未知との遭遇は突然に(『未知』が主人公視点とは限りません)
「―――う~ん……」
密林の中にある一軒家。そこにある簡素なベッドの上に寝かされた額に角のある幼い少年がうめき声をあげている。
そのすぐ傍で立っていた残念な少年は、そんなベッドで寝ている幼い少年の事など気にも留めずに、まだ空き巣のごとく物色を続けていた。
「……あれ、ここは?」
そうこうしているうちに、目を覚ました額に角のある少年はベッドから上体を起こした。
それに気付いた残念な少年が声をかける。
「お? 気が付いたかね、少年」
「…………ヒィッ!?」
一瞬ビクッと体を震わせた後、額に角のある幼い少年はベッドから起き上がった状態のまま、端の方へと慌てて後退した。
「……あのさ、どういうつもりかは知らないけど、俺にはちゃんと足があんだからな?」
「…………はい?」
そんなあからさまに怯えている幼い少年を前にして、何が気に入らないのかムスッとした顔をしながら、その場で軽く地団駄を踏んで見せる残念な少年。
「まったく。こんな簡単に床の抜け落ちるようなボロイ家の中で会ったからってな、まるで人の事を幽霊のように扱いやがって、本当に失礼な奴だ!」
自分の過去の行いは棚に上げて、腰に手を当てて憤慨する残念な少年。
とある教会において、ただ一人の心優しい牧師に向かってスケルトン呼ばわりをし続け、果ては成仏と称して出会い頭に清めの塩と聖水をぶっかけ続けた人間の言葉とは思えない発言である。
「……えっと、……すみません?」
若干動揺を見せながらも、先程まであった怯えを感じさせない様子で額に角のある幼い少年は、小首をかしげて、憤慨している目の前の男によくわからない謝罪をした。
「まあ、分かればいいのだよ、分かれば」
「……あの、すみません、何があったのか説明してもらえませんか?」
「ん? ああ、いいぞ」
何故か偉そうに胸を張っている残念な少年に対して、不安そうに周囲へと視線を走らせた額に角のある幼い少年は、自分の状態を確認しながらゆっくりと深呼吸をした後、質問を投げかけた。
「まぁ、説明って言ってもな。俺のことを見てビビッて走り出したお前が、脆くなってた木床を踏み抜いて下に落ちたんだよ。そんで気を失ってたお前を見つけて、見た感じ怪我もなさそうだったから、とりあえずこのベッドまで運んで寝かせてたわけだ」
「……あぁ、そうだったんですね。……えっと、なんといったらいいか、ご迷惑をおかけしました」
「別にいいって、気にするな」
お礼を言いながら頭を下げてくる幼い少年に、ヒラヒラと片手を振りながら事も無げに返事をする残念な少年。
「それでさ、俺からも質問していいか?」
「あ、はい、どうぞ」
「お前さ、こんなところに一人で何してたわけ?」
未だに状況をうまく呑み込めていない幼い少年の様子を無視して、自分のペースで話を続ける残念な少年。
そんな残念な少年の投げかけた質問に対し、額に角のある幼い少年は何故か俯いてしまう。
「えっと、それは……」
「……なんだ。別に言いたくないなら言わなくてもいいぞ?」
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
「じゃあ、問題なく言えるんだな?」
「あぁ、えぇ、まぁ、問題はないんですけど……」
焦ったように何度も目を泳がせながら言い難そうにしている額に角のある幼い少年。そんな中、残念な少年は、幼い少年を前にして、またも眉間に皺を寄せた不満そうな顔をつくり始める。
「だぁもう、メンドクセイな! なんなんださっきから、支離滅裂な事ばかり言いやがって! 男だったらはっきりしろや!」
「はい、すみません!!」
声を荒げる残念な少年に対して、ベッドに腰掛けた状態のまま、すぐさま背筋を伸ばしてから頭を下げだしてしまう幼い少年。その動作には一切のよどみがなく、彼が普段から謝り慣れているのだという事実を思い起こさせた。
……因みに、この時の残念な少年の発言は完全なブーメランになっているのだが、その事実に本人は全く気が付いていない。
挙動不審な態度から一変し、理由はどうあれ腹の底から声を出してシャキッとした態度を見せた額に角のある幼い少年は、しばし呼吸を整えるように間を開けた後、徐に話し始めた。
「言いにくいんですけど。実は、僕、いじめられていまして……」
