神社は八百万の神様を祀る場所で、日頃の感謝を報告する所なの。近所にあるような神社だとお払いとかはやっているけど、個人的な願い事なんかは、祭神によって出来る所が限られているわね。……家は厄払いの神様だし」


饒舌に語り出した輝夜様。皆、最後の方は聞き取れなかったが、唐突に語られた神社の豆知識に驚きを隠せない。


「……はっ! ほら、話はこれくらいにして次に行きましょう」


自身の犯した過ちを誤魔化すように、南里輝夜は話を逸らした。


「えっと。次は私ですね。北見梨々花です。泉国高校の一年生で、帰宅部です。後、輝夜様や王子の邪魔にならないよう、精一杯頑張ります」


自身のやる気を表現するように、小さくガッツポーズを取る北見梨々花。


「ちょっと待て、王子って誰の事だ?」


北見梨々花の言葉を聞き、疑問を口にする少年。


「東君の事よ。泉国高校の王子様って学校中で有名なのよ。余所からも女子が来るぐらいだしね」

「ちっ。やはりリア充だったか」

「ねぇ、何でまた舌打ちするの!」


南里輝夜の説明を聞き、嫉妬から舌打ちをする少年。


「……北見梨々花」


一人、俯いて考え込む西場拳翔。


「何考え込んでるの、マッチョ君」

「何その綽名」


呼び掛ける少年に、慣れたツッコミをする東正義。


「いや、北見梨々花という名前。部の先輩から聞いた気がしたんだが」

「……気のせいじゃないですか。私そんなに知り合い多くないですよ」


可愛らしい笑顔で両手をひらひらと振る北見梨々花。


「あぁ、思い出した。百人切りの梨々花だ」


突如、マッチョ君の一言に、何故か静まる空気。


「何それ?」

「俺にもわからんが、先輩が言っていた」


訳が分からず首を傾げる男子三人を余所に、南里輝夜は頭を抱えていた。


「……あれか」


自身の考えを整理するように、囁くように一言だけ発する輝夜様。


「もういいじゃないですか、次行きましょう、次!」


不自然な程満面の笑みを湛える少女は、話を促した。


「ふっふっふっ、遂に真打ち登場だな」


顔を掌で覆い、変なポーズを決める少年。


「俺の名前は青葉春人。絶賛彼女募集中の泉国高校に通うピッチピチの十五歳です」


白い歯を輝かせる、残念な爽やかスマイルを決める少年。


「……それじゃ、食事を再開しましょうか」


輝夜様の号令で食事を再開する四人。


「おいこら、俺のカッコいい名乗りを無視するなよ」

「……はぁ」


食事を中断する南里輝夜。


「同じ制服を着ていたからわかってはいたけど。うちの高校って全国から見ても偏差値高いはずなのに、よくあなたみたいなのが入学できたわね」

「まぁ、実力ってやつだな」

「カンニングか、教師を買収でもしたのでしょ」

「酷い‼」


辛辣な物言いをする輝夜様。


「とにかく、あなたの言動は目に余る。きっとこの世界の王様達にも目を付けられたはずよ。連帯責任で私達にまで被害が及ぶかもしれないのだから、十分注意しなさい。わかったわね」

「にしても、本当にこの料理美味いな、流石王様」


輝夜様の忠告を無視し、青葉春人は食事を再開していた。


「聞いてないみたいだね」

「……本当に何なのこいつ‼」


輝夜様の叫びだけが、広々とした部屋に空しく木霊した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