ギルド職員は見た パート1
※ギルド職員の女性視点にあります。
……どうしてこうなった。
信じられない光景を前にして、ギルド職員をしている女性は呆然と立ち尽くしていた。
彼女の目の前には、うつ伏せに倒れている男とその後ろに佇む男の二人がいる。
一人は、年若く性格に癖もあるが、それなりに経歴を積んでいる腕利きの冒険者。
もう一人は、冒険者になる為に試験を受けに来た、碌な装備を持たない貧民の少年。
先程まで二人の男は冒険者になる為の試験として対人戦を行っていた。
私達がいるギルドの訓練場は受付で申請さえすれば冒険者は誰でも利用でき、冒険者以外でも見学は自由に出来る。これは、危険を顧みない未熟な冒険者達を鍛え、将来冒険者を志す子供達に実際に冒険者の強さを見せることで命の危険がある冒険者全体の生存率を上げる為の試みだ。その為、訓練場には私達以外にも興味本位で試験を遠目に見る観客がいる。
試験の内容は大方の予想通り、一方的なものになった。
今、立っている男の圧勝。この結果は、試験が始まる前、二人の様子を見比べた全ての人間が予想していただろう。審判を務める私自身も予想していた。
ただ、違っていたことと言えば、今まさに立っている男が予想していた人物と違っていた事だけだ。
「これで、試験ってやつは終わりなの? お姉さん」
うつ伏せに倒れる長髪の男の後ろで、木の棒を一本だけ手に持ったみすぼらしい貧民の少年が、何事もなかったかのように朗らかな笑みを浮かべてこちらに話しかけてくる。
私は、目の前の現実から目を逸らすように天を仰ぎ、ほんの少し前の出来事を思い出していた。