「ふむふむ、それで?」
「……その、いじめっ子たちに僕の大切にしていた宝物を取られちゃって、それを遠くにあって今は誰も寄り付かないこの家の中に隠されてしまったんです」
「ふ~ん、それでわざわざそれを一人で取りに来たわけか」
「……はい」
「……なあ。気になったんだけど、なんで、それでお前一人が探しに来ることになるんだ?」
「…………はい?」
またも可笑しなことを言い始める残念な少年を前にして、キョトンとした表情になる幼い少年。
「いや、だってさ。元はと言えば、そのいじめっ子のせいなわけだろ? だったら、そのいじめっ子に責任を取らせるのが筋じゃないか?」
「……そんなの無理ですよ。そもそも、抵抗できるなら虐められたりしてません」
「いやいや。仮にお前には無理だとしても、お前の親にいじめられたことを報告するとか」
「……前に話したことがあるんですけど。うちの親って厳しくて、『自力で何とかしろ!』って怒られました……」
「ふーん。じゃあ、いじめっ子の親にチクればいいだろ?」
「…………え?」
唐突な話の流れに、何度も目を瞬かせる額に角のある幼い少年。
「それがダメなら、周りにいる奴ら全員を巻き込めばいいだろ? どうせ、いじめなんかされている時点で恥も何もないんだから、自分がいじめられている事実を大々的に公表して、いじめっ子どもの居心地を悪くしてやればいいじゃんか!」
「……えっと、さすがに、それはちょっと……」
「ハァ~、ヤレヤレ、我儘だな。……だったら罠でも張ってから、生け捕りにでもするか?」
「は? 生け捕り?」
「とりあえず経験者である俺のオススメとしては、網やロープを使って吊るすタイプの罠か、落とし穴なんかが良いと思うぞ!」
「…………」
かなり脱線し始めた話の流れに、訳が分からず頭を抱えて沈黙してしまう幼い少年。ついに、柔軟な思考を持つはずの幼い子供まで、残念な少年は困惑させたようである。
そんな沈黙している幼い少年とは裏腹に、元気よく親指を立ててサムズアップを決めている残念な少年の姿は、何ともシュールであった。
「…………あの、僕からも質問していいでしょうか?」
「なんだ? ……もしかして、罠を張る以外で、もっと効率的に相手を泣かせるための方法を知りたいと?」
「違います」
雰囲気を出そうとしてか顎に手を当てて難しい顔をつくっている残念な少年の発した言葉に、少しだけ食い気味に反論する額に角のある幼い少年。
「……その、お兄さんって人族ですよね?」
「は? なんだその質問は? 俺はどっからどう見ても人間だろうが」
「…………えっと」
恐る恐る尋ねてくる幼い少年の問いに、不思議そうな顔をしながら答える残念な少年。その答えになっていない答えを聞き、幼い少年はまたも戸惑いをみせる。
「より正確に表現するならホモ・サピエンスだな!」
「???」
異世界では耳にした事もないであろう言葉を聞かされたことで、頭にクエスチョンマークを浮かべてますます混乱し始める額に角のある幼い少年。……この場にツッコミを入れられる者がいないことが、なんとももどかしい。
「……とりあえずお兄さんが人族だとして、どうしてここにいるんですか?」
「……ふ、愚問だな。そんなの奴隷を返品するために決まっているだろう!?」
「………………決まってはいないと思いますよ?」
タップリと間を開けてから、絞り出すようにしてツッコミを入れる幼い少年。この時、「奴隷の返品って何?」とか「こんな所に一人でいた理由が聞きたいんですけど?」など、他に色々言いたい内容があったにも関わらず、彼はグッと堪えていた。
「それじゃあ、どうやってこの島まで来たんですか?」
「そんなの船以外に方法はないじゃんか」
「……えっと、そうじゃなくて、一人で島まで来られたのか、それとも他の人と一緒に来たのかっていう話で……」
「ああ、なるほどな。一応は返品する予定になってる毒舌鬼メイドと、船の団体に乗せてこの島まで俺達を運んでくれた提督と名乗る色黒イケメンと、その他大勢である汗臭いオッサン集団と共にこの島まで来たぞ」
「…………」
ついに、額に角のある幼い少年は、顔を両手で覆いながら天を仰ぎ始めた。
「ところでさ、お前がここまで来て探してた宝物ってのは見つかったのか?」
「……いえ、それはまだ……」
