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化物と美女なら俺は迷わず後者を選ぶ!

「よくぞ来てくれた。異世界の勇者達よ!」


赤い絨毯の敷き詰められた広い部屋。中世ヨーロッパの王宮を彷彿とさせる柱が周りを囲み、窓も天井も高い広々とした部屋の奥。段差の上から此方を見下ろすように作られた豪華な装飾のついた玉座。


そこに腰掛けた顎に茶色い髭を蓄え、煌びやかな服飾を纏い、宝石が鏤められた王冠を被る如何にも王様風の男は、他者を見下すような視線を向け、大仰に言った。


「ここは何処?」

「何が起きたんだ?」


気が付くと、厳かな空間の真ん中に集められていた五人の少年少女は、見知らぬ場所と、周りを取り囲むテレビでしか見たことのない様な西洋風の鎧を身に纏う兵士達に戸惑っていた。


「なんで私達取り囲まれてるの?」

「それより、勇者って何のことですか?」


同じ学校の制服を着た五人は戸惑う中、次々頭に浮かぶ疑問を口にして、何とか正気を保とうとする。


そんな慌てふためく四人の姿を見て、何が不満だったのか王様は呆れた様に深い溜息を漏らすと、五人の中で唯一、何も語らず、静かに項垂れている者に気付く。


「お主は、儂に言うことはないのか?」


言外に、沈黙する一人の少年を名指しするような王様の言葉に、場が静まり返る。


「……帰せ」

「ほう」

「今すぐ元いた場所に帰せ‼」


怒気を含んだ少年の叫びに、王様は漸く聞きたかった答えが聞けたと満足したように、嫌らしい笑みを浮かべて玉座に凭れた。


「すまんが、お主らを元の世界に帰すことはできん」

「なっ!」


王様の物言いに五人は怒りを覚え、思いつく限りの不平不満を口にしようとしたが、周りを取り囲む兵士達が鋭い槍の先を突き付け黙らせた。


「帰る方法がないわけではない。ただ、その為に、お主らにやってもらいたいことがあるのだ」


そして、王様は家臣を呼びつけると、同じ制服を着た五人に状況説明をさせた。玉座で終始、他者を見下した様な視線を五人に向けながら。









「つまり、僕達に魔王を討伐してほしいということですか?」 


自分達の置かれている状況の説明を受けて、金髪の少年は答えた。


「そうだ。今のお主達は弱いが、いずれ、勇者の恩恵により人知を超えた力を得る。その力を使い、我らが住む人界に攻めてきた魔王を滅ぼしてほしいのだ」


豊かな髭を撫でながら王様は答える。五人は、これまでの説明で、今いる世界が異世界であること、自分達が勇者で、人々が住む大陸、人界を滅ぼしにやって来た魔王を討伐するために、人間達の代表である王国の王様が自分達を召喚したことを知る。


「だが、俺達はこの世界のことを何も知らない」


王様の言葉に反論するように、ガタイの良い少年が険しい顔で告げる。


「心配はいらん。その為に、お主らには暫くの間、この王宮に留まり、我らの世界の知識と戦い方を学んでもらう」


ガタイの良い少年を見ながら王様は答える。勇者として召喚された五人は、王国の城に住み、戦い方とこの世界の知識を学びながら、魔王と戦うための力を蓄えるらしい。


「そもそも、あなた達に協力する意味が分からないのだけど」


目つきの鋭い少女は、今も心に残る不満をぶつけるように言葉を紡ぐ。


「確かに、お主の言う通りだ。だが、説明した通り、元の世界に帰る手段は、魔王を倒すしか方法がない」


王様の言葉に、目つきの鋭い少女は悔しそうに口を噤む。王国には、勇者を召喚する方法は知られていたが、帰す方法はなかった。元々勇者の召喚は、遠い昔に魔族が生み出した魔術を利用したもので、もしかしたら、魔族を統べる王である魔王を倒し、周囲を探索すれば帰る方法が見つかるかもしれないらしい。