傍から見ていても理解できるあからさまな動揺をしている幼い少年の態度を意にも介さず、どこまでも自分のペースで話を続ける残念な少年。
そんなどこまでも自分本位な調子が意外にも幸いしたのか、額に角のある幼い少年はなんとか気を持ち直した。
「因みに、その探し物ってどんな物なんだ?」
「えっと、見た目は片手に収まるぐらいの大きさをした石なんですけど……」
「ふむふむ、……ひょっとしてこれのことか?」
「あ!?」
幼い少年の簡易的な説明を耳にして、ふと何か思い至った残念な少年は徐に懐を漁り出すと、見たところ特に何の変哲もない一つの石を取り出した。その石を見て、目を丸くしながら驚きの声を上げる幼い少年。
「そう、それですよ僕が探してたの! どこで見つけたんですか?」
「いやな、俺がこの家に来た時に家の中に何があるのか気になって視界に入った戸棚や引き出しなんかを片っ端から開けて色々と探索したんだけど、その時にたまたま見つけてさ。見た目は普通の石ころなんだけど如何にも不思議な雰囲気があったから、折角だし、島に上陸した記念の土産にでもしようと思って持ってたんだよ」
「なに人の宝物を勝手に土産にしようとしてるんですか!? ……ていうか、そもそも無人の家に土足で上がった挙句に、その家にある物を無断で漁ってから持っていくなんて、完全に泥棒じゃないですか!?」
残念な少年の発言に対して、至極まっとうな正論を淀みなく返す額に角のある幼い少年。
「ハァ~、ヤレヤレ。あのな、お子ちゃまには理解出来ないのかもしれないが、世の中ってのは、生きていくためにも時に道理に反していたとしても実行しなきゃいけなくなる瞬間があるんだよ」
「いやいやいや! 何もっともらしいこと言って、泥棒してた事実を正当化しようとしてるんですか!? 大体、生きる為って。絶対にそんな納得のできる理由で動いてないでしょうが!!」
どこまでもウザい態度で接してくる残念な少年を前にして、捲くし立てる様に声を荒げる幼い少年。そこには、つい先ほどまであった怯えや不安げな様子は一ミリも感じられない。
「ていうかさ、宝物っていうけどこの石って見た目的には分からないんだけど、もしかして何か特別なものなのか?」
「……なにを、わざとらしく話を逸らそうとしてるんですか。……それよりも、いい加減に僕の宝物を返してくれませんか?」
わざとらしく考え込むような仕草をしながら、話の流れをぶった切る様にして唐突に話題を変えた残念な少年に、額に角のある幼い少年はなんとも冷え冷えとした視線を向けながら告げた。
「ああ、ごめんごめん。すっかり忘れてた」
「…………はぁ」
あっけらかんとした態度で石を渡す残念な少年。そんな態度を前にして、哀愁を漂わせながら深い深いため息を溢してしまう額に角のある幼い少年。この短い間に、幼い少年の態度や印象はだいぶ変わってしまった。
「……一応、さっきの質問にお答えしますと、これは見た目通りのただの石というわけではありませんよ。『魔石』といって、魔力を流すことで不思議な効果を発生させることのできる石なんです」
「おお、魔石! ついに出てきたか、ファンタジー世界のド定番め!」
「???」
急に大声を上げて興奮しだした残念な少年に、思わずビクッと肩をふるわせる幼い少年。
「それでそれで、その石ってどうやったら手に入れるんだ? やっぱり魔物の死骸を解体して取り出すのか?」
「違いますよ」
「だったら、なんか専門の職業の人とかが石に魔力を流したりとかして手作りするのか?」
「……違います」
「……え? じゃあ何、まさかとは思うけど、魔力を持っている生き物から直接、臓器の摘出手術みたく抉り出すわけ。……流石に人でやるとは思えないけど、生きたままとか魔物でもちょっと―――」
「そんな非人道的な方法なわけ無いでしょう! 何でそう極端な発想しかできないんですか、あなたは!?」
最初こそ子どものような妙なテンションで質問をしていた残念な少年だったが、自分の予想していた現状との乖離を自覚してか、徐々に意気消沈していき、最後にはマジメに対応していた筈の額に角のある幼い少年をまた怒らせてしまう。
「えぇ~、だってファンタジー小説とかの基本だとな……」
「よくわかりませんけど、現実と妄想をごっちゃにしないでください。念のため言っておきますけど、この『魔石』というのは、鉱山なんかでとれる鉱石の一種なんです」
「へ、鉱石? そんなベタな設定なの?」
「……いや、設定とか言われても困るんですけど。それに、魔石自体はそんなに珍しいモノじゃありませんから、多くの人が集まっている国や街なんかでは日用品として使われているそうですし、魔道具の材料として重宝されていると聞いた事がありますから、お兄さんもどこかで見た経験ぐらいあると思いますよ」
ジトッと視線を送りながら丁寧な説明をしてくれる幼い少年。そんな幼い少年を前にしながら、少し俯きながら腕組みをして何かを考えこんでいた残念な少年は、何かを思いついたとばかりに、ふと顔を上げてから朗らかな表情とともに手を打った。
「そうか、なんか見覚えがあると思ったら、それに似た石を、前にゴブリン爺ちゃんの所でも魔道具つくるときに使う大事な材料の一つだっていうから、見せてもらったんだよ。なるほどな。そりゃ~、違和感もあるわなぁ~」
「……ゴブリン?」
一人で納得してアハハと笑い声をあげている残念な少年に、ますます困惑する幼い少年。
「じゃあさ、その石もどこぞの鉱山とかで掘り出された物なんだろ。なんで宝物なんだ?」
「……えっと、それは、ちょっと言いにくいんですけど、僕が子どもの頃に大切な人からもらった物なんです」
「……ほうほう。……因みに、その大切な人と言うのは、女性ですかな?」
「……何ですかその喋り方。……まあ、そうですけど……」
「ほっほっほっ。細かいことを気にしていたら大人になれないよ、チミ」
「…………なんというか、物凄く腹が立ってくるのでやめてもらえませんか、その喋り方」
何気ない調子で発せられた質問に、額に角のある幼い少年は、なぜか言葉を濁しながら照れた様子を見せつつ宝物の経緯について語る。そこで、幼い少年の心の機敏を、普段からは考えられない敏感さで素早く察知する残念な少年。
ニヤニヤと喜色の悪い笑みを浮かべると、わざとらしい演技を始め、みょうちくりんな話し方をしてくる残念な少年に対して、ムッとした表情をしながら眉間に皺を寄せる幼い少年。
「何か誤解をされているみたいですが、僕はその人に対して恋愛感情を抱いているわけではないですからね。あくまで姉として信頼しているだけで……」
「あぁ~はいはい、わざわざ言い訳などせずとも理解しておりますよ、チミ」
「……何でだろう、無性にこの人を殴りたい……」
どこまでもふざけた態度を崩さない残念な少年を前にして、幼い少年は拳を堅く握りながら、必死で何かを堪えるようプルプルと震えていた。
「で、その魔石っていうのは単体でどんな効力を発揮させられるんだ?」
「……はぁ。……えっとですね、僕の持っているこの魔石だと、魔力を流すことで火を起こすことが出来ます」
「おおぉ、火か!」
「……一体どんな想像をされているかわかりませんけど、火と言ってもこんなのですよ?」
そう言うと、額に角のある幼い少年は相手に見えるように、その手に持った石を前に掲げた。そして、数瞬の後、ボッという音と共に幼い少年の持つ石の先から、種火と呼べるくらいのとても小さな火がともった。
そんな中、興奮した様子をみせていた残念な少年は、キョトンとした表情でしょっぼい種火を眺めて数度瞬きをすると、まるでパンパンに膨らんだ風船が時間の経過とともに萎んでいくかのようにテンションを下げていった。最後には何故か俯きがちになり、表情を消して静かに地面の方を見つめていた。
「……なんだ、石型をしたライターみたいなもんじゃんか。……なんなんだよ、このファンタジー世界は、こんな簡単に幼気な少年の夢と希望を崩すなんて。……ホント、異世界嫌い」
「…………お兄さんは、情緒不安定なんですか?」
あまりにも落差の激しい残念な少年のテンションに、タップリと間を開けてから、ため息混じりに呆れたように言う幼い少年。
「そもそも魔石というのは魔道具の材料になるような、いわば資源ですよ。もしも、それ自体で高い効果を発揮できてたら、わざわざ魔道具とかに加工してしまうような手間のかかる作業をする必要性がないじゃないですか」
「まぁ、うん。言われてみれば、確かにそうなんだけどさ……」
正論を述べてくる額に角のある幼い少年に、まだ納得がいかないとでも言いたげな表情をする残念な少年。