もっとも、それらの情報はすべて自分達を無断で召喚した王国の言葉で、信用はできないが、彼らには他に頼れる人間も選択肢もなかった。


「あの、具体的に私達は何をすれば良いのですか?」


怯える幼げな少女は、声を震わせながら王様に尋ねた。


「うむ。詳しいことは後で家臣に説明させるが、まずは、我が国の魔術師団長の許で世界の知識を学び、騎士団長の許で戦い方を学んでもらう」


王様の説明を聞き、小さく頷いた少女。家臣の説明では、まず、召喚時に得た能力の確認を行い、その後訓練を始めるらしい。


「他に聞きたいことはないか?」


この状況に飽きてきたのか、最初の大袈裟な態度が嘘の様に覇気が無くなり、頬杖を突き、欠伸を堪えるように目を細める王様が発言する。


召喚等という名目で、異世界から少年少女を無理矢理誘拐してきた人間の行動としては、問題のありすぎる態度である。


「今すぐ元いた場所に帰せ」

「……はぁ?」


王様の態度を見て押さえていた怒りが再熱し始めた四人を余所に、今迄沈黙していた一人の少年が唐突に言葉を発する。それに対する様に、大きな欠伸をしながら王様は答える。既に王様としての威厳は微塵も感じられない。


「お主、儂の説明を聞いてなかったのか?」

「聞いた」

「なら、元の世界には帰れないことは分かっただろう」


溜息を溢し、心底呆れるように少年を見る王様。


「ならば、話は終わりだ。後は――」

「元いた場所に帰せ!」


険しい顔で睨みつけてくる少年を見ながら、王様は先程より深い溜息を溢す。


「いい加減にしろ。いくら温厚な儂でも、我慢の限界があるぞ」


眉間に皺をよせ、肘掛けを指で何度も叩きながら王様は言う。


「俺は元いた世界に帰せとは言ってない。つい先までいた場所に帰せと言ってるんだ」

「……はぁぁ?」


少年の言っている意味が分からず、王様も家臣達も首を傾げる。


「だから、先までいた所に帰せって言ってるんだ‼」


怒気を込めて発言する少年に戸惑う王国の人達に向かって、金髪の少年が手を挙げた。


「すいません、発言しても宜しいでしょうか?」


王様は家臣達と視線を交わし、金髪の少年に首肯した。


「実は、僕達が此処に召喚される前に、白い空間を通ったのです。恐らく、彼が言っているのは、その白い空間の事ではないでしょうか」

「そうそれ、流石チャラ男!」

「チャ、チャラ……」


若干ショックを受けている金髪の少年を無視し、王様の家臣達は思案する。


「陛下。彼らが言っているのは、聖域の事だと思われます」

「ふむ、そうか」


難しい顔をする王様と家臣達。如何やら、彼らには心当たりがあるらしい。


「とにかく、俺を元いた場所に帰してくれ」

「すまんが、方法が分からん」

「分からんじゃねぇ、今すぐ帰せ! 俺の一生が掛かってるんだ‼」


王様の額に青筋が浮かぶ中、目つきの鋭い少女が尋ねる。


「何よ、その一生が掛かっているって?」

「ちょっと通りすがりの美少女に求婚してきた」

「……はい?」


開いた口が塞がらない少女。

この時点で、何処か険悪な雰囲気が漂っていた室内の空気は完全にブチ壊された。


「貴様、たかが女に求婚した程度で王である儂に意見しておるのか?」

「程度とはなんだ。俺の一生が掛かってるんだ! 魔王討伐なんかより遥かに大事じゃボケ‼」


肘掛けを握る手に力が入り、王様の顔が引き攣る。兵士や家臣達にも動揺が走る。


「よし、分かった。方法がないなら、もう一度勇者召喚しろ。それで俺を召喚すれば問題は全て解決だ‼」

「何さらっととんでもない事要求してるの‼」


思わずツッコミを入れてしまう金髪の少年。


「そもそも、勇者召喚されたから、あの場所に行けたんだろ。だったら同じ事をすれば行けるだろ」

「いやいやいや。そういう問題じゃないから」

「大丈夫だって。ちょっと返事貰いに行くだけだから」

「ちょっとコンビニ寄ってくる、みたいな感覚で発言しないで!」


頭を抱える金髪の少年。見かねたガタイの良い少年は、叫んでいる少年の背後に近づくと、素早く回り込み、綺麗なボディーブロウを決めた。


「ごふぉ……」


呻き声を上げ倒れる少年を見やり、ガタイの良い少年は、王様に話の続きを促した。



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