「あ~あ。魔石なんて大層な呼び方するぐらいならさ、せめて、このボロ家を跡形もなく粉砕できるくらいの火力が欲しかったなぁ……」
「なに、サラッと怖いこと言ってんですか! そんな物騒なものが日用品扱いで簡単に手に入るわけがないでしょうが!?」
「…………確かに」
ようやく腑に落ちたのか、幼い少年の捲くし立てるような言い分に対して、腕を組んでから何度も頷いてみせる残念な少年。
「で、その宝物とやらをくれた人っていうのは、何をしている人なんだ?」
「……何でそんなこと聞くんですか?」
「いや、何となく。わざわざ魔石を贈るって、採掘の仕事か、もしくは魔道具作成に関わってる人なのか気になってさ。……まあ、別に言いたくないなら、言わなくていいけど。」
わざとらしく肩をすくめてみせる残念な少年に、またもため息を溢してしまう幼い少年。
「……僕にこの魔石をくれた人は、別に鉱山で働いていたわけでもありませんし、魔道具の職人でもありません。……ただ、僕たちの住んでいる集落でちょっと偉い立場にある人で、この島にある山で初めて取れた特産として記念に貰った物なんです」
「ふ~ん。それってつまり、族長の一人娘とかか?」
「………………違いますよ」
顎に手をやって少し首を傾げながら言った残念な少年の質問に、なぜか視線を逸らしながらたっぷりと間を開けてから返答する幼い少年。そんな姿をみて、いやらしく目を細めてニヤニヤ笑いを浮かべ始める残念な少年。
「ほうほう。その反応を見るに、外れてはいたものの、かなり核心に近いところをいったようですな」
「……いや、別にそういうわけじゃ……」
「ズバリ! 一人娘ではなく、孫娘とみた!」
「…………」
「……ふ、どんなに大人ぶった所で、所詮はお子ちゃまよ。この俺様を前にして、そう簡単に隠し通せるとでも思ったか」
本当に幼気な少年をイジメるように、ふざけた態度をまったく崩さない残念な少年は、サスペンスドラマで探偵が犯人を名指しするときのように、その人差し指を額に角のある幼い少年の方へ突き付けて叫ぶと、幼い少年は思わず視線を逸らしながら沈黙してしまう。
それを見て、余計に増長したのか、得意げに笑みを浮かべながら残念な少年は腰に手を当ててから胸を張った。……正直、傍から見てもメチャクチャ大人げない光景である。
「……まぁ、それはそれで置いておくとして―――」
「また、唐突に……」
「探してた宝物が見つかったわけだけどさ、お前はこのまま帰るの?」
「……そりゃ、目的が達成されたわけですし、集落に帰りますよ」
コロコロと話を変えてくる残念な少年に、なんとも白い眼を向ける幼い少年。そして、ふと残念な少年のした質問に対して、不思議そうにキョトンとした顔をしてしまう。
「いやな。確か、その宝物っていじめっ子に盗られてここに隠されてたんだろ。だったら、このまま戻ったとしても、またいじめっ子に盗られて、今度はもっと探すのが困難な場所に隠されるかもしれないじゃんか」
「…………」
今度こそ盗られないように守る、という否定の言葉すら吐くことが出来ず、額に角のある幼い少年は沈黙してしまう。それを見た残念な少年は、いつもの調子を崩さずに口を開く。
「ヤレヤレ、ノープランとはな。……しょうがない、そんなお子ちゃまのために、この俺が一肌脱いでやろう」
「…………え?」
残念な少年の発言を耳にして、幼い少年は俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「まあ、任せておけ。いじめっ子歴十数年の大ベテランである俺様が、真のいじめというものがどういうものなのか、タップリと教えてやるから」
「……えっと。……申し訳ないんですけど、遠慮して―――」
「そうと決まったら準備もしなきゃいけないし、早速行くぞ! さあ、お前らの住んでる集落のある場所までレッツゴーッ!!」
「話聞いてっ!?」
そうして、徐に首根っこを掴まれた幼い少年は、そのまま猫でも抱えるかの如く残念な少年に片手で抱えられると、もう片方の手で握り拳をつくり天に向かって突き上げ妙なテンションになっていた残念な少年とともに、小屋の外へ飛び出していた。
そして、何のためらいもなく奇行を繰り返す人族の少年と、それに困惑してただただ嘆く鬼族の少年のふたりは、うっそうと茂るジャングルの中を駆け抜けていった。